もりやま
2015-06-10 22:17:50
3325文字
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そりゃ、お幸せにってね  山坂

山坂ジャック お題「結婚指輪」未来捏造山坂

山坂ジャック お題「結婚指輪」未来捏造山坂

未来捏造な山坂。同じ大学に通ってる設定。



そりゃ、お幸せにってね


「ねえ、坂道くんって、結婚とか考えてる?」
 小野田坂道、彼女いない歴イコール、年齢。童貞。
 そんなキーワードを頭の中でつらつらと瞬時に並べてしまい、小野田はキーワードを頭から追い出すように頭を振った。
「考えてないよ! そ、そもそも……出会い自体……ないし……
 後半はごにょごにょと誤魔化して、シェイクで胃に流せば真波もズコッと音を立ててシェイクを啜った。
「そうかなー。この前のレースなんか、女の子達キャーキャーしてたじゃん」
「真波くんの方が、きゃあきゃあ言われてたと思うけど……、って、そうだよ真波くんこそどうなの?」
 チョコシェイクを啜っていた真波に問えば、真波はストローを齧って視線を照明へ移した。
「うーん。考えてなかったけど、考えてみたら一瞬で答え出たって感じかな」
「え、えええ? ど、どういうこと?」
 ちなみに真波山岳、同じく彼女いない歴イコール年齢。つまり童貞である。
 へんなトコでも共通点だね。と真波はそれを笑ったことがあるが、恋人が居ない理由自体は、二人とも異なった理由である。
「結婚ってさあ、多分死ぬまで一緒に居たいってことでしょ?」
 自信のない言い方だ。それもそのはず、真波山岳という男は二十一歳になっても恋を体験したことがないのだから。そんな真波に、小野田は頷く。
「う、うん。多分、そう。死ぬまで一緒に居れそうな人と交わす約束……みたいな」
「約束?」
 どういうこと? と青い瞳がきょろりと動けば、小野田はその青い視線をまっすぐに受ける。
「ほ、ほら……汝、病めるときも健やかなるときも~っていう誓いの言葉ってあるでしょ? ……あったよね?」
 自信なく小野田がアニメや漫画で得た結婚式の知識を披露すれば、真波はそうなんだと少し意外な声をあげた。
「へー、病めるときも、健やかなるときも……ねえ……。病んでるときは愛なんていらないから治療に専念してよって感じだけど」
「真波くん、好きな人居るの?」
 突然結婚の話題を持ってきて、なおかつその話題を変えない真波に小野田がたまらず聞けば、真波はくすりと笑う。
「さっきの続き。死ぬときまで一緒に居たいっていうか、オレのこと忘れてほしくないなあって人は居たんだよねぇ」
 口調はとても軽いがどこかしみじみとした呟きに、小野田は驚いて身を乗り出す。
「ま、真波くんっ!!」
 ガタッと少し机を揺らしてしまい、店内の視線が二人に集中する。真波は小野田をまっすぐに見つめていれば、小野田は身をかがめて真剣な目つきで口を開く。
「それって……つまり恋じゃないですか……?」
 こそこそと、吐息まじりに放たれた言葉。それに対して真波は噴きだす。
「ぷっ! あ、はっ! ははっ! も、なに、その真剣な顔!」
 けたけたと笑いながら揺れる青い髪に、小野田はメガネを掛けなおしつつ静かに座る。周囲の視線は二人から解かれ、それを見て真波はシェイクを啜った。
「はー、恋、ねえ。そうなのかなあ」
「そ、そうなんじゃないかなーと、思いますけども……
 肩に力を入れて、小野田がフライドポテトを齧る。ぎこちない手つきに、真波の瞳が細まる。
「さっきからなんで敬語なの?」
「えっ、あ、いや、こういう話、したことなくて……しかも、ひとのなんて、アニメで得た知識くらいしか、ない……あ、うん、なんとなく……
 挙動不審な身振り手振りで、もつれる舌。それに対して不快感を出すことなく、真波もフライドポテトに手を伸ばした。
「そっかー、アニメとかでも勉強になることあるんだね」
「や、まあ、うん……たまに?」
「へー」
 さく、さく。とフライドポテトを二人で咀嚼して、シェイクを啜る。周りの客は学生が多いらしい。騒ぐ声に、店員がお静かにと注意をすることもしばしばだ。
