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もりやま
2015-09-12 01:44:26
12215文字
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とどいず
轟家捏造、色々捏造の二人のなんてことない話。あと四話くらいこういうのが続きます。タイトルは仮。中身は修正するかも。
轟家ねつぞう。色々捏造。
[癒せ!くせ毛!(髪)]
しとしとと雨が窓を叩く。それを横目に緑谷出久は憂鬱を溶かしたため息を吐いた。
「梅雨かあ
……
」
湿度は最高潮。連日の雨天で農作物は浮かない顔をするし、人間もしかり。喜ぶのは蛙や蛙人間だろうか。緑谷がじと、と窓の向こうを睨むが黒い雲は雨を降らせるばかりだ。
「緑谷」
そんな緑谷の名前を呼ぶのは、向かいに座っている轟焦凍だった。たしなめるようなその声に、緑谷はごめんと謝る。
「早く終わらせないとね」
「いや、別に。ただお前、手元見ないで留めようとすんなよ。危ねえ」
「
……
あっ」
ホチキスで指を綴じるような失態はしないと信じたいが、緑谷は慌てて視線を落とす。まばらに揃えられた紙の束が、やる気のないホチキスによって綴じられようとしている。
それに気付き緑谷がとんとん、と紙の束を揃えた。
小さくため息をついて、轟は緑谷へ手を伸ばす。
「それ、代わりにやってやる。だからお前帰っていいぞ」
「えっ、いやいや! ほんとごめん! 大丈夫! 大丈夫だから僕がやるよ! 僕から言い出したんだし!」
さっと椅子ごと轟から離れれば、轟は眉を困ったように曲げる。確かに、緑谷が自分から言い出したのだ。二人の目の前に置かれているのは修学旅行のしおりになる予定の紙たち。轟が飯田と八百万の代わりに作っておく。と請け負ったのを、緑谷が手伝うと言ったのだ。自分のクラスの分だけなので数は少ない。が緑谷は作業開始から窓の外を睨んでいるため、彼の前には未だ冊子にされていないプリントの山がある。
「
……
なんかあったのか?」
外を睨んで、上の空になる緑谷。何か用事があったのかと疑うがそんなことはないらしい。轟が訝しげに見つめれば、緑谷は観念したかのように目を伏せた。
「こうも連日雨だとさ
……
電車は遅れたりするし、野外演習も中止だし、洪水とか土砂崩れも起きるしでただでさえ落ち込む気分がちょっとね
……
」
嫌なんだ。と小さく呟かれた言葉は轟にも理解できた。それと同時に、自分とは違う思考を持つ緑谷が羨ましく思えた。
「ヒーロー基礎学で被災地に行けたら良いのにな」
つい一秒ほど前はそんなこと微塵も思っていなかった。そんな、流されて出た言葉に緑谷は力強く頷く。
「うん。行きたいな。
……
昔さ、オールマイトが右腕一本で天気を変えたことがあるんだ」
聞き覚えのある話に、轟はしばし記憶の引き出しを開ける。ああ、あのヘドロ事件か。と言えば緑谷はこくりと頷いた。流石は平和の象徴、天気ごと変えてしまった。という記事を見て流石オールマイト。すげえ。と呟いた記憶も出てきた。
「僕もいつか、できるようになりたいな。そうしたら、このどしゃ降りの雨雲も吹き飛ばせるかもしれないのに。どれくらいになったらできるかな
……
」
パチ、パチ。と音がして、ようやく修学旅行のしおりが一冊できた。すぐに次の紙の束を掴む緑谷を見て、轟は残りのページ合わせを再開させる。
「オールマイトとお前だと、まだまだ筋力差すげえからな。画風変われるくらいにならねえと無理かもな」
「まだまだ、ヒーローには遠いか
……
」
「天候変えるのがヒーローじゃないだろ」
「それはそうだけど」
