2025-04-22 08:36:44
4816文字
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きみはきっと、こいしてる①

さくっと終わるハッピーなエメアゼを描くぞ〜!


 たぶん時期というか、タイミングが良くなかった。旅先でどうしようもなく救えなかった美しい魔法生物の暴走個体を討滅して、もっと上手くできなかったのかと自問自答を繰り返す。アーモロートに報告に行く時はせめて明るいいつも通りの自分でいようと思っていても、気を許した友人はそう言った感情を簡単に見抜くのだ。
 どうした、とぶっきらぼうに尋ねられた声に、案外友人には優しい彼らしいと笑いながらアゼムはなんてことないように話す。ちょっと、ね。それはいつも通りの冒険譚。それを聞きながらエメトセルクはそう言った面倒事は一度持ち帰れと、と言いながらも慰めるように少し乱雑にアゼムの頭を掻き回す。その手があまりにも優しくて泣きそうになる。そういうとこだ、ばか。言えない感情を飲み込んで、ありがとうと笑って。
「これぐらいならいくらでも聞いてやる。……少なからず、お前は私にとっての親しい友の一人だ」
 珍しく告げられた言葉を、普段なら素直に嬉しい、私も、も笑って返せたのだろう。けれども、その言葉が深く深く突き刺さって、思い知らされることがあるなんてきっと、友人思いの彼は知らないのだ。
 誰よりもアゼムを友人として大切にしてくれる彼のその感情を、形として見せつけられる度に軋んで痛む心を。それを、知ってほしいとも思えない。
 ひっそりと息を吸い込む。大丈夫、ちゃんと笑えてる。彼の美しい瞳に映るのは、彼の友人だ。
「ありがとう! さすが私の親友!」
 まるでそれだけではない感情を咎められているように感じるのは、何もかもアゼムが悪いのだ。
 仕方ないだろう、と他人のせいにできたのは最初だけだった。身内にはこっそり甘くて、いつも心配してくれて、なんだかんだ優しくて、喚べばいつだって駆けつけてくれる。差し引きなしに与えられる親愛の甘美さをたっぷり味わって、強敵に伏してしまったアゼムの為に本来好ましく思ってないはずなのに躊躇いもせず転身をして力を振るうその姿に。惹かれないほうがおかしいよ、なんて言えたのは最初だけだった。
 アゼムとて一応は女であって、友人達にもそう言った人はいて。楽しく恋バナに混じることもあればなんとなしに知識は増えていく。だから腕を絡めてみたり、ひっそり胸を押しつけてみたり、ありがとう、大好き!なんて笑って告げてみたりして。
 けれどもどこまで行ったってエメトセルクは友人だった。呆れたような顔をして受け入れて、アゼムの感情を友愛と疑わない。友人として、どこまでも大事にしてくれる。他者ならばそっと離れていくような距離感を受け入れてくれるのは、彼にとってアゼムが大切な友人だからだ。親しい友人だからこそ、許されてしまった。気まぐれに抱きついたってそれは「アゼム」だからこそ許しているのだと、「アゼム」が友人だからこそなのだと。仕方ない、と友人を甘やかす吐息の音を聞いて、知って、それを繰り返されて。アゼムは思い知るのだ。
 こんな感情を彼に抱いてしまった自分の方が間違っているのだと。


