らい
2025-04-22 21:00:25
4507文字
Public レオいず
 

レオいず30days㉒「絵巻・自由の寅(改訂版)」

パラレル・パロディ編② お題「虎」
※虎×鹿
※ちょっぴりエ〇チ(十八禁相当の描写はありませんが、肌を露出する場面を含むため隔離しています)


 自由の寅に出会ったが最期、故郷の土は二度と踏めまい。遥か古来の絵巻には、獰猛な獣に変身し、民を切り裂く寅の王が描かれている。しかし村人たちは、口を揃えて「いつの話をしておるか」と笑う。長年のあいだ語り継がれてきた噂は、今となっては夢まぼろし。足繁く通うほどに愛している美しい鹿のおかげで、自由の寅はすっかり丸くなったのだ。
 濃緑に生い茂った森のはずれ。仕事を終えて帰還した『自由の寅』ことレオは、小屋の扉を叩く。二回、三回と繰り返せば、やがて静かに戸が開かれた。
 朧花の咲くツノに、まばゆい月の飾りが揺れる。美しい鹿の泉が、「遅ぉい」と顔を出した。

「この俺を待たせるなんて、チョ~生意気ぃ」
「すまん! ……ほら、こないだの大雨で、村唯一の橋が崩落しただろ? 元通りになるまでは、険しい山道をぐるりと大回りしなきゃいけない。あの辺に住んでるおじいさんおばあさんにとっては、買い物をするにも一苦労! ……だから『虎』に変身して、隣村まで送り届けてきたってわけだ!」
「ふぅん。泣く子も黙る自由の寅が、いまとなっては老人のお手伝いなんてねえ。大昔は、女子供にさえ容赦ない野蛮な王、なんて恐れられてたっていうのにさあ」
「むむう。根も葉もない噂を信じおってからに。『残虐な寅の王』は、おれが追っ払った山賊たちに捏造されたホラ話!」

 逆恨みによりでっち上げられた絵巻のせいで、無害の虎であると証明するのに百年以上も掛かってしまった。おかげさまで泉とはじめて出会ったときも、えらく警戒されたものである。ひとめぼれの勢いで「おれのお嫁さんになってくれ!」と口説いたせいもあるけれど、最初のうちは美しいおみ足で蹴っ飛ばされてばかりであった。
 来る日も来る日も「しつこい虎、嫌い!」と追い返され、やっと敵意なく接してくれるようになったのがここ数十年のこと。

……って、それとこれとは話が別!」

 凛々しい眉を吊りあげて、泉が詰め寄る。約束の時間に到着しなかったので、機嫌を損ねてしまったらしい。レオは両手を押しだして、ぷりぷりと怒る泉を「待った、待った」といさめた。
 このままでは、気高き脚蹴りをくらわされる。べっぴんの鹿は、怒ると怖いのだ。

「わかった、わかった! どんな事情があれ、待ち合わせに遅れるのは良くないよな! ごめん! セナは悪くない! ちっとも!」
「俺が悪いわけないでしょ。……まぁあんたの性格的に、困ってるジジババを放っとけないだろうし? 別にそれはいいんだけど。……ただ」
「ただ?」
「あんたのこと…………ずっと待ってたんだから」

 三日月の谷間からむわっと広がる色っぽい香りに、レオは喉を鳴らす。そうして僅かに空いた扉のすきまに身体を滑り込ませて、「おれも、会いたかったよ」と戸を閉めるのだった。

 
 
 

「子鹿は? 元気にしてるのか?」
「うん……。昼はいっぱい走り回ってたから、いまは疲れてぐっすり寝ちゃってる」
「それじゃあ、今晩は……おれとセナだけの、ふたりきりの時間だな」
……んっ」

 長椅子に腰かけて、鹿の艶やかなくちびるをそっと奪う。快感から逃がれるようにうねる泉の細腰を愛撫しながら、レオは接吻を重ねた。
 月光色の美しい髪をとかすように後頭部を支えて、深々とくちづける。期待に震える舌をちゅくちゅく吸っていると、やはり寝室で眠っている子鹿が気になるのか、泉はかぶりを振ってレオの胸板を押し返した。互いの唇に透明な糸が引き、熱っぽく潤んだ瞳がレオに訴えかける。