言いながらも、轟にはわかっている。緑谷にはヒーローの絶対条件が備わっているのだ。だから彼がプロのヒーローになる為に必要なものは、力と経験くらいである。それらはきっと、高校を卒業する時には必要な分は身に付いていることもわかっている。わからない、あるいは自信が無いのは本人だけだ。
「
……
焦ってもなんもならねえし、天候は人間がどうこうするもんでもねえだろ」
「でも被害が起きる前に、対策できるならした方がいいと思うんだけど」
「そりゃそうだけどよ。
……
天災なんかを未然に防げるようになっちまったら、噴火や大地震の時には非難されるようになるだろ。ヒーローに高望みしすぎるようになる」
それを避けたいからできてもやらねえんじゃないか? と続ける轟に、緑谷は気の抜けた声を出す。
「そっか
……
。ヒーローに高望みか
……
個性はすごいけど万能じゃないし言われてみれば誰も天候に対して使ってないな。特定の誰かの個性でしかできないパターンもあるしそうなると結局意味が無いんだ
……
災害が起きたあとのレスキュー活動を習うのはそういうことなのか。オールマイトが天候を変えたのだって、副産物みたいなものだったし
……
」
ぶつぶつと小声で呟く緑谷は真剣そのものだ。ホチキスを持った手も止まるほどに。
「
……
緑谷。やっぱりそれ貸せ」
呆れつつも再度手を伸ばす轟に、緑谷ははっとしてホチキスを持つ手に力を加えた。バッチン、と綴じられた紙から目を離し、緑谷は苦笑する
「ごめん。轟くん、まとめ終わったなら帰っていいよ。これ、教壇の机に置いて教室に鍵かけて帰ればいいんだよね?」
あと綴じるだけだから。と言う緑谷に轟は呆れるしかない。綴じるだけ、で朝になってしまいそうである。
「
……
そういや、緑谷って学校までどれくらいかかるんだ?」
「え?」
壁掛け時計を見れば、作業を初めて一時間は経っている。外は分厚い雨雲が空を覆っているため、時計が示す時刻よりも暗い。ヒーロー科所属、しかも二人とも男なので夜道に気を付けろなんて心配は要らないかもしれないが、轟は少しばかり気になった。親が心配することもあるだろう。そんな轟の気遣いに、緑谷は時計を見てから口を開く。
「地下鉄で乗り継ぎながら40分くらいだよ」
「
……
結構掛かるな」
「轟くんは?」
「お前よりは近い。20分くらいだ」
そうなんだ。と言いながら緑谷はバチン、とまたひとつ冊子を作りあげる。あと残り十冊くらいだ。これならばすぐに終わるだろう。轟はそう思ったのか、もう取り上げようとはせずに緑谷を見つめる。
「修学旅行、楽しみだね」
目の前のしおりを今見たかのように、緑谷はしおりの表紙を眺めた。今更かよ、と思いつつも轟は頬杖をつく。
「つっても、スケジュール見たか? 一日中スキーかスノボだぞ」
「えっ、そうなんだ? 観光は?」
「三日目」
パチ、パチ、と綴じる音。ぱさ、と冊子が積まれる音。雨が窓を叩く音。ふたりの声。たったそれしか聞こえないふたりきりの教室は、とても静かだ。喧騒がないだけで、A組の教室とは思えない。
「スキーもスノボもやったことないな
……
一日中って、もうそれ訓練みたいなものだよね
……
」
「オレもスキーとスノボはやったことねえ。訓練なら、一日中やんのも頷けるな」
「轟くんすぐ上達しそう」
「コツがつかめるかどうかだろ」
「それは凄い人だから言えるんだよ
……
」
最後の一冊を手にとって、緑谷がホチキスで挟む。このホチキスが二回鳴れば、二人はもう家に帰るだけだ。じっと緑谷の指先を見る轟と、じっと自分の手元を見る緑谷。それでも口はよどみなく動かす。
「凄い人、か。お前、誰にでもそういうこと言うなら、自分の評価も上げろよ」
「自己評価を上げるのって
……