「以前貴女に救われてからずっとずっと、貴女を想っていました」
 アーモロートでしばらく腰を据えて取り組むべき問題が一つあった。そうして普段より長く過ごしていると、いろんな人に声をかけられる。友人と呼ぶべき人が多いアゼムはあちらこちらに呼ばれることも多く、今回もその一つだと思って向かってみて、久しぶりに真っ向からの告白に思わず目を丸くした。
「ずっと、遠く貴女の話を聞いてました。貴女を目で追っていました。貴女に救われてからきちんとお礼をしたいと願っていただけの感情が、いつしか変わってしまいました」
 丁寧で切実な言葉と視線に思わずたじろぐ。ここまで真っ直ぐに想いを告げられることは滅多にない。彼はどうやらもともと地方の研究者で、数年前にアゼムが彼を手助けしたことをきっかけに彼はアーモロートに移住してきたという。そこで色々な人からアゼムの話を聞き、時折帰還するアゼムを遠くから見つめて、思慕をゆっくりと募らせてきたのだと。
 すごいなあ、とまるで他人事のように考える。こんなふうに、真っ直ぐに感情を伝えられるその勇気を、何よりもアゼムは尊敬し、尊いものだと思う。
「ありがとう。君が、そう伝えてくれたことが何よりも嬉しいと思う」
 けれども、どんなに想いを向けられたって、美しい感情を与えられたって。その美しさに心は震えても、歓喜ではないのだと思い知る。どうやったって、アゼムが好きなのはたった一人なのだと知ってしまう。
 だから。時折あるたびにいつも同じ断り文句を言う。それを告げようとして、待ってください、と言葉を止められた、
「どうか、少しだけお時間をいただけませんか」
 お願いします、とまっすぐ見つめる瞳が、眩しかった。
「貴女は僕を知らないでしょう。せめて、七日間だけでいいのです。僕を、知ってほしい。せめて知った上で答えを出してください。七日間だけ、その間全てとは言いません。七日間の内のほんのしばらくを、僕と共に過ごしてくれませんか」
 真っ直ぐな感情があまりにも眩しくて。どうしようもなく弱っていた心にふと入り込んでしまった。
……きっと、私は君が願う感情を返せないよ」
「その時は、この日々を思い出に前に進みます。進めなくても、大切に抱えて前を向きます」
 すごいなあ、と。ほうっと息を吐く。眩しくて、眩しくて、羨ましい。
 ああ。私、こんなふうに愛されてみたいな。
 願いだった。叶わない、願いだ。あまりにも醜く酷い人だ。望めない相手への願いを、他者で補おうとしている。悪いことだと理解していて、それでも。ほんの少し弱っている心にそれは、あまりにも眩しくてつい、頷いてしまったのだ。


「あ、ごめん。今日先約があるんだ」
 エメトセルクの元にヒュトロダエウスが来てると聞いたのか、借りていたイデアを返えそうとアゼムがひょこりを顔を出した。ついでに今夜の店でも決めようかとヒュトロダエウスが笑ったところで、アゼムがぱちん、と手を合わせた。
 もともと交友の広い人だ。夜の予定は大体その中でも特別に親しいと豪語してくれる二人で埋めてくれるとしても、そうでない日もある。なんら変わらない日常だ。ならまぁ、今日はいいか、と頷いて。二人でご飯行けば?と一応は問うが、アゼムが旅に出てる間いくらでもその機会はある。ひらひらと手を振ってお前からの呼び出しがない穏やかな夜が確約された貴重な日だ、とエメトセルクが嫌味を言えば、アゼムがなんだと、とぽかりとエメトセルクを叩く。いつもと変わらないやり取りにヒュトロダエウスは目を細めて笑って。
 だからこそエメトセルクは顔を真っ青にしたヒュトロダエウスが珍しく夜の浅い時間に勝手にエメトセルクの自宅へ入り込み、大変だ、と言った時アゼムに何かあったのかとすぐ目を細めて。
「アゼムが、異性と親しげに並んで歩いていた……
 美しく輝くその隣に、みたことないエーテルを見て訝しげにヒュトロダエウスを見る。
「あいつは性別を超えてすぐ友人を作るだろう」
「そんなんじゃない」
 いっそアゼムに振られたような顔をするヒュトロダエウスはけして、そんな感情をアゼムに抱いてないよはよく知っている。
「その人が、親しげにアゼムの髪に手を伸ばして整えていて。それをアゼムが少し頬を染めて受け入れていて。ねえ、エメトセルク。キミどうするつもり!?」
 何故ならヒュトロダエウスは、誰よりもエメトセルクを理解して、彼をせっつく側だったからだ。
 ぐらりと、足元が崩れるような感覚がある。しかし息を吐く温度はきっといつもと変わらない。エメトセルクはきちんと分かっている。分かって、選んだのだから。言い聞かせて、そうか、と吐き出す。そのうちきっと、彼女の方から何かしら報告があるのだろう。それを告げてもらえる親しい友人だと、理解している。
 だからこそエメトセルクはその特別に親しい友人を長く永く続けるために、吐き出しそうになる感情を飲み込むのだ。
 側に。せめて、それだけで。それだけで何があってもこの先きっと。そう、考えていたはずなのだ。
「私が、なにを考えようとも。あいつにとっての私は変わらない」
 アゼムにとってのエメトセルクで正しくありたいと、願っている。ヒュトロダエウスの眉がしおらしく下がった。半目になって呆れた表情に見える。
「なんだ」
「キミが後悔しないのならばそれでいいけれども。ワタシは親友として、いつでもキミ達二人の幸せを願っているよ」
 ゆっくり息を吐く。ひらひらと手を振れば困った顔のままヒュトロダエウスがするりと転移して帰って行った。
 どうしようもない。アゼムにとってのエメトセルクはそう言うものだと、定まっている。だからこそ彼女は無邪気に安心してエメトセルクの隣にいるのだ。友人としてその距離を許されていることを、何よりも尊く思う。そしてその距離感に口を出すような人を選ぶはずがない、という傲慢なのかもわからない思いもある。
 いつだって、願っている。彼女の隣を許されるのならば、その形はなんだっていいのだと。


