もりやま
2015-05-31 22:00:05
3731文字
Public 山坂
 

ああ、これって奇跡っていうのかな 山坂

山坂ワンドロお題「誕生日」2015.05.31 未来捏造の付き合ってる山坂

 生まれた日なんて、別に感謝するような日でもなかった。

ああ、これって奇跡っていうのかな


 今まで誕生日を祝ってくれたのは、委員長や両親くらいだった。
 中学生の時、小学生の時はそんなに交友関係が広くなかった。
 小学生の時は、体が弱くてそんなに学校に行ってなかったし、自転車に乗る様になってからは友達欲しいよりも自転車乗りたいって思う事が多かった。
 だから、好き勝手自転車を乗っていられるようになった頃じゃオレは自転車ばっか乗っていたから友人と呼べるくらいのひとはほとんどいない。
 そんな感じで生きてきたら、オレの誕生日とか皆どうでもよかったし、オレもどうでもよかった。
 でも委員長は昔から祝ってくれた。なんでって聞いたら「貴方が生まれてきてくれてよかったって、今も生きていてよかったってお祝いするのよ」なんて言ってたっけ。
 ふーん。って感じだった。小学生の頃はとくに。生きていてよかった、なんて委員長は言うけれど、オレは生きてる感じしてなかったから。
 自転車に乗るようになって、生きてる実感、今オレが地球に立っているっていう実感はある。でも、生きててよかった、生まれてきてくれてありがとうなんて思われるほどの人ではないと思う。
 だから、誕生日なんてどうでもよかった。
 そんな程度の日だったんだよ、オレにとって。
 高校生になって、尊敬できるひとに会った。
 高校生になって、初めてライバルって存在に出会えた。
 高校生になって、初めて人を嫌いになった。
 高校生になって、初めて、恋をした。
 高校三年間はすごく充実した日々だった。毎日が楽しくて、沢山怒られたし泣いた日もあったし、自転車にも沢山乗った。
 そんな高校三年間、やっぱりオレは誕生日に祝われるようなことはなかった。
 先輩の誕生日は何人か、何度か祝った。みんなして、おめでとうなんて言って、先輩も喜んでいた。
 なんとなく、なじめなかった。いや、祝いはしたんだけども。
 東堂さんには「生まれてきてくださってありがとうございます」っていう気持ちがあったし、ちゃんとお祝いをする分には理解してたと思う。
 でも、だからと言って自分が祝われる側になるのはちょっとなあって感じだった。だから、自分の誕生日には山まで一人で走ったり、誕生日のことはうやむやにしてた。
 オレにとって、誕生日って本当に「その程度」の日だった。