うん、言ってることは解るよ? そりゃ僕だってネガティブな考えはよくないって散々言われてきてるから最近は気を付けてるし
……
個性の制御もできるようになったから自信はついてきてる。でもそれを口にする勇気がまだないっていうか
……
凄い人、って思うならやっぱりその人は凄い人でしかないっていうか
……
」
「お前にとって、凄くない人って居るのか?」
「多分居ないけど
……
。その人の良いところを知るのは悪いことじゃないでしょ」
パチン。と一回、ホチキスが鳴る。
「山ほどの憧れを抱えて、そうなりたいって自分を高めてるんだ」
そうして、もう一回。無事に二か所ホチキスで留められた最後の一冊が完成すれば、轟は頬杖をついたまま冊子の山へと視線を落とす。
「
……
轟くんって、髪さらさらだよね」
視線を落とした拍子に、前髪がさらりと揺れたのが気になったのか緑谷の言葉はどこか羨望の色を含んでいる。ちら、と轟が視線を上げればもさもさとした黒髪が視界に入った。固そうなその髪質は、うねりにうねって確かにさらさらとは程遠いだろう。
「気にしたことないけどな。お前は寝癖が目立たなそうでいいな」
「いや、でもこの季節はすごいよ。朝起きると髪の広がりが二倍くらいになるよ。多分ツバメ住める」
真剣な顔で自分の髪について語る緑谷に、轟はたまらず口元に手を当てる。緑谷の頭が鳥の巣になっているのを想像してしまったのだろう。そんな轟に緑谷はぱっと顔を明るくした。
「轟くんが笑った」
「
……
悪ぃ」
「えっ、いや、謝ることじゃないよ。ただ珍しいなって思っただけ」
修学旅行のしおりが、全て緑谷の手に収まる。それらを机でそろえて、そばかす顔がはにかむ。
「やっぱり、笑顔っていいね」
緑谷出久という男は、心根が正しくヒーローである。今年で付き合いが二年目になるが、緑谷と話す度に轟は痛感する。自分にはそんなくさい事が言えないし、そんな照れくさいことを思う思考回路も備わってないのだ。
「笑うことが増えたとは、よく言われる」
口元を押さえた手を外して、轟は立ち上がる。そうして自分の机に戻り、鞄を肩に引っさげた。
「うん。増えたと思う。轟くん、表情優しくなったよね」
「自分じゃわかんねえよ」
「それもそうか」
自分では、自分の表情を全て把握できないものである。指摘されて、徐々に気づいていくのだ。けれども轟は何故自分の表情が柔らかくなったのか。その理由は解っている為、そうなんだろうなと素直に受け止めた。教室の扉へ向かいつつ、ぽつ、とこぼす。
「
……
お前のおかげだ」
「え? なにか言った?」
「なんでもねえ」
教壇にしおりを置いた緑谷が、席へ戻ってリュックを背負う。その姿をドアの前でなんとなく見つめて、轟は教室の鍵を手で弄ぶ。
「あ、あの、さ轟くん! 変なお願いなんだけど
……
髪、触らせてくれないかな? あ、キモイっていうの解ってるから嫌だったら断ってね!! ほら僕、こんな髪だしかっちゃんも似たような髪質だし
……
ちょっとした好奇心なんだけど」
駆け寄ってきたかと思えば、そんな言葉。特別綺麗な髪でもないのに、そんな提案をされるとは思わずに轟は目を丸くする。
「さっき、寝癖目立たなそうでいいな、って言ってたよね。轟くんは寝癖ひどいの?」
「
……
ああ、まあ、な。よく跳ねる」
「そうなんだ! わあ、じゃあ修学旅行で寝癖全開の轟くんが見れるかもしれないんだ。なんかレア
……
」
「緑谷」
間髪入れずに次の話題を持ってくる緑谷を制す声。それを素直に聞き入れて緑谷が首を傾げれば轟はわし、と緑谷の髪を掴む。確かにボリュームのある髪は鳥の巣になりそうだ。頭の形を確かめるように、轟の右手がするすると緑谷を撫でていく。
「
……
触っていいぞ」