「あっ、そ、そういえば……真波くん、二十一になったんだっけ」
 数日前行われた、部員による真波の誕生日会兼、レースの優勝祝いパーティーの記憶を引っ張って二人は笑う。
「うん。あ、誕生日プレゼントありがとー。時計、格好良かった!」
「えっ、いえいえ……よ、喜んでくれたなら嬉しいな!」
 ボクのプレゼント、覚えててくれたんだ。小さく、真波に聞こえるか微妙な声量で小野田がそっと呟けば真波の視線と絡まった。
「坂道くんがくれたやつだから、覚えてたんだよ」
「え? わ、わー! え、あ、ありがとう?」
「どういたしまして……って言うのも変か」
 沈黙が二人の間に降りてきて、数拍二人は口をぴったりと貝のように合わせる。その間、小野田はテーブルの水滴を眺めていて、真波は小野田をまっすぐに見つめた。
……坂道くんは、居ないの? 好きな人」
 沈黙を破ったのは真波からだ。ひとつ前の話題に戻されて、小野田は弾かれたように顔を上げる。
「いっ……いな、い……よ」
 突き刺すような、視線。ブレないその瞳の奥を見るのが少し、怖くなったのか小野田は数本しか残っていないポテトに再び手を伸ばす。
 すると、真波の指がゆっくりと触れてきた。
……じゃあ、貰ってもいいかな」
「へ……?」
 すり、と指同士が擦れたかと思えば、真波の指が小野田の指を掬いあげる。
 その小野田の指に、そっとストローの空き袋を近づけられて、指に軽く結ばれた。
「ま、なみくん……
「うん?」
 小野田の利き手は、右手だ。だからポテトを掴むのは右手だったし、ストローの袋を結ばれたのだって、右手の薬指だ。
 それでも、小野田の体温を上昇させるのには十分な出来事だった。
「あ、の……こ、これ、じゃ……プロポーズみたいだねって、いうか……
「うん。言ったでしょさっき。死ぬときまで一緒に居たいっていうか、死んでも忘れてほしくないなって人」
 ぱ、と手が離されて、真波は目蓋を合わせて笑うが、小野田の視線は指に釘づけである。
「ゆ、び…………
「えっ、あ、そうだっけ?」
 辛うじて、小野田が絞り出したのはそんな一言だった。そんな彼の一言に、真波は空き袋でできた指輪を引き抜いて、嬉しそうに手のひらを小野田に差し出す。
「じゃあ、左手出して?」
 催促され、小野田はゆっくりと手を差し出す。魔法にかけられたみたいに、小野田はその笑顔に逆らえなかった。
「あ。でもこれ、予約みたいなもんだから」
「は、い……
 どくどくと、心臓が脈打つ。それは紛れもなく小野田の心臓で、レンズの奥の瞳はほんの少し、潤んでいた。
 なにをかくそう、小野田坂道が恋人を作らない理由……いや、作れなかった理由が、真波山岳という男に惚れていたからである。
 突然の逆プロポーズに驚きと、歓喜がごったまぜになり、小野田は震える指先をきゅうと握り込む。
「坂道くんに、もしもこの先大事なひとができたらこの指輪のこと忘れていいからね。オレ、結婚って形式自体に興味ないから」
「あ、そ……そう……あ、ちが、そんなこと、ならないよ!」
 はっとしたように、小野田が真波の手を掴む。
 驚いて真波は掴まれた手を見れば、小野田の指先が素早く真波の指を摘まんだ。
 それから、ストローの空き袋を真波の指に巻き付けて、丸い瞳が赤い頬と共に真波の正面へ向きあう。
「ぼ、ボクも、真波くんと……死んでも忘れてほしくないって思ってるから」
 真波はそっと、自分よりも一回り小さな薬指に己の指を絡めて紙切れでできた誓いの指輪を見る。
 小野田がその指に力を込めれば、お互い少し汗をかいていることに気づく。
……こんな時、なんて言えばいいのかな」
 ため息のような声に、小野田は微笑む。
「病めるときも、健やかなるときも、貴方を想うと誓います。かなあ」
「いいね、それ」
 ファーストフード店の、二階隅の席。
 二十歳すぎの男二人は喧騒の中、ひっそりと愛を誓った。

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2015.06.10
山坂ジャック。(ワンドロ)お題「結婚指輪」

@mame_zu