「お誕生日おめでとう、真波くん!」
 だからにっこりと笑って、そう言う坂道くんには心底驚いた。
「なんで……?」
 なんで知ってるんだろう。そう思って首を傾げれば、坂道くんは丸い瞳をきらきらと光らせた。かわいいなあ。
「あのね、東堂さんに聞いたんだ!」
 ぴたりと瞼を合わせて笑う坂道くんは、とても可愛い。こっちまでつられて笑いそうになるくらい。それでも今回はちょっとばかし違う。
「東堂さん、オレの誕生日なんて知ってたんだ」
 どこで漏れたんだろうオレの個人情報。そんな感じだ。坂道くんは実はね、とはにかんだまま口を開く。
「東堂さんとか、三年生の先輩たちは知ってたんだって。でも知ったのは真波くんの誕生日が過ぎた頃だったから、祝えなかったんだって」
「へえ……
 坂道くんはじっとオレを見る。坂道くんの眼って、不思議だよね。こんなに丸くて、おはじきみたいに綺麗なのに、レース中はギラギラって鋭くなるんだ。そんなときの瞳も、好きだけど。
「あの……ご、ごめん……
「え? なにが?」
 途端、俯く坂道くん。なんでだろ。しおれちゃった。覗きこめば、ちょっと視線を逸らされる。なんで。
「あんまり……嬉しくなさそう…………ご、ごめんねなんか……
 確かに別に、嬉しくはない。けど、坂道くんがそんな顔をするのは嫌だなあ。
「ううん、そんなことないよ。驚いただけ」
 にっこり笑って、そう言ってみる。けど坂道くんはオレをじっと見て、また逸らす。
「あの……誕生日って、……特別が許される日だと思うんだ」
「うん?」
 ぽつ、ぽつ、と小さく坂道くんの声が落ちる。ああ、愛想笑いがばれてるのかな。
「だ、だから……その……真波くん、欲しいものとか、わがままとか、ないかな」
「えーそう言われてもなー……オレ、けっこーわがまま言ってるし」
 これはほんと。坂道くんにお願いって言うと、大体坂道くんはしょうがないなあって聞いてくれる。ごめんね、甘えて。とは思うけどやめられない。だって、それくらい坂道くんに構ってほしいから。オレのおねだりってつまりはそういうこと。
「ぜ、全然! いつものはおねだりじゃないよ!」
「ううん、おねだりだよ。いつもごめんね」
「あ、あーうー、ち、ちがくて! そんな話をしたかったわけじゃなくて!」
 あわあわと両手を胸の前で振る坂道くん。確かにお祝いムードからは離れてきてる。
「あー、オレの方こそ、ごめんね。変な空気にして」
 正直に謝れば、坂道くんがきゅっと唇を結んでオレを見る。
「あのねっ! も、もし……真波くんが生まれてきてなかったら、ボクは真波くんに会えなかった!」
……ははっ、うん、うん。そうだね」
 いきなり何を言うのかと思えば、そりゃそうだねって事をキミが言う。オレよりちょっと小さな体を、抱きしめる。
「うん。坂道くんが生まれてなかったら、今こうやってしてるのは違う人だったかもしれない」
 もしかしたら、東堂さんをこうやって抱きしめてたかもしれないし、委員長をこうやって抱きしめてたかもしれない。あーでも、うん。坂道くんが居なかったら誰ともこんな関係になってないかも。うん、なってないと思う。
 坂道くんが今日、うちに来てって誘ってくれなかったらオレはひとり、また山へ走り出していたと思うし。
――坂道くんって、すごいなあ。
「そ、それは……ぼ、ボク、生まれてきてよかった!」
「あはは、うん。キミと出会えてよかった」
 きゅう、と腕に力を込めれば、坂道くんの手がオレの背中に回った。あー、こゆことされると胸がじわっとあったかくなるのって何でだろう。不思議だね。坂道くんの匂いがすると、肺一杯に吸い込みたくなる。キミだけだよ、こんな風になるの。きっとこういう感覚を、幸せっていうんだろうな。生きてるって感じとは、また違う感じ。
「ああ……そっか」
 坂道くんが居なかったら、オレは幸せというものを知らないままだったのか。
 すとんと胸の中に落ちた。映画やアニメみたいな言葉だけど、それって皆は当たり前にわかってることなんだ。
 もしも、坂道くんが居なかったら。
 オレは一年生の時、インターハイで一位。山頂を一番最初に踏みしめられただろう。
 もしも、坂道くんが居なかったら。
 オレは、誰かと走る喜びと、負けたくないって気持ちを持たないまま、ひとりで走ってたんだろう。
 もしも、坂道くんが居なかったら。
 オレはきっと、誰も愛することができずに坂を登るだけだったんろう。
 きっとそれって、つまんない日々だ。
……坂道くん。生まれてきてくれて、ありがとう」
 みんな、こんなことを知ってたんだ。そりゃ、お誕生日おめでとうって言うかもしれない。ううん、言うよね。その人と一緒にいる時間を、その人と一緒にいることの幸せを知っているのなら、なおさら。
 今まで、誕生日なんてどうでもいいと思ってた。
 だってどうせ、生きたいと思ってこの世に生を受けたわけじゃない。そんなことを思ってた。
 腕の中の幸せの塊を抱きしめれば、その幸せは真っ赤になった。
「そ、それ……ボクのセリフだからね……?」
「じゃあ、坂道くんも言ってよ」
 今なら、聞きたい。
 そのおめでとうって言葉を、生まれてきてくれてありがとうって言葉を。
 オレが大好きな、その声で。
 耳を坂道くんの頬に擦りよせれば、坂道くんの吐息がこぼれる音がよく聞こえた。
……ま、なみくん。生まれてきてくれて、ボクと出会ってくれて、ありがとう……お誕生日おめでとう」
 唇が開いて、閉じるのを空気で感じる。ゼロ距離で紡がれた言葉は、自転車に乗ってる時じゃあ得られないものだ。
「うん。ありがとう」
 今日で、十九歳になった。
 十九年、わかってなくてごめんね。なんて誰かに謝る。自分にだったのかもしれないし、母さんにだったのかもしれない。
 ようやく、わかったよ。今日という日がどんなに素晴らしい日なのか。
 そんな日を、恋人であるキミと過ごせることがどんなに幸せなことなのか。
「キミって本当に、すごいや」
 心からそう言えば、坂道くんはくすって笑って、ちゅってオレの頬にキスをした。
 ああ、本当に。キミが生まれてなかったらこんな思いすることもなかったんだろう! それってすっごく勿体ないことだ!

 真波山岳、十九歳。
 オレ、生まれてきてよかったー! ってようやく言えるようになりました。



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山坂ワンドロお題「誕生日」

2015.05.31
@mame_zu 

おめでとう真波くん!!!!

タイトル今度変えたいかな