確かに自分とはだいぶ違うな。と手を離しながら小さく呟けば、緑谷はじゃあ失礼しますと遠慮がちに手を伸ばす。身長差はさほどない為、どちらかが屈むこともない。そろそろと伸ばされた手が、赤い髪と銀の髪に触れる。
「
……
なんか、しっかりしてる」
そうして耳に流すように、手を動かす緑谷。その手は優しく、顔は真剣だ。人の手ってこんなに心地いいものだったかと心の隅では母の手を重ねて、轟は目を伏せた。
「右も左も、色が違うだけなんだねー。サラサラだ」
「ああ」
「うーん、僕もちゃんと髪に気を使おうかなあ。くせ毛のヒーローって見たことないし
……
いやでもスーツで顔隠せば関係ないか」
ぶつぶつと考えを口にし始めれば、温かい手は離れていった。轟はそんな緑谷の頭をわし、と再び掴む。
「お前らしくていいと思うけどな」
「
……
へァ?」
間抜けにもほどがある声を出す緑谷を少し退けて、教室の鍵をかける。そのまま、緑谷の姿を視界に入れないように背を向ければ外がだいぶ暗くなっていたことに気づく。
「随分遅くなっちまったな。帰んぞ」
「え、あ、うん!」
轟が歩きだせば、緑谷の足音も続く。職員室に鍵を返しにいけば、残っている教師は少なかった。
「失礼します。2-A 轟です。鍵返しにきました」
淡々と鍵を返す轟の背中を見て、緑谷はほうと小さく息をつく。教師と一言二言交わしてから、失礼しましたとすぐに轟は職員室から出てきた。そうして自分の隣に再び戻ってきた轟に、緑谷はまた息を吐いた。今度は大きめだ。
「なんだよ」
それが自分に向けられていると気付いたのか、轟が首を傾げる。じと、と緑谷が轟の頭のてっぺんからつま先まで眺めてから、一歩踏み出す。
「轟くんはなんていうか
……
スマートだよなあって思って」
「鍵返しただけだろ」
「鍵を返すだけなのに、だよ! いや、それだけじゃなくて」
緑谷の延々と続きそうな声は無視し、下駄箱へ向かおうと足を向ければ以外にも口は閉ざされついてきた。
靴を履きかえ、残ったふたつの傘を互いに手にして昇降口の扉を開ける。外はまだどしゃ降りだった。
「異常気象だよね」
「だな」
「地下鉄動いてるかな
……
。うわ、田等院駅浸水だ」
傘をさしながらスイスイと携帯の液晶画面をスライドさせる緑谷。その画面を横目で見れば、遅延情報とゴシック体の赤い文字が轟の目に映る。
「帰れるのか?」
「うん。まあ。遅延はしてるけど、運休はしてないみたい。大丈夫だよ」
ぼたぼたと水滴が容赦なく傘を叩く。一歩を踏み出せばぼちゃ、と嫌でも靴に水がしみこむ。傘をさしているはずなのに、時折吹きつける風のせいで制服も容赦なく濡れる。
「緑谷さえよければ
……
うちに泊まるか?」
「えっ」
傘を差していても濡れ鼠に近い状況だ。この状態でいたら、家につくころには風邪をひくのではないか。そんな心配から出た言葉に緑谷は過剰に反応する。ぐりん、と頭がもげる勢いで轟を見た。
信じられない。と表現するのがふさわしいだろう。そんな風に目を見開き、口もあんぐりと開けながら轟を見る緑谷に、轟は少々居心地の悪さを感じる。
「お母さんもお前には会いたがってるし
……
嫌ならいい」
「ううん! 行く! 行きます! お邪魔します!」
友達の家にお泊りなんて、小学生以来だ! なんて大声で叫びながら喜ぶ緑谷に、じわりと胸に沁みるものを感じる。その感情に名前を付けられないまま、轟はじゃあ家族に言っとけと言いながら自分も携帯を操作し始める。
ふたりの足取りは、弾んでいた。
轟家までは乗り換えもなく、鈍行運転の電車に乗ることができればあっという間に最寄駅だ。
電車の中ではお互い家族との連絡であまり話すことはなかった。それでも喜びを抑えきれない緑谷と、どこかそわそわと携帯を操作する轟の姿はクラスメイトが見ていたら驚いただろう。たまにひとこと、ふたこと確認をしていれば告げられた駅名に轟が緑谷。と呼ぶ。
