望月 鏡翠
2025-04-21 23:33:24
860文字
Public 日課
 

#1700 「ライムミントガム」「辞書」「眼鏡」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 私が尊敬する祖父は、国語の先生だった。もう引退していたから、元国語の先生だったわけだけど、引退してからも毎日学校の先生みたいなスーツを身に纏っていた。理由を聞くと、この方が気分がしゃっきりするんだと微笑みながら教えてくれた。
 私からすれば、祖父は寝巻きのままでも、休日のお父さんよりもよほどきっちりしていた。お仕事にいくわけでもないのだから、これ以上きっちりする必要なんてないんじゃないかと思ったけど、いつも身だしなみが綺麗な祖父のことは好きだった。
 祖父は広辞苑を引くのが好きだった。国語の先生なんだから、言葉のことなんて全部わかっているはずだ。しかし彼はいつも、わかったような気になっていることを改めて見つめ直すと、新しい発見があるのだと諭してくれた。
 事実、辞書を引いていて、何か新しい発見をした彼は、いつも嬉しそうにしていた。辞書を捲るときだけ、銀縁の眼鏡を掛けている。机にはお気に入りのマグカップ、そしてボトルガムが置いてあった。
 ご飯の前におやつを食べると怒られるからなんて、まるで孫の私たちみたいな理由だった。そしてガムを噛んでいると、集中できるらしい。
 おやつの代わりになるのならと、一粒口に入れてもらったことがあるけれど、ミント味のガムは当時の私には刺激が強すぎた。
 歯磨き粉が食べさせられたみたいで、すぐに吐き出してしまった。
 子供のときのことは、今でもはっきりと思い出すことができる。
 私の事務所は、あのときの祖父の書斎をイメージして作っている。老眼鏡はないけれど、知的に見える眼鏡を掛けて、依頼人を出迎える。
 そして調査を開始する前に、ライムミントのガムを口の中に放り込む。辛味のない爽やかな味は、ペパーミントで舌が痺れてしまう私向けだった。
 これは私のおまじないだ。祖父との思い出が私を助けて、名探偵にしてくれる。
「さて、まずは明快な事実から確認していきましょう。」
 当たり前に知っているような気がすることも、もう一度見つめ直す。そうすると、新しい発見がある。