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もりやま
2015-05-31 01:24:57
4639文字
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ご契約ありがとうございます! 東坂
坂道くんの携帯電話東堂さんの話
日本の携帯電話はここまで進化を遂げていたのか。と小野田坂道は携帯電話の前で立ち尽くした。
ご契約、ありがとうございます!
小野田坂道、十八歳。
めでたく第一希望の大学へと進学できた春に、携帯電話を買い替えることとなった。
携帯電話、というものはめざましい進化を遂げていて、坂道の中では薄い板状のスマートフォンが主流になっていた。
坂道の中で、というのには理由がある。
今現在、携帯電話。というものはスマートフォンからまた進化しているからだ。
「小野田様?」
「ひゃいっ、え、ええと
……
あの
……
」
にこやかに話しかける店員に、坂道はうろうろと視線を彷徨わせる。それは、坂道の目の前に立つ男から視線を外すためだ。
「いかがしたかね、マスター」
「え、っと
……
あの
……
こ、このひと、携帯
……
なんですよね?」
そう言って、坂道が指差すのはカチューシャを付けた青年だった。
眉は綺麗に整えられ、すこしつりあがった藤色の瞳に、高い鼻。白い歯を見せながら笑む男は、最新機種の携帯電話である。
そんば馬鹿な、と坂道は男から目を逸らす。
坂道は中学生の頃から、携帯を買い替えていなかった。だから携帯電話の進歩は彼の周りの人間でしか知る事がなかったし、興味もなかった。まさか、携帯電話が進化を重ねて人型になっているだなんて、誰が思うだろうか。
頭を抱えたくなる坂道に、店員が困った顔をする。
「も、申し訳ございません。何か不手際でも
……
? お客さまのご注文どおり、最新機種のつもりだったのですが
……
」
「い、いえ
……
あの
……
はい、問題ないです
……
た、ただ、お
……
おいくらでしょうか
……
?」
携帯電話、というよりはロボットである男の藤色を少し見つめて、坂道も困った顔をした。
最新機種の携帯を、と頼んだはいいがこんなに大層なものが出ると思わなかったのだ。財布の中、口座のなか、坂道のお金を全て使っても購入できる代物なのだろうか。と坂道は冷や汗をだらだらと流し始める。そんな坂道を見て、店員と携帯電話が顔を見合わせた。
「ふむ
……
確か毎月二千円から
……
支払い可能ではなかっただろうか?」
カチューシャをつけた携帯電話が店員に向かって聞けば、店員は頷く。
「はい。ただ、その場合はお支払いが完了するまでに何年もかかってしまいますけれども」
「うむ。マスター」
マスター、という声と共にカチューシャの男は坂道の肩を掴む。
「は、はいっ?」
弾かれたように顔を上げる坂道に、カチューシャの男は微笑んだ。
「キミの人生のサポートをオレにさせてほしい。きっと後悔はさせない。オレはキミが気に入った」
「は、はあ
……
」
困惑する坂道をよそに、カチューシャの男は店員に向き直る。
「と、いうわけで購入決定だ!」
「え、ちょ、まっ」
「小野田坂道様。こちら、我が社の最新機種の携帯になります。ご覧のとおり、自立型の携帯電話となっており、貴方の人生のパートナーとして動きます。まあ、ロボット
……
アンドロイドと暮らすようなものと思っていただければと思います。この新機種は、貴方の為だけに設定されたただひとつの携帯電話です。貴方様の思考や希望に沿ったものとなっております」
「は
……
はあ
……
」
「とはいえ、このような携帯電話は今までとはなにもかもが違い、貴方様が戸惑うのは仕方のないことです。当社ではそのようなことを考慮して、一週間の試運転期間を設けさせていただいております」
「そ、そうなんですか」