「降りるぞ」
「うん」
満員電車の中、すみません。と言いながらふたりは人混みを掻き分け、電車を降りる。出てきた人数よりも、入る人数の方が多い駅で、ここで降りれてよかった。と緑谷は潰されている人たちを見ながら零した。
「風呂、湧かしてもらってるからまず風呂入れ」
「え、いいよ。轟くん先入りなよ」
さくさくと駅構内を歩きつつ、予定を話せば緑谷は首を振る。
「着替えるからいい。オレはお前用の服探す」
「じゃあちゃんと僕が入ったら轟くんも入ってね」
「別に、個性で体温められる」
実際、轟は今も個性で体を温めている。それを告げれば緑谷は紳士だなあ。なんて不満そうに呟いた。
相変わらず、傘を差しても濡れる雨の中ふたりは轟家へと歩く。
「うわ、すご
……
日本家屋って感じ
……
!」
「親父の趣味だ。新しいほうだぞ」
「そうなんだ
……
」
巨大な家に感動しつつ、緑谷が轟の後ろを歩く。カラカラと引き戸の玄関を開かれ、招かれる。
「おじゃまします」
「ただいま。靴下もここで脱いじまえ」
「あ、うん」
ふたりして靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、置いてあったタオルで気になるところを拭き、ブレザーを脱ぐ。緑谷が轟家の床を一歩、踏みしめたところで轟の母親がぱたぱたと小走りで駆け寄ってきた。
「おかえりなさい、焦凍。いらっしゃい、緑谷くん。さっきお風呂湧いたから、緑谷くんは入ってちょうだい。あとでゆっくりお話ししましょうね」
ふわりと笑む轟の母親に、どこか気恥ずかしさを感じて緑谷は湿った髪を掻きながらお邪魔しますともう一度口にした。にこにこと笑う母親に、緑谷の着替え探してくる。と轟は告げて自分の部屋が二階なのだろう、ブレザーを母親に預けて階段を上っていった。
「さあ、早く入らないと風邪をひいてしまうわ」
制服は乾かしておくわねと笑顔で背中を押されてしまえば、もう抵抗心なんて生まれなかった。緑谷はお借りしますと言って、案内された風呂場へと足を向けた。
緑谷が風呂から出れば、洗濯機は回っていたし、着替えがカゴの中に入れられていた。カゴの中に入っていた服は自分の持っている服とは方向性が違う。それがまた新鮮で、緑谷は恐る恐るという風に袖を通す。サイズはぴったりだった。
着替え終わったら着替え終わったらで、食事の用意がされていた。急いで作ったからあまり手の込んだものじゃないけれども。と言われた言葉には十分ですありがとうございますと感謝の言葉を返す。
「轟君、服ありがと」
「おお。
……
それ、そのままお前にやる」
「ええ、そんな悪いよ
……
って言いたいところだけど、そうだよね
……
じゃあ貰っておくね」
他人が着たものは、着たくないのかも。とすぐに思い当たった緑谷が頷けば、轟はちょいちょいと手招きをした。
「髪。乾かしてねえだろ」
「あ、うん」
「ドライヤーここなんだ」
洗面台に無いと思ったらそういうことか。と緑谷は納得して、手招きに応じる。コンセントを差しこまれたドライヤーを受け取れば轟から痛いほどの視線も受け取ってしまい、首を傾げる。
「どうかした?」
「いや、別人みてえだなと」
「あー、髪今ぺったんこだもんね」
あはは、と笑いながらスイッチを押せばブオー、と強い風に煽られる。ぺたりと落ち着いているようには見えるが、濡れていようがうねっている髪は変わらない。乾かせばいつも通りのもさもさ頭なのだ。
髪を乾かしている間、轟はじっと緑谷の頭を眺めていた。そんなに面白いものなのだろうか。と緑谷は思うが、聞いたところでドライヤーの風の音で聞こえない。そう結論付けて、大人しく髪を乾かした。