「あの子が、起きちゃう……
「こどもは夢を見る時間だよ。おれたちは、おれたちの夢を見よう。……セナは、嫌?」
「んっ……。はぁっ……

 くちゅくちゅと水音を響かせながら、より深い角度で唾液を送り込む。眉間の三日月が揺れるたび、泉は「がっついちゃ駄目……」とぼやいた。そのくせ、熱に浮かされた声で「あっ……」と甘い声を漏らすものだから、レオはたまらず美しい角に吸いついた。
 湖を舞う水蛍を想像させるツノを丹念に撫でると、泉の呼吸間隔はより狭くなる。曲線をなぞるように上下に扱けば、泉の整った眉は、水面に揺れる波紋のごとくとろけた。上半身をいやらしく反らして、白い首筋をあらわにする。

「んっ……。しごいちゃ駄目ぇっ……
「そのわりには、腰が揺れてる。……おれに触ってほしかったのか?」
「あ、んっ。はぁっ……。しゅこしゅこ、しないでっ……そこ弱いの、あっ」

 枝分かれした先端から付け根まで激しく擦ると、泉はひときわ高い声で悶えた。白梅の装飾が施された帯をするりと外し、華奢な肩を露出させると、泉は生娘のようにしおらしくなる。、

「んん……っ」

 美しい鎖骨を吸えば、泉は甘く悶えた。
 紅潮する絹肌、続きをねだる喘ぎ声。欲しくてほしくてたまらない。ともすれば牙を剥いてしまいそうだ。レオは虎の本能に抗いながら、上品な色香の漂う肩にくちづける。

「また綺麗になってる……。一体おまえは、おれを何度惚れさせたら気が済むんだ?」
「これ以上、脱がしちゃ嫌……っ」
「おれは、もっとおまえの身体を暴きたい。おまえの綺麗なはだか……おれだけに見せて?」
「んっ」
「おれは、セナとひとつになりたい。……なぁ、おまえは?」

 ほんのり紅く染まった耳元に囁けば、泉は身震いをする。気を良くしたレオは、辛うじて肩に引っ掛かっていた衣服を、柔らかな谷間までずり下げた。
 外気にさらされた胸のつぼみが、ツンと主張している。近づく交尾の気配に恥じらっているのか、泉は長椅子の背もたれに退避した。しかし、逆にそれが更に胸板を強調させることには気づいていない。
 泉が呼吸するたびに愛らしく膨れる突起を見つめながら、レオは荒々しい息を吐く。

「そんなに初々しい反応されたら、おれ……虎に、変身しちゃうかも」
「んっ……。食べちゃ、だめ……っ」
「冗談だよ。……まぁ違う意味で、いただいちゃうけど」
「あぁっ……んっ、やぁっ……

 胸に咲いた薄桃の花を愛でると、泉は更なる続きをねだって弓状に背を反らす。手のひらの中心でこねくり回し、きつく引っ張るたび、泉の肢体は華やかな旋律をつまびく弦のように跳ねた。
 何百年も生きてきたけれど、こんなにも美麗な音楽は聴いたことがない。レオはもっと弾きたくなって、甘い接吻を交わした。性感帯が張り巡らされたツノを扱かれ、胸の突起にこりこりと刺激を与えられ───息継ぎの合間、泉はたまらないとばかりに切なげに喘ぐ。

「はぁっ……んっ……もう、ぐりぐりしないでぇっ……
「おれに触られるの、嫌?」
「中途半端に脱がされて、恥ずかしいって言ってるの……っ」
「わはは、セナは照れ屋さんだなぁ。……でも、これからもっとすごいことするのに?」
「すごい、ことぉ……?」
「そう……。優雅な鹿が強欲な虎に愛されて、淫らに溶けちゃうところ…………おれだけに、見せてくれる?」

 約束の刻を過ぎても、虎の帰りを一途に待ってくれた鹿。愛して、あいして、屍さえ残らないほど骨をしゃぶり尽くしてしまいたい。うっとりと身を任せる泉に、レオは再度くちびるを近づけた。足繁く通ったおかげで、ようやく身も心も許してくれた運命のつがい。もう二度と離さない───永遠の誓いを捧げた瞬間、頭のてっぺんに稲妻が落ちた。