「そうだったのか?」
坂道とカチューシャの男が二人で声をそろえれば、店員はうんとひとつ頷く。
「と、いうことで、一週間後にまた購入確認をいたしますので、今日はとりあえずその携帯電話を使用してみてください」
「は、い」
「では、名前を決めてください」
にこりとしながら店員が紙を差し出す。その紙を見て、坂道はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「名前って
……
携帯の、ですよね」
「はい」
頷かれ、坂道が男を見れば、男もこくりと頷いた。
「えっと、機種名とか
……
」
「そんな味気ない名前はお断りだぞ!」
「ええ
……
?」
機種名で済ませようとした坂道が、携帯電話に先手を打たれる。坂道が男を見れば、男はびしっと坂道へ人差し指を突き付けた。
「オレは、ハチ、なんて味気ないし犬のような名前はお断りだからな!」
「それじゃあ、貴方はどんな名前が良いんですか?」
「うむ
……
キミのパートナーになるわけだからな
……
坂道サポーターでどうだろうか!」
胸を張りながら答える携帯電話に、坂道はがっくりと肩を落とす。それは名前ではなく、どちらかというと役職だ。呼びにくいことこの上ない。そんな風に思いつつ、坂道は顎に手を当てる。
「ボクの、パートナー
……
」
「ああ。一応保証期間は七年。その間は、いやそれ以上
……
この体が朽ちるまでキミに尽くすと誓うよ」
甘いセリフは、果たして坂道が望んでインプットしたものなのだろうか。店員は二人の話を聞きつつ、坂道にボールペンを握らせた。
「尽くす
……
あっ、尽八ってどうですか? ボクに、尽くしてくださる、ハチ機種ってことで」
「尽八
……
というのなら人名発音的にはじんぱち、だろうな」
「あ、そ、そうなんですか
……
ど、どうでしょう?」
じっと坂道が、携帯を見つめる。藤色の瞳は硝子玉でできているのか、つるりとした光沢を見せている。
「うむ。いいだろう。今日からオレは、尽八だ!」
「それでは、この紙にご記入ください」
決まると同時に、店員が坂道に振れば、坂道は素早く紙に書きこむ。尽八、と書かれた紙を店員が持ち、携帯電話の尽八の額にぺたりと押し付けた。
「あの
……
? なにやってるんですか?」
「悪用されない為の、インプット作業です」
「うむ。これがキミの字か」
ピピ、と音がしたかと思えば、尽八の瞳がピカっと一瞬光った。すぐ光は収まり、尽八は坂道の腕を自分のに絡ませる。
「完了だ。それでは、マスター。今日からオレが、キミの携帯電話だ!」
「え? あ、あの
……
あ、はい。よろしくお願いします!」
ずるずると引きずられる坂道へ、店員はやはり営業スマイルで大事なことを告げる。
「お客様のデータは全て、尽八に写していますので、ご安心くださいね」
「あ、はいっありがとうございます!」
「それでは、また一週間後に」
その言葉にほっとしつつ、坂道は慌てて足を踏み出し直す。それを見て、尽八は満足そうに笑んだ。
「ええと、尽八
……
さん?」
「何故さん付けなのだ? キミの携帯なのだから、呼び捨てで構わないだろうに」
「いえ、その
……
なんていうか、ボクよりも年上のできるひとって感じなので
……
」
坂道の部屋に着くなり、坂道は尽八に座布団を寄越した。尽八はそれを丁重に断ったが、坂道は納得がいかないようで自分も床に正座した。そんな坂道が、尽八をまっすぐに見る。
「ボクの携帯
……
とは聞いてますけど
……
具体的にはどんな感じなんでしょうか?」
「どんな感じ
……
とは?」
尽八が首を傾げて聞き返せば、坂道はこれが携帯だなんてとめまいがしそうだった。それほど、尽八のちょっとしたしぐさは人間に近いのだ。
「ええと、ですね。例えばー
……
電話! 電話ってどうやるんですか!?」
「電話か。任せたまえ! 誰にかけるんだ? さっき店員が言ったようにオレの頭に入っているぞ!」