もういいか、と緑谷がドライヤーのスイッチを切って轟へと向き直る。
「ドライヤーありがとう」
素直に礼を言う緑谷に、轟はああ、と言いつつドライヤーをコンセントから引きぬいて元の場所へしまう。
「ふわふわしてんな」
それから、緑谷の乾かし終わった髪を見てそんなことを言う。
「あー。そう見えるけど、やっぱりゴワゴワデスヨ
……
」
くしゃ、と緑谷が髪に手を差し込めば、触っていいかと尋ねられる。別にいいけど、と応えればわし、と教室で触った時と同じ力加減で掴まれる。
「
……
あったけえな」
「そりゃ、今乾かしましたし」
ふ、と轟の口が緩むのを見て、緑谷は小さく息を呑む。なにかを感じる前に、目の前のツートンカラーへ手を伸ばした。わしゃわしゃと手を動かして、赤と銀を好き勝手に触る。ぐしゃぐしゃになった髪を見て、ふはっと笑えば轟はこんなんすぐ直る、と手櫛で髪を整えた。
「髪乾いたならご飯にしましょうか」
じゃれあっていれば、轟の母親から声がかけられる。ふたりはそれに返事をして、席につく。
「ごめんなさいね、まだ家のひと誰も帰ってきてないのよ。少しさびしいけど三人で食べてしまいましょう」
「その方がいい」
「いえいえ、お気遣いなく
……
いただきます!」
そうして三人で食事を初めて、会話に興じていればまず轟の姉が帰ってきた。けれども彼女はすぐに、風呂場へと向かうことになる。
「焦凍が友達連れてくるって聞いて驚いた! 初めてだもの! ゆっくりしてね、緑谷君。あ、お風呂行ってきます」
それだけ言うためにダイニングを覗いた姉の言葉に照れくさそうにする轟は新鮮で、緑谷は和んだ。食べ終わったら食べ終わったで、部屋行くぞと声を掛けられ、緑谷は引っ張られるようにして階段を上る。
轟の部屋はシンプルな部屋だった。オールマイトをはじめとしたヒーローグッズに囲まれた自分の部屋とは大違いだと思いつつ、足を踏み入れる。
「一応、突き当りの部屋が空いてるんだが、緑谷はどっちで寝る?」
訊ねられて、緑谷はしばし考える。かなり昔の記憶を引っ張れば、小学生まで爆豪と同じ部屋で寝たことがざらにあったこと、中学生の時の修学旅行では誰ともなにも話さずに眠ったことなどがよぎり、ためらいがちに口を開く。
「ぼ、僕
……
友達と雑魚寝ってちょっと夢だったからここで寝たいかも」
頭を流れるのはなんとも悲しい思い出ばかりだ。それを拭い去れるチャンス。そんな思いを受け取ったのか、轟はあっさりと頷いた。
「わかった。なら布団持ってくる」
轟自身、友人が泊まりにくるなんて初体験なのだ。言ってしまえば、勝手がわからない。だから訊ねたのだが、返ってきた答えに少なからず喜ぶ自分が居ることに気づく。
布団を持ってきても、まだ敷かずに轟は学習机で、緑谷は折り畳みテーブルで宿題を片づけることにした。ふたりとも、数学や英語は苦手ではないため本日出された宿題もあっさり終わる。宿題が終われば、互いにどこか緊張しつつも好きなヒーローの話をし始める。
こういう時、緑谷の舌は驚くほどよく回る。
それを聞きながら、同意の言葉なり、驚きの言葉なり、反応すれば緑谷の瞳は爛々と輝いた。
ヒーロー話に花を咲かせていれば、コンコンと控えめにノックされ、轟家の兄姉や母親がお茶や菓子を持ってきた。
焦凍の友人、と興味津々に緑谷を見る家族に、居たたまれないと思いつつも轟は追い返さない。
学校ではどんな感じ、などと本人が居る前で普通は話しにくいのだが、緑谷は楽しそうに話した。緑谷の言葉にところどころ突込みを入れる轟に、兄姉たちは感動さえする。
「なあ、緑谷君。本当はこんな、本人が居る前で聞くことじゃないとは解っているんだが
……
