望月 鏡翠
2025-04-20 23:59:49
1076文字
Public 日課
 

#1698 「大都市」「花種」「賀表」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 コンクリートと高層ビルの窓が写す鏡面の煌めき。陽を照り返し、焼け付くほどに暑いのにその景色からは温度を感じない。
 大都心の景観はある日、一変した。
 美しい蔓草がひとつかみ、天を舞うのを見た。草が空にあるのは、かなり珍しいことではあるが、異常というほどのことではなかった。どこかで庭木の手入れをしたあと、竜巻でも起こったのだろう。珍しい光景を捉えようと、暇な人間がカメラを向けた。その程度である。
 しかし、その蔓草は見た目よりもっとずっと高いところにあった。地上からそれを見た人は、ビルの上くらいにあるのだと思っていた。大きさもそのくらいでちょうど良い。だが実際は、雲よりも上の宇宙に近い場所にあった。宇宙からもその姿が見えるほどに天高く、そして大きかった。
 宇宙ステーションからの報告で、人々はその大きさを知った。そして慄いた。
 突如街の上空に浮かび上がったそれは、旅客機などよりもずっと大きいことになる。しかも自力で中に浮かんで、動いていた。
 人は高性能のカメラと注意深い観察により、どうやらそれが生き物であるらしいということを突き止めた。今まで見つからなかったのは、植物に擬態して山中に隠れていたからだろうと推測された。擬態をするのであれば、危険なものではない。いや、大人しくともあれほど大きなものが、地上に降り立つだけで大惨事になる。
 その日から、街にはぱらぱらと何かが降り注ぐようになった。
 人々の反応は二分された。逃げ出すものと、留まるものがいた。逃げ出すものの考えはシンプルだった。理由がなんであれ、突然現れた巨大生物は脅威でしかない。
 留まったものの考えもまたシンプルだった。それはあまりにも大きくて、遠くにいたから実感がわかなかったのだ。
 振ってきたものは、花種だった。それもまた、ただの花種ではない。すぐに芽吹くと街を覆い始めた。数が減った住民には、芽吹いた植物をどうにかする力はなかった。
 街はあっという間に廃墟のような有様になった。街を緑が飲み込む。そこで暮らすことを選んだ人間にとっては、変わりゆく街もまた日常の一部でしかなかった。上空にあるものがなんなのか一向に明らかにならなかったが、便宜上竜と呼ばれるようになっていた。
 遠い遠い時代のことだから、人は皆覚えていないが、竜と呼ばれる生き物がもたらしたそれは、二つの生き物が誼を交わして一千年の祝いの年にもたらされた賀表であった。
 無意識に街に残った人々は、その末裔なのだ。彼らはこうして、自分たちだけの国を築き上げ、そこで平和に暮らした。