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もりやま
2017-02-14 23:14:52
5636文字
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YGO
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ビッグバンが起きるまで待ってて(闇表)
パラレルなバレンタイン闇表。(別体)やまがなければオチもない!
好き勝手パラレル次元闇表のバレンタイン。小豆さんの「むしろガーナまでカカオ収穫しそうだよ」と言う天才的な呟きから爆誕しました。
ビッグバンが起きるまで待ってて
彼がガーナへ旅立ってから一週間が経った。
遊戯は異国の地にいるであろう親友を想いながら、瞼の力を抜いた。
いわゆる遠い目である。彼の大ファンを豪語する少年や、彼の親友が見たら「なにかあったのか?」と心配されそうな無を感じさせる瞳で遊戯は外を眺めていた。
「いや〜
……
ほんとに行ったのかなぁ」
そう言ってちら、とまぁるい紫水晶が壁掛けカレンダーを映す。そこには本日、2月14日の欄に赤丸がつけられており、帰国予定と文字が添えられている。
そう、ガーナへと旅立った「彼」の帰国予定日なのだ。
もうここまでくればお分かりだろう。
彼、とはこの虚無の顔をしている武藤遊戯の親友であり同居人のアテム・イシュタールであり、彼が今日というバレンタインデーの為にガーナへ旅立ったことが。
「いやわかんないよ。何でチョコ作りにガーナなんだよ」
遊戯本人はわからない、と言っているが理由は単純明快。アテムはカカオ豆からチョコレートを作るべく、ガーナへ旅立ったのだ。
そもそも、なぜそんな面倒くさいことをしに行く羽目になったのか。それはアテムの世話係が彼に懇切丁寧かつ、愛情溢れるアドバイスとレシピを送ったからである。
ーーアテム自身はバレンタインデーというものにそれほど興味がなかった。
なぜなら、彼は既に好意を寄せている人物がいたし、その人物がバレンタインデーというものは女性が男性にチョコレートを贈るものだとアテムに教えたからだ。
友チョコ、も男性同士ではやらないよ。なんて言われてしまい、アテムにとってバレンタインデーとは、女性が楽しむ日であって男性であり、男性に好意を寄せている自分には関係のない日になってしまった。
アテムが好意を寄せる人物は、言わずもがな武藤遊戯である。
そんな彼に先日、日本に来てからの約8年の常識を覆す出来事が起こった。
「遊戯くんとアテムくんって、シュークリームは生クリーム派?カスタード派?バレンタインに作ろうかなって思ってるんだけど」
遊戯の親友その5の(とアテムは勝手に思っている)獏良のこの一言。アテムは軽い衝撃を受けつつ、遊戯を見れば遊戯は隣で照れ臭そうに頬をかく。
「え、ええー、獏良くん、もしかして今年も作るの?どっちもあると嬉しいな」
「なん
……
だと」
満更でもなさそうな遊戯にアテムは驚いた。男同士の友チョコとやらもオッケーなのか。というか昨年まで君からバレンタインデーに菓子なんて貰ったことがないぞ獏良くん!それはもう色々と言葉にならずにきゃいきゃいはしゃぐふたりを見つめて、アテムはひとつ思い浮かんだ。
そうか、ならばオレも
……
相棒にチョコを渡そうじゃないか!
そんなこんなで、獏良が手作りを贈るなら自分も手作りだろうとアテムは自分の知る中で一番料理が上手い者へと電話をかけた。それが、彼の世話係であり教育係であり、専属シェフであったマハードである。
電話を掛けてワンコールが鳴りきらないうちに相手は出た。
「は。何か御用でしょうかアテム様」
電話越しにもわかる、お辞儀しながら言っているのだろうなと思わせる声。アテムは相変わらずだなと思いつつもざっくりと本題を舌に乗せた。
「なぁマハード。バレンタインに手作りのチョコを贈りたいんだが
……
」
「お任せください。必ずや遊戯様のお気に召すレシピをご用意いたします」
まったくできすぎた世話係である。贈る相手がモロバレな上にこの声色、相当な自信である。
「お前
……
遊戯の好物とか知ってたか
……
?」
「ハンバーガーがお好きで、疲れた時には特に味の濃いジャンクフードを食べたくなるお方のようですね。苦手ならっきょうも最近克服したようです」
流石にその自信の根拠が気になりアテムが尋ねればマハードはきっぱりと応えた。
「
……
そうなのか」
らっきょうを克服しはじめているのは知らなかった。それに少しショックを受けつつ、アテムは携帯を握り直す。
「よし、なら信じるぜマハード。相棒を満足させるチョコレートとやらをな!」