焦凍って実際彼女とかどうなの? いないの?」
「兄さん」
「ああーそれ、俺も気になる。俺らは結構モテてたけど、ほらこいつ、ちょっと近寄りがたいから
……
どうなんだ?」
「え、ええと
……
轟くんがモテるのは知ってるんですけど
……
そういう関係の人は居なさそうデス
……
」
大変気まずそうに話す緑谷に、兄たちは青春しろよー! と轟の頬を摘まんだり頭をわしわしと撫でたりした。余計なお世話だと轟が反抗すれば、まああと一年あるかと兄たちは笑う。
「あ、そう言えば! 爆豪くんってやっぱ研修先の事務所行く感じ? 俺、あの子結構欲しいと思ってるんだよね」
「え!? あ、かっちゃん
……
は、なんか自分で事務所立ち上げる計画あるみたいで
……
まだ決まってないです」
「マジか! 相棒経験積まないで独立!? すげーな。っていうか去年も思ったけど爆豪くんと仲いいのか?」
「ああいえ、仲は死ぬほど悪いです」
爆豪の話題になれば、緑谷は変な顔で言葉を紡ぐようになった。ふたりの関係は幼馴染みだが、轟にはもっと不思議な関係に映る。互いに力を認めあっているような、水と油のような。デクのくせに、と吠える爆豪と、君には勝ちたいと立ち向かう緑谷。二年経っても変わらないその関係は、轟をはじめ、A組の中ではねじれ曲がって、絡みあっているように見えている。けれどもお互いにとって、特別な関係という評価は合っているだろう。
もう少し、緑谷の口から爆豪の話を聞きたいと思う反面、どうでもいいとも思える。なんとも言えないその思いを轟は烏龍茶で胃に流しこむ。
兄姉たちの話題は今度は緑谷自身へと移り、轟は緑谷から放たれる言葉に耳を傾けた。
しばらく話しこんでいれば、ガラガラと玄関が開く音がした。それに気づき、轟の母親は慌てて玄関へ向かい、兄姉たちは部屋の扉を開けた状態でおかえりなさいと叫ぶ。
「うわ、もうこんな時間
……
って、こんな時間までエンデヴァーは
……
」
「ま、独立するとこういう時間に帰ってくるのはざらだよ。じゃあ俺らもそろそろお暇するわ」
「焦凍も緑谷君も夜更かしには気を付けてな。明日も一応学校あるんだから」
「それじゃ、ふたりとも、おやすみなさい」
轟家の者たちが次々と部屋から出て行くのを見て、緑谷は轟に視線を戻す。
「すっごい緊張した
……
!!」
「
……
なんか悪ぃ。いつもはあんなテンションじゃねえんだけど
……
」
「いやいや、謝らないでよ。僕ひとりっ子だし、かっちゃんもひとりっ子だからなんか新鮮で
……
轟くん、愛されてるねえ」
ふふ、と思い出し笑いをする緑谷に、轟は肩をすくめる。それでも昔はこんなに会話をするような仲ではなかったんだけどな。という言葉は飲み込んだ。それを聞いたら緑谷はきっと謝り倒すからだ。
とりあえずとふたりは片づけをして、歯磨きも済ませ、あとは寝るだけという体制をとった。
布団に転がりながら、そういえばと緑谷はベッドに寝転がる轟を見る。
「轟くんも漫画読むんだね。ゲームとか漫画読むとか一切しない人だと思ってた」
「お前は俺をなんだと思ってんだ。普通に読むぞ」
言いながらも、轟の本棚に入っている漫画は少ない。緑谷が愛読している漫画が入っていることに気づき、緑谷はこれ僕も好き。と指差した。
その後もしばらく話して、眠気が来たのは轟が先だった。少しずつ、少しずつ返事が少なくなっていき、緑谷は照明を消す。
「おやすみ、轟くん」
「ん
……
」
「今日はほんとに、ありがとう」
それはこっちの台詞だと、頭では確かに発したのだが緑谷の耳に入ったのは轟の寝息だった。
「おはよう、轟くん」
ピピピとアラームが鳴り、それを手で止め、声のした方へ顔を向ければ制服に身を包んだ緑谷の顔が見えた。