途端やる気になり、少し前のめりにすらなる尽八に、坂道は苦笑する。そんな中で、突然何の用もなしに電話をかけても怒らなそうな人物を頭の中に思い浮かべて、坂道は尽八を見つめなおす。
「真波、山岳くんに
……
えーと、かけてください」
「了解した。真波山岳だな」
言うなり、尽八は眼を瞑る。それを坂道が数秒ほど見守っていれば、尽八の瞳がすっと開いた。
「んん
……
? つながらんな」
「あ、やっぱりそうですか」
どこかほっとしたように言う坂道へ、尽八は片眉をぴくりと動かす。
「つながらないのが普通なのか?」
「普通ってほどではないですけど、繋がらないことは多いですよ」
「分かった、覚えておこう。ほかに、試したい機能はあるか?」
聞かれて、坂道はすぐに口を開いた。
「メール
……
は」
「ふむ。誰に送るのだ?」
「ええと
……
今泉俊輔、くんに」
「今泉だな
……
なんと送る?」
きょろ、と藤色に見つめられて、坂道は少し飛び上がる。
「えっ、キーボードとかないんですか!? 口頭!?」
「キーボードなんてそんな無粋なもの、オレに搭載されてるわけがないだろう! キミの言葉は一言一句違わずに、相手に送りとどけるぞ!」
心外だとばかりに尽八が言えば、坂道はしばし視線を彷徨わせたのち、唇を動かす。
「来週の土曜日、あいてるかな?って聞いて欲しいんですけど」
「心得た。送信完了だ」
「早っ!」
「当然だ。オレはそういう機種だからな!ナナとは違うのだよ!」
驚く坂道に、得意げに尽八は話す。ナナ、というのは前シリーズの携帯電話だろう。それを坂道は察して、にこりと笑う。
「尽八さんはすごいですねっ!」
「ああ、オレは凄いのだ。今のところは、だが」
ふふん、と鼻を鳴らす尽八はほんとうに、人間味溢れる動作だ。
「さて、マスター。オレはキミに気に入られたい」
「へ!? あ、はい!」
尽八の言葉に真剣さが含まれているのを感じ、坂道は背筋を伸ばす。
「なぜなら、この顔や声、思考はキミから作られた、キミのパートナーにふさわしいと思われるであろう造りなのだ」
「あ、それ
……
どういう意味なんですか? お店の人もあなたのために設定した
……
とか言ってましたけど
……
」
「店でアンケートに答えていただろう」
尽八の言葉に、坂道は手に拳をうちつけた。
「あ、ああ! あれって性格診断の一種だったんですか!」
「そういうことだ。キミの回答から生まれたのが、このオレというわけだ!」
全く日本の技術の進化というものは恐ろしい。ひとりひとりに合った携帯電話が、一日で作れてしまうのだから。
そんなことに感心していれば、尽八が坂道の手を取った。ひんやりとした肌は成程、人のぬくもりが感じられない。
「まずは一週間、オレを色々と試してほしい」
人のぬくもりは感じられないが、ふわりと微笑むその顔は作り物に思えない。そんな尽八の手を坂道は握り返して、瞼をぴたりと合わせた。
「ふふ、なんだか、二人暮らしになるみたいですね」
「近いものではあると思うぞ。オレにはおしゃべり機能もついてある。キミに寂しい思いは極力させんよ」
ウィンクをしながらそう話す尽八に、坂道はくすぐったい気持ちになった。けれども嫌ではない。むしろ、自分の希望通りの設定なのだなと実感したくらいだ。
「嬉しいです。それでは
……
まずは一週間、よろしくおねがいします」
「ああ。まずは一週間、だな。よろしく頼む」
こうして、最新の携帯電話、尽八と大学一年生の小野田坂道のふたり暮らしは始まったのであった。
*
*
***
途中詰まって、っていうか上手く文が打てなくてびっくりした話。一時間余裕で超えてしまった。
個人的に萌えるところ、書きたい所まで行かなかったので、続きます。多分。
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