「は。お任せを。つきましてはファラオ
……
チョコレートを作りにどれほど時間をかけられますか?」
私も少々お手伝いさせていただきますが、チョコレートは些か手間暇がかかり、なによりもデリケートなものなのです。料理初心者のアテム様には難しい部類に入るかと
……
。そう続けられて、アテムは壁掛けカレンダーをめくる。
「
……
有給ならまだ余りまくってるからな。1週間くらいは作れる」
「ならば
……
ガーナへ参りましょう!あそこならばいくら失敗しても材料があります」
ここでもし、アテムに少しでも製菓に関する知識があれば何故ガーナに。と思っていたことだろう。けれども彼に製菓の知識など無いのだ。ましてやチョコレートがどう作られているのか、なんて想像もつかない。
「目指せ!明治です!」
「そこはGODIVAじゃないのか」
有名ブランドだけは知っていたアテムにできた唯一のツッコミに、日本通なマハードは私は明治の方が好みなので。とにこやかに返した。
そんなこんなでアテムはあっという間にガーナ行きを決めてしまい、同居人である遊戯へたった一言。
「相棒、オレはちょっとガーナに行ってくるぜ!」
それだけ言って背中を向ける。
「待ってまって!え!?なんで?!」
「2月14日には帰ってくるからな」
慌てて背中へ問いかけた遊戯へ、アテムは親指を立ててキャリーケースを転がしながら朝日へと消えていった。
そして、今日がその2月14日である。
彼の所属する会社の社長様には「貴様なにをぼーっと見送っているのだ!」と怒られたりしたが幸い急ぎの仕事はないらしい。特に問題も起きず、あっという間に彼のいない1週間が経った。
2月14日のバレンタインデー。好きな人にチョコを渡す日。女の子のためのイベント。昨今では少しその意識は変わっているかもしれないが、遊戯の脳みそにはそうこびりついている日だ。
「そんな日に帰ってくるってさぁ
……
」
細くなった目で日付を見つめる遊戯。
「
……
本命チョコじゃないの」
ぽろっと出たのは遊戯にとって気まずい一言だった。それもそのはず、遊戯は過去に3回ほど、アテムを振っているのだ。もちろんライクではなく、ラブ的な意味の方で。
そんな彼が、ガーナにまで行って、チョコを作ってくる。もうこれは本気だろう。
なにがどう本気なのか、言葉にするのは難しいのだが遊戯にはそうとしか思えなかった。
「
……
すごく断りづらいじゃん」
3回とも、真剣な眼差しで好きだと言われたのだ。あまりにも真剣な、鋭さすらある眼差しに射抜かれそうだと思いつつ、3回ともお断りをした。アテムのことは嫌いではない。むしろ好きだからこそ今こうして一緒に暮らしている。
けれども、彼に対するラブはあるのかと問われれば遊戯は首を振ってしまうのだ。
「あー
……
どーしよーかなー」
わざとらしい棒読みな声を出して、遊戯はそっとカレンダーから視線を外す。意味もなく目頭のあたりを揉んだりしては、顔を覆ってため息をつく。
そんな時だ、ガチャリと鍵が開く音がして、遊戯が肩をびくりと跳ねさせる。
「待たせたな!相棒!」
「いや待ってないから!!」
思わず視線を向ければ、箱を持ったアテムが靴下でフローリングを滑りながら部屋へ入ってきた。にやりと自信ありげな顔をしていて、なんだよそのドヤ顔と遊戯は吹き出しかける。くっ、と喉を締めてなんとか堪えて久しぶりに会う同居人の顔を見た。
「そんなつもりは無かったんだが、滑ったな
……
」
少し照れ臭そうに箱を死守するように持ち上げて、アテムは足元から視線をあげる。
ぎくり。と遊戯の胸が軋んだ気がした。アテムが大事そうに持っている箱。あの中に彼がわざわざガーナにまで赴いて作ったチョコレートがあるのだろうか。というか待ってないから、なんて反射で口から飛び出してしまったがアテムの帰りは待っていたわけで
……
。あ、やばいなにか言わないと。ひとり焦る遊戯に、アテムが首を傾げて遊戯は慌てて口を開く。
「えーと
……
日に焼けた?」
「いや、特には。元々褐色だからな」
「あ、うん
……
だよね
……
」
ややパニックに陥る遊戯へ至極冷静に返すアテム。おかげで遊戯は深呼吸することなく落ち着いた。
「おかえり、アテム」
「ああ、ただいま遊戯」
ようやくアテムの帰宅を喜び、受け入れればアテムは嬉しそうにはにかむ。それから手に持っていた箱を遊戯へと差し出した。
「相棒、受け取ってほしい。お前の為に作ってきたんだ」
「あのさ、ちなみにちょっと聞きたいんだけどなんでガーナに行ったの?」
「ガーナの方が安くカカオ豆が売ってるからな」
やはりというか、なんというか手間暇かけて作られたチョコレートである。可愛らしくラッピングされた箱を遊戯はじっと見つめる。
「あの
……
ごめん、さすがにそれ貰っちゃダメな気がする」