寝惚けた頭で、轟は緑谷を三拍ほど見つめる。
俺、服貸さなかったか? それとも夢か? などと回転の遅い頭は現状を飲み込めない。
「
……
おはよう、緑谷」
辛うじて言うべきことにはきちんと舌が回る。
「おはよう。
……
ふふ、轟くん、ちょっと髪跳ねてる。レアだ」
楽しそうに笑う緑谷の頭こそ、いつもよりもさもさとしていて轟は森みてぇ。と欠伸をひとつした。
「自分で言ってたけど、確かにお前の頭すげえな」
「えっほんと!? 一応洗面所で直したつもりなんだけど!!」
わさわさと髪を撫で付ける緑谷の顔は真っ赤で、轟は小さく笑う。もう頭は冴えていた。
「朝、早いのな」
「まあね。ご飯先に頂きました」
「まじかよ」
「まじだよ」
肩の力を抜くように笑いあって、轟は寝間着のままベッドから降りる。
「じゃ、俺も飯食うか。先に学校行くなら行ってろよ」
くっと伸びをして、ふっと力を抜けば緑谷はううん、一緒に行く。なんて言った。
轟が階段を降りれば、緑谷も降りる。
「今日も雨だよー。それでも午後は晴れるかも、だって」
「そうか」
二人してダイニングへ向かえば、今日は遅いのねと母親に迎えられる。轟は緑谷の起きる時間なんて知らないし、起こすのも悪いと思ってアラームの時間をだいぶ遅くにセットしていた。それでもいつもならトレーニングを終えるくらいの、身支度にはずいぶんと余裕ある時間だ。緑谷はリビングの方へ向かい、ソファに腰かけてニュースを見はじめる。
「電車、どれくらい遅れてるんだ?」
「んー、メトロは二分程度の遅延だって。かっちゃんは今どこだろ
……
。まあかっちゃんもこんな雨じゃトレーニングの時間削って家出てるか
……
」
爆豪の心配をするということは、NR線が大幅に遅延しているということだろうか。ぼんやりとそんな事を思いつつ、轟は朝ごはんをいつも通りのペースで口に運ぶ。
轟兄姉たちはすでに家から出たあとらしく、轟が朝食を食べ終わるころに父の炎司が起きてきた。緑谷の姿に気付けば、朝食もそっちのけに緑谷へ色々聞きはじめる。大抵は、今年の雄英祭のことや、学校での息子についてだ。轟は早々に着替えに行っている為、昨日よりもすらすらと緑谷は炎司の質問に答えていた。母親もちゃっかり聞いている。
轟が部屋から出る頃に、いいんですか! と緑谷の大声が聞こえ、やや荒っぽく轟は階段を降りる。リビングのソファでノートを掲げながら、感動のあまり涙する緑谷が居た。
「何でけえ声出してんだ」
「え、エンデヴァーからサインもらっちゃった
……
!! か、家宝にします!!」
ざざっと90度に腰を曲げ、頭を下げる緑谷に悪い気はしなかったのだろう。炎司はまた遊びに来るといい。なんて言って食卓へ戻った。信じられないものを見た。と轟が目を見開いていれば緑谷は大事そうに鞄へノートをしまった。
「じゃ、行こうか轟くん」
「あ、ああ
……
」
靴を履き、傘を持ち、ふたりは家の中に向かって行ってきます。そう言って轟家から一歩踏み出した。
「そういえば、轟くんの髪ってお母さん似なんだね。轟くんのお母さんもさらさらだった」
傘の中から聞こえる声は、少し聞き取りづらい。けれども聞こえないわけではない。しっかりと聞き取れたその言葉に、轟はお前はどっち似なんだと聞き返してみる。
「んー、そうだなあ。あ。今度は轟くんがウチに遊びにきなよ! そしたらすぐわかるから!」
にこりと笑うその顔は、どこまでも楽しそうだ。
「
……
なら、そのうち遊びにいく」
肯定の言葉を轟が紡げば、緑谷は喜びで少し傘を揺らす。とん、とぶつかった傘からぱらりと散った水滴には、ひとつの青春が確かに映っていた。
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