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A4
2025-04-23 00:35:58
4387文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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虚にて/ lighterwise
特にヤマもオチもないんですが、助手2号のお兄ちゃんの妹を待つ心境ってどうなんだろ〜と考えながら書きました。ほんのりイトアキです。キスしてるからほんのりじゃないかもしれん。
プロキシが生身でホロウに入れる。
その情報は邪兎屋を通じてカリュドーンの子に伝えられた。
手引きをしたのはメイフラワー市長、その子飼いのヴィクトリア家政とのこと。
ボンプの小さな体、短い手足で精一杯、エージェントたちについてきたプロキシが自分の身体で同行するというのは、当初、いいことのように聞こえた。だが、シーザーたちの胸中はざわついた。
ホロウ探索において一番多くの犠牲を出しているのは、恐れ知らずのレンジャーたちであるというのは周知の事実だが、その次はプロキシであったりする。彼らは自らの依頼人を助けるためルートを開いて、生きて帰すことを使命としているのだ。どんなに銭勘定にうるさくて、どんなに悪辣な素性の者であっても、プロキシの矜持は失われないらしい。もちろん、例外はあるのだが。
パエトーン兄妹の強みはボンプと感覚共有をし、同期してホロウ探索ができ、リアルタイムにホロウの内外でインタラクティブに通信ができたことにある。それがボンプなしでもできるというのも大したものだが、「ボンプであれば使い捨て」できる、という最後の砦がなくなり、無防備に姿を現すことになる。これは、よくないことではないか?
もともとエーテル耐性が皆無という話だったのに、何故、耐性がついたのか。
H.D.D.システムの更新によるものだと、プロキシ本人からの説明があったが、素直に納得できるものではなかった。
郊外のホロウに入る、と連絡があったのが未明。
その夕方には二人のプロキシがビデオ屋の社用車に乗ってやってきた。
リンはあっけらかんと仕事の概要を伝え、ライト、パイパー、ルーシーが同行することになった。
兄のアキラはいつも通り、システムから遠隔で連携するらしい。そこはイアスの中にリンが入るときと変わらないのだった。変わったのは、イアスが留守番をしてリンが出かけることだ。
パイパー、ルーシーとルートの打ち合わせをするパエトーン兄妹の姿を、ライトはサングラスの隙間からそっと観察した。不安を隠せないルーシーを元気づけるようにリンは明るく振る舞っている。事実、彼女は快調のようだ。その後ろで、穏やかな微笑みをたたえながら、アキラがリンに口添えをする。
あんなに妹を大切にしているアキラが、リンの行動を許すのだろうかと、ライトは内心いぶかしんでいた。が、一連のやりとりを見るに、彼は受け入れているらしい。
「行ってらっしゃい、リン。気をつけて。調子が悪くなったらすぐ連絡してくれ。なんとしても助けるから」
「うん、お兄ちゃん、よろしくね」
ホロウの入り口で、兄妹は三人に見守られながら、こつんと拳を合わせる。それは、戦士たちがお互いを鼓舞するような力強いものではない。お互いを慈しむような、やさしいふれあいだった。
伝説のプロキシと名高いパエトーンの働きは、いつもと同じだった。的確なルート選択。状況を観察して戦術の提案。それに、ホロウの空間認識。どれもプロキシならばできて当然のスキルなのだろうが、それにしても、二人の連携と情報共有の速度は他の同業者を凌駕していた。刻一刻と変化するホロウでは地形とエーテル活性の把握は何よりも優先されるべきことで、多くのプロキシはそのデータ取得に一定の時間を有する。二人の兄妹ならば、降り立った瞬間に、その場を掌握する。
リンの様子はボンプのときと変わらなかった。ただ、ホロウに入るとイアスと同期していた癖が抜けないのか、移動は若干危なっかしかった。目に見えている景色と脳が記憶している景色が違うらしい。それを知って、ライトは極力、リンの側にいた。彼女が転びそうになったら、いつでも支えられるように。それが今回の仕事での、己の使命だと思った。
今回の依頼人は出来心で盗んでしまった財布をホロウに投げ入れてしまったらしい。
それは新エリー都のホロウでの出来事で、どういう経緯で郊外のホロウにやってきたのかは定かでない。しかし、追跡したところ、それは確かにうち捨てられたかつての街の一角にぽつんと落ちていた。
リンが拾おうとするのを止めて、ルーシーが財布を手に取った。刺繍の施された長財布で、女性もののようだった。中身を確認すると、現金はほとんど入っておらず、パラフィン紙に包まれた写真が数枚、あった。後はカード類だった。
「依頼人の情報と一致する。それに間違いないだろう。リン、探索は終了だ。一番近い脱出ルートを送る」
アキラの声がして、ルートが指し示される。サポートに優秀なAIがいるとはいえ、兄の技量も確かなものだった。
ブレイズウッドに帰ると、アキラが一同を出迎えた。
「おつかれさま。リン、調子は?」
「絶好調だよ。でも、たくさん歩いてちょっと疲れちゃった」
「僕も君も運動不足気味だからね。今まではイアスに走ってもらっていたし。これを機に、ジムにでも通ってみようか」
「そんなの、私たち、すぐ三日坊主になっちゃうよ」
リンから長財布を受け取ると、アキラは社用車のトランクに仕舞った。
カリュドーンの子の三人にも柔らかい笑みを向ける。
