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もりやま
2015-06-08 01:39:55
5161文字
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いわゆる、人生のパートナー 東坂
坂道君の携帯電話な東堂さん2
東堂さんが坂道くんの携帯な話2。
いわゆる、人生のパートナー
携帯電話、八型。
持ち主の声は聞き逃さず、メール文面作成に長けていて、時節の文に使えるテンプレート文章なども豊富にインストールされている。
性格診断、または本人の要望により、声の高さや性別などを最初に設定することができ、その声色は一万人分はあると言われている。
更に、性格診断から持ち主に合うよう性格や外見も変えているため、八型は持ち主の数だけ種類があると言って良いだろう。
そんな八型の持ち主の一人である、小野田坂道。
彼は「携帯を買い換えるなら、新機種にしよう」そんな気持ちで携帯を買い換えた。
そして、最新機種がどんなものかわからずに八型を購入することになってしまった。(ただし、一週間は試運転期間なので気に入らなかったら返品することができる。)
機種変する際に、性格診断や店員の質問の回答によって出来上がったのが、尽八。
切れ長の瞳に、形を整えられた眉。薄い唇にすっと通った鼻梁。黒い髪にカチューシャを挿している。
あまりにも綺麗な顔立ちをしていて、坂道は戸惑ったが家に連れて帰ればだいぶ打ち解けることができた。
なにしろこの携帯、喋るのである。
性格診断にて、チェックを入れた『友達が少ない』『友達が欲しい』『話し相手が欲しいと思ったことがある』の項目のせいなのか、尽八には『お喋りモード』がついていた。
一人暮らしの人には人気の機能だ。
そんなお喋りモード、坂道が好奇心から設定すれば、とにかく尽八は喋った。
好きなものはなんだ? から始まり、質問攻めにあう坂道。
普通ならば質問ばかりだと段々嫌気がさしてくるものだが最新機種は巧く会話にしていった。
途中から坂道の愛するアニメや漫画の話になり、坂道は自分から、嬉々として語りまくった。
尽八は勿論嫌な顔ひとつせずに、話を聞き、更に小野田坂道という人間の情報を取り込んでいった。
「あ、なんかすっかり話し込んじゃった。喉乾いたな
……
」
「水を飲むといい。流石にオレは坂道に水を汲んでやれない」
精密機械だからな! と言われて坂道は微笑む。ただの人間に見えるのになあ、そんな笑みだ。
「ええと、尽八さんは
……
ご飯どうします?」
首を傾げた坂道に、尽八も首を傾げる。
「ご飯? というのはオレにとって充電に値するが
……
寝る時で大丈夫だろう」
「あ、そ
……
そうなんですか。ええと、じゃあ充電して欲しい時はお腹空いたって言う感じでしょうか
……
?」
恐る恐る、というふうに坂道が尋ねれば尽八はやれやれと首を振った。
「キミは本当に敬語が抜けないな! もっと気安く対応していいのだぞ! しかし
……
そうだな。電池が切れそうな時は、腹が空いたとは言わずに、充電してくれと言うぞ」
「そうですか」
「そして、このカチューシャ。実はただのカチューシャではない!」
かぱっと音を立てて、カチューシャがはずされる。坂道はわくわくとしながら、尽八のカチューシャを見た。
「なんとこのカチューシャ、非常用バッテリーなのだ!」
「そうなんですか!?」
「うむ。つまり非常用バッテリーの分も合わせると、オレは明日の夜まではもつと思うぞ」
カチッとカチューシャ型のバッテリーを嵌めて、尽八は得意気に笑う。
「最新機種って
……
凄いんですね
……
」
坂道が水を一口飲みながら感心すれば、尽八はこれまた得意気に頷いた。
「それより坂道、今日はオレを買って帰ってしまったが良かったのかね?」
「え? ああ、気にしないでください。携帯買う為に出掛けたんです」
はにかんで言う坂道に、尽八はそれならよいが。と言ってから、何度か瞬きをした。
「む。今泉から返事が着たぞ。あいてる。だそうだ」
簡潔な本文を、そのまま伝える尽八。坂道はその言葉にぱっと顔を輝かせる。
「それじゃ、土曜日にこの前言ってた映画見にいこうって誘ってくれる?」