「ひぎゃ~っ!」

 レオは垂直に宙を飛び、長椅子から転げ落ちる。「痛ってえ~っ!」と涙目で起き上がると、甲高い声でわめく小ぶりな影がひとつ。
 おかんむりの子鹿が、ひどく興奮して暴れていた。

「ビーーーッ」

 世話焼きの泉を母親のように慕っている子鹿は、どうやら泉が食べられてしまうと誤解したらしい。レオの後頭部に足蹴りをお見舞いして、必死に追っ払おうとしているのだ。

「起きちゃったの? ごめんねぇ」
「むぎゅっ」

 すっかり虎の威厳をなくしたレオを突き飛ばし、泉は小鹿に歩み寄る。乱れた衣服を整えながら汗ばんだ胸を隠すと、子鹿の頭を優しく撫でた。

「大丈夫だってば。俺は、こいつに食べられてるわけじゃないからねえ」
「うんうん。おれたちは愛しあってるだけで、べつにセナを豪華なごちそうにしようとは……むぎゅっ」
「あんたは黙ってて。ほぉら、泣かないの。偉大な鹿になるんでしょ~?」
「ピーーーッ! ピーーーッ!」
「う~ん、興奮しちゃってる…………れおくん、ごめん」

 今日はもう、寝かしつけてやらないと……
 崖から転がってきた岩石に押し潰されたかのような衝撃が走る。レオは「がくん……」と声に出して肩を落とした。久方ぶりの交尾は、悲しいことにお預けである。しかしながら、子鹿のためを想うならば致し方なし。いまは離れて住んでいるが、ゆくゆくは一緒に暮らしたいと考えている。泉はもちろんのこと、子鹿だって愛しているのだ。
 ほぉら、寝ようね。暴れる鹿を抱き締める泉を「セナぁ、おやすみぃ……」と見送ると、レオは覇気のない足取りで家を出る。ひとりぼっちの寂しい帰路を、とぼとぼ辿ることにした。

「れおくん、待って!」

 ところが、家を出てから数歩の距離で呼び止められた。泉が蒼の耳飾りを揺らしながら、急いで駆け寄ってくる。
 くちは悪いけど、セナはやっぱり優しいな。情けないおれをちゃんと見送ってくれるんだ。うう~、できることなら交尾したかったけど、こればっかりは仕方がないな。可愛い子鹿を起こしちゃって、悪かった! ───レオはとっさに詫びの一言を入れようとしたが、それが音として響き渡ることはなかった。濡れたくちびるに、柔らかな感触───レオの首筋に飛び込んで、泉が大胆に接吻したのだ。

「んっ……
「せ、セナ……?」
「明日の夜……。森の湖畔の近くで、待ってるから」

 めげずに、会いに来てよね。
 泉は、白い肌を紅く染めて、照れ臭そうに告げた。
 一緒に暮らす子鹿の気持ちを尊重しながらも、虎と過ごす逢瀬のひとときも大事にしているのだ。うなだれる虎を追いかけて、けなげな接吻で次の約束までこぎつけて───幸福の過剰摂取で死んでしまうかもしれない。
 湯上がりみたいに熱くなった頬をおさえて、レオは地面にばったりと倒れ込む。黄昏色の煙がぽんっと爆発し、全身にふさふさの毛が生える。あまりの愛おしさに変身の制御が乱れて、本物の虎になってしまった。

「がうがうがう……がるるるるるぅ~……
「え、何? 『セナの愛をいっぱい食べて、おれは満腹だ~……』だって? ねえ、こんなところで寝ないでよ! ちょっと、れおくん!? こら、起きて! 起きろってばぁ~?」

 自由の寅に出会ったが最期、故郷の土は二度と踏めまい。遥か古来の絵巻には、獰猛な虎に変身し、人々を切り裂く寅の王が描かれている───それもとっくに昔の話。
 ゆくゆくは美しい鹿に見惚れて、ふにゃふにゃに丸まっている虎に差し替わることだろう。