「ありがとう、手伝ってくれて。今回の報酬は多くないけれど、カリュドーンの子宛に入金して置いた。ルーシー、後で確認しておいてくれるかい?」
「相変わらずそつがありませんこと。迅速な対応、とてもありがたいですわ。領収証はいりまして?」
「我が家はペーパーレスを推奨してるんだ。振り込み確認だけで事足りるから、いらないよ」
ルーシーとの事務的な会話が終わったのを見計らって、パイパーが眠そうに瞬きをしながら言った。
「仕事も順調に終わったことだ、ちょっくらチートピアで甘いものでも食べようぜぃ」
その提案には誰もが賛成し、五人でチートピアに行く。カーサは快く出迎え、注文を取った。ついでに、収支報告もパエトーン兄妹にしていく。
ダイナーのテーブルで、ライトはアキラの向かいに座っていた。
かしましいリンとルーシーとパイパーはでかぶつが通路にいたら邪魔だろうといって、二人を奥の席に追いやったのだ。
運ばれてきた、チョコレートシロップがたっぷりかかったマグカップのパフェにスプーンを突き立てて、ひとさじすくい、アキラが口に運ぶ。アキラは目をつむり、しばらく味を堪能していた。
「目が覚めるような甘さだ」
「そんなにか?」
口をもごもごさせているのがかわいく見えて、ライトは笑いながら尋ねた。
「ああ。舌がしびれそうだよ。ライトさんも食べてみて」
スプーンに生クリームとチョコレートシロップとフレークと果物がのせられて、口の先までアキラが差し出す。
ライトはかたまった。周囲を確認すると、パイパーがにこにこして、リンは面白そうに笑い、ルーシーは興味深そうにこちらを見ている。スプーンを差し出したアキラは首をかしげた。
「一口どうぞ」
「ああ」
四人の視線に耐えられず、ライトは口を大きく開けて、ぱくりと食べた。
確かに、甘味のコンボはよく効いた。
なんとか飲み込んで、水をがぶ飲みする。
「ほらね、甘いだろう」
「お兄ちゃん、私も一口」
「君はダメだ。虫歯になる」
「えー、何それ」
「僕が責任を持って食べるから、頼んだホットケーキで我慢して」
アキラは言うと、ゆっくりとパフェを食べた。
シロップのたっぷりかかったホットケーキを食べて、それについてもリンは「甘い!」と一口食べるごとにうめいていた。
夜も更けて、パエトーン兄妹の二人は郊外を後にすることにした。
車の運転席のドアに腰を預けて、アキラはリンを待っていた。シーザーとバーニスに挨拶しにいくといってから、時間が経っている。
ゆらりと影が動いて顔を上げると、ライトがいた。
「今日はありがとう。あなたがいて本当に助かった」
「俺は何もしちゃいないさ。エーテリアス退治は当たり前のことだ」
「リンを気にしてくれていただろう」
「まさか、生身で入るとは考えもしなかったからな」
「僕はまだ適応できていなくて、彼女のそばにはいられないんだ」
「ボンプと同期できる能力があるのに、それを使わないのは何故だ」
「理由はいくつかあるけれど、一つは、イアスが家族だからだよ。いつも危険な目に遭わせている。僕らはそれが嫌だった。イアスは役に立てないって嘆いていたけれどね。五体満足でいてくれるほうが僕らは嬉しい」
「その代わりに妹が傷つくかもしれん」
「うん。僕が行けたらどんなにいいか。でも、現実はそうじゃない」
アキラは口を閉ざした。
大いなる目的のためには、ホロウ探索は必須だった。
もう何も失わないために、リンは自らホロウに潜る。
アキラにできることといえば、最大限彼女をサポートすることだけだった。そして、彼女を守るエージェントたちが高いパフォーマンスを発揮できるよう、必要な情報を送ることだけ。
「ライトさん、リンを頼む」
「ああ」
「でも、リンを口説いたりしたら、僕はうっかり、ホロウの深部にあなたを送ってしまうかもしれない」
「話が飛躍したな」
「してない。守るためとはいえ、リンにちょっと近すぎた」
「無茶を言うな」
「できれば3メートルくらい離れていてほしいんだけれど」
「護衛対象だぞ」
「チャンピオンなんだろう、なんとかしてくれ」
アキラは半眼になってライトを睨んだ。ライトは肩をすくめる。
「俺があんたの妹に手を出すわけがないだろう。口説いたことだってない」
「そう? その割にはリンと出かけてるじゃないか」
「あんたの妹からお誘いがあったら無碍にはできん」
「そういうときは僕を呼ぶこと。同席するから」
人差し指でライトの胸の真ん中を突いて、アキラは言った。
「リンに勘違いさせないように、適度な距離を守って、必ず彼女を守ること」
「善処する」
「約束だよ」
「ああ。誓おう」
突きつけられた指の先には認識票があったが、アキラには知るよしもない。
ライトはじっとアキラの顔を見つめた。
「なんだい」
「キスがしたい」
「唐突だな」
「前払いみたいなものだ」
「僕とのキスって、通貨だったんだ」
「あんただけにしか通用しないがな」
「いいよ、どうぞ」
アキラは目を開けたまま顔を傾ける。ライトは覆い被さり、唇にかぶりついた。触れて、舐めて、口をこじ開けて、舌を絡み合わせる。その間アキラは微動だにせず、ただ、熱い息を吐いた。
ホロウに入る一行を見送るアキラの姿は、一人取り残された者のそれだった。
彼を待たせることに、ライトは焦燥感を抱いた。
リンを守るのは彼のためだ。彼がそう望むから、ライトはその意を汲んで行動する。
妹を待ち、ホロウを遠い目で見つめるアキラの顔は真っ白だった。
どうにもしてやれず、ライトはただ、隣に寄り添った。
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