「?!なぜだ相棒!もしかしてチョコレート自体が得意では無かったか!?はっ!だから獏良くんはシュークリームを
……
!」
「いやあの違うんだけど
……
その、チョコレートって本命でしょ?」
「そうだな。オレは遊戯に対してはいつでも本気だぜ」
真顔でこっくりと頷くアテムに対し、遊戯も真剣な表情で唇を動かす。
「本命チョコにはそれなりに真剣に考えないとって
……
思ってるから貰えないよ」
本命チョコを貰ったらそれはOKという意味になるのでは。未だにアテムとそういう関係を望んでいない遊戯は頑なに境界線を作ろうとする。要するに、今の関係のままでいたいから逃げているのだ。逃げだと自覚している為、後ろめたい気持ちでいっぱいになってきた遊戯。けれどもアテムは不思議そうにかくりと首を傾げた。
「そうか?本命だろうが義理だろうがこういうものは押し付けたもん勝ちだろう?大体、オレを3回も振っておいてよく言うぜ」
「うっ、それは
……
その、そうなんだけど」
「むしろ、3回も振っておいてまだ本命だの義理だの真剣に悩んでくれるなんてな。相棒、ひょっとして脈ありだと思っていいのか?」
「っ!」
これには一本取られた気分である。
確かに、アテムの言う通りだ。遊戯はこの日まで、ずっとアテムを意識していた。
本命チョコを作ってくるのだろうと決めつけ、それに対して自分はどうするべきかを延々と悩んでいたのだ。獏良のように、友チョコだと贈られる可能性なんて考えていなかったのである。そんなの、アテムが言うように【意識している】のと同じではないか。思い上がっているではないか。
指摘されてそれに気づき、遊戯は顔を覆う。恥ずかしさからか、じわじわと顔に熱が登ってくるようだ。
「もー
……
馬鹿みたいじゃん
……
」
「そんな相棒も好きだぜ」
「嬉しくない」
大きくため息をつき、顔を俯かせる遊戯。表情はわからないが、きっと顔は赤いのだろう。
アテムはおもむろに包装紙をほどき、ぱかりと箱を開いた。
「遊戯、お前の為に作ったんだ。だから、これはお前が食べてくれないと意味がない。貰ってくれるか?」
恐る恐る、指の隙間を作り、そこから紫水晶の瞳がのぞく。
アテムの手の中にあった箱。その中身を見て遊戯はため息がこぼれそうだった。
そこには売り物といっても信じられるような、綺麗なチョコレートがいくつも並んでいた。つやつやとしたチョコレートの艶、金箔やドライフルーツ、粉砂糖がチョコレートを美しく着飾っていて遊戯は顔を覆っていた手をそっと退ける。
「すごい
……
」
正直な感想にアテムは頷き、ほんの少し遊戯へと箱を寄せた。
「貰ってくれるだろ」
「
……
うん、だってボクの為に頑張ってくれたんでしょう?」
綺麗だ。ため息とともに溢れた遊戯の言葉。アテムはそれはもう。と遊戯の手に箱を押し付ける。
「相棒のことを考えて、お前への宇宙よりも広く、隕石よりも重く、太陽よりも熱い思いをこの一粒一粒に詰めたんだからな」
わざとらしくスケールを大きくするアテムに、遊戯はたまらず噴き出した。
「ふふっ
……
うわー、重いなぁそれは」
大人しく箱を受け取る遊戯、じっとチョコレートを見てからゆっくりとアテムへと視線を移す。
「
……
ねえ、この、一粒でもすんごい重いチョコ。ホワイトデーにお返しするのが大変だからさ、アテムも一緒に食べてくれると嬉しいな」
いたずらっぽく笑う遊戯に、アテムはピンと来たのかにやりと笑う。
「仕方がないな、遊戯がコーヒーを淹れてくれるならいいぜ」
そうしてふたりはようやく、部屋の奥へと歩き出す。廊下の近くで話していたせいか、少し体が冷えているらしい。そんな体を温める為に、遊戯はキッチンへと向かう。
「任せてよ。そのあまーいチョコに合うとびきりのやつを淹れてあげる。誰かさんがチョコレートを作ってる間、ボクはコーヒーを淹れるのが上手くなったんだよ」
確かに、遊戯の中でアテムの存在は、無意識に意識してしまうほどに大きくなっているのかもしれない。あとなにかをひと押しされれば、あっさりと友情の壁は崩れてしまうのかもしれない。そんな状態から、遊戯はすぐに逃げて友という聖域から出ようとしていなかった。遊戯はさきほどそれに気づいたけれど、きっとアテムは違う。
けれども、アテムは決して急かさない。
それがわかって、遊戯はやられたなぁ。と思うしかない。ずるいなぁ、惚れそう。とも思った。
「
……
ホワイトデー、ちょっとだけ期待してて」
だから遊戯はたったそれだけ、小さく甘い言葉をアテムのカップへと注ぎ淹れる。そんな小さな言葉を知ってか知らずか、アテムは笑顔でカップを傾けた。
おわり
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