「了解した。送信したぞ」
ぱぱっと済ませる尽八に、坂道はすごいや尽八さん。なんて褒めた。それに対して尽八は当然だと高笑いで返す。
人間味溢れる尽八はとても携帯電話に思えない。そして、坂道はそこで重大なことに気づく。
「
……
尽八さんって、携帯電話
……
なんですよね」
「ああ。そうだ。キミ専用の携帯電話だな」
坂道の言葉に、こっくりと頷く尽八。
「それってつまり
……
土曜日も貴方と映画見に行くってことですよね」
「出かける時に携帯を持つ習慣があるのなら、そうだな」
真剣な目で聞いた坂道は、そこであー、や、うーなどと歯切れ悪く声を出す。
「映画のチケット、二人分払わないといけないのかな
……
」
「なんだ、そんなことを気にしているのか? そんな心配には及ばんよ。オレはキミの携帯電話なのだから」
そうはいっても、とても『持ち運び』できるものではない。映画館で映画を見ている時は電源を切るなりマナーモードにする。けれども、この外見の携帯電話にふさわしいのは座席だろう。そう思った坂道はほんとうに大丈夫なのだろうか。としか思えなかった。
そうして、今泉との約束の土曜日。
坂道は尽八と街を歩いていた。
街中を歩けば、すぐに周りの視線は尽八に刺さった。
「アレ、八型じゃん」
「すげー、最新機種」
そんな会話が聞こえてきて、坂道は居心地が悪くなる。背中を少し丸める始末だ。
「こら、坂道。背中を丸めると心まで小さくなるぞ」
「は、はあ
……
」
しゃんと真っ直ぐ立って歩く携帯電話は、やはり人間よりも少しぎこちない。そのまま今泉との待ち合わせの場所まで歩けば、目的の人物もまた注目されていた。
「あのひと、今泉じゃない?」
「ね~、彼女とか待ってるのかなあ」
こちらは、坂道が受けたことのない類の視線だった。きゃいきゃいと遠巻きに騒がれている男。この男こそ、坂道の数少ない友人のひとり、今泉俊輔であった。
「い、今泉、くん!」
指定の時間より五分前に着いた坂道。手を振れば、今泉が視線を寄越し、目を大きく開いた。
「よ、小野田。
……
驚いたな、それ、噂の携帯か?」
「う、うん。まあ
……
ね」
歯切れ悪く話す坂道の前に尽八が出て、手を差し出す。
「小野田坂道の携帯電話の尽八だ。よろしく頼む、今泉くん」
差し出された手に指紋はない。つるりとしたその肌を、今泉の手がぎこちなく重なる。
「は、はあ。どうも」
重なった手を数回、振り、尽八はその手を離す。温度はどちらかというと冷たい手に、今泉はなんとなく、視線が行った。
「じゃ、じゃあ映画見よっか! ね! 今泉くん見たいって言ってたやつ!」
「ああ。そうだな。
……
コイツ、ついてくるんだよな?」
「えっ、あ、うん。ボクの携帯だし
……
」
坂道と同じことを思ったのだろう。今泉も少し心配そうに尽八を見る。そんな二つの視線に対し、尽八は得意げに目を伏せた。
「全く、キミ達はオレ達携帯のことをあまり知らないのだな!」
そう言って、二人よりも先に行く尽八。慌てて二人が追いかければ、店員にいらっしゃいませと声をかけられた。
「席はネットで取っておいたから、あそこの機械で大丈夫だね」
「ん。任せた」
「オレが良い席を取っておいたぞ! ワハハ!」
笑う尽八に、坂道は苦笑し、今泉は呆れのため息を吐いた。
「お前の携帯、変わってるな」
そんな一言に、坂道は苦笑いをしながら「でも、すごい携帯だよ」と頷いた。
チケットをホールの前で店員に差し出せば、店員は尽八を見て、持ち主である坂道を見た。
「シネマモードに致しますので、少々失礼します」
「へ?」
そう言って店員が、尽八の頬になにかを押し付ける。尽八は口を引き結び、頷く。
「シネマ
……
モード
……
」
初めて耳にする単語に、店員はにこりと笑顔をつくる。
「絶対に映画鑑賞の邪魔をしない、盗撮をしないモードです。映画が終わると同時に、ここへ入ってきた時のモードに戻ります」
恐るべき技術の進歩に、坂道はきらきらと瞳を輝かせた。
「す、すごいですね!? SFっぽい!」
「それでは、ごゆっくり」
やはり笑顔で送り出す店員。坂道は興奮気味に今泉に言うが、今泉はその手の話に詳しくない為そうだな。と言うだけであった。
「では、オレは携帯専用席へ行く」