 星をよりよくするために人は日々を過ごすが、アーモロートは週休日がある。人それぞれではあるが、委員会に所属するものとしてエメトセルクとアゼムは基本的にそれは同じで、だからこそアゼムはそんな日はふらりとエメトセルクの元へやってきてのんびり過ごしたり、エメトセルクを連れ出してアーモロートを散策しながら小さな相談や困り事を拾ってくるものだった。
 しかしその日、昼を過ぎてもアゼムはエメトセルクの元に来ない。彼女が旅に出ている時と同じような遅い朝を迎え、朝と昼兼用の食事をし、少し考え調べ物のためにアカデミアの書庫を訪ねようと街を歩いて。
 そして、直接目にしたのだ。
「こちらのケーキも一口いかがですか」
 蒼い風が薫るテラス席で、柔らかに笑う男がフォークで掬った甘味を差し出している。それを一瞬悩むように目を伏せてから、恥ずかしげに少し頬を染めて、小さく口を開ける姿があった。
「このケーキが僕は一番好きなんです。貴女のお口に合いますか?」
……うん、私も美味しいと思う」
「よかった」
 嬉しそうに笑う男に、その人は唇を少し突き出して睨みつけている。
「恥ずかしくないの?」
「貴女を甘やかす合理的な方法ですよ」
「そうかなぁ」
「そういうものです」
 べっとりと重たく甘ったるい。目を伏せて甘味を見つめるその頬はやはりふうわりと染まっていて、困ったように眉を寄せてるくせにその距離感を否定しない。
 その美しい魂の持ち主を、見紛うことは決してない。だからこそ、恐ろしい衝撃を飲み込んでエメトセルクはその場を早急に離れる。歩いて、歩いて、結局指を鳴らして自宅に帰って。走ってもいないのに息が荒い。苦く、苦く、感情が滲む。
 ふざけるな、と。理不尽な怒りすら込み上げる。
 口を開けばきっと、名前を呼んでしまう。それをしたくなかった。その音にはきっと、けして外に出したくない感情が乗ってしまう。存在すら許せない。
 ひっそりと、隠すように抱えてしまえばよかった。もっと早く、消し去ってしまえばよかった。けれどもきっと、そんなことは叶わない。行き場のない感情すら手放せないほど愛おしくて、憎たらしい。
 頬を染めて目を伏せる、その横顔が瞼の裏にこびりついている。その顔を誰にも見せないで欲しかった。知らないままでいたかった。あまりにも、自分勝手な願いだ。
 もし、いつか、その時は。もっと落ち着いて受け止められると。そうであろうと、それこそが彼女の望む「友人」だと分かっていたはずなのに。どうしようもなく、エメトセルクの感情は醜かった。