「え!? 専用席? そ、そんなのあるんですか?」
ホールに着くなり、尽八が去ろうとすれば、坂道が驚く。
「うむ。この映画館には備わっているらしい」
どうやら電波に引き寄せられるらしい。そんな風に呟きながら、尽八はホールの後ろの隅へと向かって行った。
「
……
なんつーか。携帯も大変だな」
「う
……
うん」
とりあえず二人は自分たちの席へ向かい、映画を楽しんだ。
映画を見終わり、今泉と坂道が出入り口へ向かえば丁度良く尽八と合流した。
「二人はこういう映画が好きなのか?」
合流するなり尽八がした質問。それに対し、二人は顔を見合わせてそれぞれ複雑な顔をした。
「うーん。ボクは今泉くんが誘ってくれてから洋画見るようになったんですけど
……
進んで見るのはやっぱりアニメ映画ですね」
「オレもあまり見ないな。ただ、今回のは結構話題になってたから見てみたくなっただけだ」
それぞれの声に、尽八はなんだと少しがったりしたような声を出す。本当に、とても感情豊かな携帯電話である。
「二人の好みだったならば、オレが似たようなジャンルの映画を探したりもできたのに
……
」
「尽八さん、そんな機能もあるんですか?」
感心する坂道に、尽八はちっちっちと指を振る。
「オレは一応人工知能がついているからな! 昨日のオレよりも今日のオレ、今日のオレよりも明日のオレの方が優れているのだ!」 一応、というのはそこまで人工知能に重きを置いていないのだろう。鼻高々に話す尽八に、今泉と坂道ははあ。そうなんだ。とあまりノリの良い返事は返せなかった。
「ところで、二人とも。そろそろ腹が空いているのではないか?」
「あ、そうですね。もうお昼には良い時間ですね」
「なんだ? まさかアンタが作るとか言うんじゃないだろうな?」
今泉の中では随分なんでもできる電話になっているらしい。そんな今泉の発言に、尽八は笑む。
「それはどうあがいても無理な話だな。オレは水にはめっぽう弱いのだ! そうではなくて、何か食べたいものがあるのなら検索かけて案内するぞという提案だ」
「ああ、成程
……
小野田はなんか食いたいものあるか? オレはなんでもいい」
「ぼ、ボクも
……
そういうのあんまりこだわらないかなあ」
「坂道はもう少ーし、食べ物というものに興味を持ったらどうなのだ? 毎日味気ない、代わり映えのない食事は見ているこっちが気が滅入るぞ
……
」
やれやれ、と言いながら尽八が告げた言葉に、今泉が盛大にため息を吐いた。
「小野田、おまえ
……
」
「えっ、ちょ、じ、尽八さん!? いつもそんなこと言わないじゃないですか!」
冷たい視線を向けられ、慌てる坂道に尽八はワハハと笑う。
「本当のことではないか! もっと食事に気を使って貰わないと困る。まだオレのローンが残っているのだからな!」
「わ、わー! や、やめてくださいよそういう事言うの!」
じゃれ合う携帯と持ち主を尻目に、今泉は目が惹かれた店を指差す。
「あそこでいいか?」
さっさと食おうぜ。そんな今泉の心を読みとった坂道は、うん。と頷きながら今泉の後ろについた。
「それにしても、すっげーな。今の携帯」
「あ、う、うん! ボクもそれ思った! すごいよね!」
「フフ、オレは携帯の中では最新機種! 最高傑作だからな!」
尽八を見ながら感嘆の吐息を零す人間二人に、携帯電話は高らかに笑う。その笑みは紛れもなく、自信に満ちていて今泉は更にすげえと言葉を重ねた。
「小野田の接し方もあるんだろうけど、本当に人間みてーだな」
パッと見てすぐ機械とわかるのに、その言葉の紡ぎ方や仕草は人間のそれと全く相違ない。今泉や坂道の会話に自然に混じれること、二人自身が尽八と『会話』をしてしまうこと。その二点は特に、機械らしさを感じさせない。
「なんつーか、携帯電話って域を超えてんな。友人、もしくは保護者みてぇ」
控えめに笑いながら告げられたその言葉。坂道は一瞬はっとしたし、尽八は一瞬でその言葉に対する返事を音声に乗せる。
「そうだ。オレや自立型携帯電話のコンセプトは、持ち主のパートナー。だからな!」
*
*
ワンライになってないやつ。
五話編成にできたらいいなー。
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