ahotootoha
2022-11-23 15:53:08
3399文字
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司類版ワンドロワンライ お題:🐺・公演中

第100回おめでとうございます!!

 赤いワンピースに白エプロン、頭に赤いずきんを被り、ワイン入りのバスケットを持った少女が一人、幕の開いた舞台で姿を現している。
『お気に入りの~赤いずきん~くれたのは大好きなおばあちゃん~♪ 会いに行くの~おばあちゃんに~ワイン持ってこの森の奥~♪』
 よし、寧々の歌声は、本番である今日も高らかにステージを満たしている。
 今回オレ達がセカイで披露する演目のテーマはズバリ、『赤ずきん』。どうして「オレと類が主演で」、という要望が課されたのかは不明だが、観客となるセカイの住民達の笑顔のため、気を抜くことはできない。
『やぁやぁ赤ずきんちゃん、おばあちゃんに会いに行くのならそこの小道へ寄り道して、花束をこしらえるのはいかがかな?』
 寧々扮する赤ずきんがるんたったとスキップする元へ現れたのが、類扮するオオカミ。
 そう、本公演は童話『赤ずきん』がテーマにこそなってはいるが、その主人公は赤ずきんではない。大きな獣の耳と尻尾をたくわえて、食肉を求め少女を惑わすおそろしいオオカミが、オレ達が演ずる物語の主役の一人……一匹? である。そしてもう一人の主役こそが……オレだ!
『曲者!』
 オレは華麗に壇上へ姿を現すと、小道具の火縄銃を撃つそぶりを瞬時にこなした。裏ではえむが、タイミングをちゃんと合わせて効果音を流してくれたようだ。原典よりもかなり早めに出番を持ってきたオレの配役は、狩人。
『まぁ小さな狩人さん、どうしてオオカミさんを追い払ってしまったの?』
『”小さな”は余計だ! 今日は父さんがぎっくり腰だから代わりに……じゃなかった、ゴホン! お嬢さん、オオカミは危険な動物なのですよ。僕がたまたま気づいてなかったらあなたなんて丸吞みに……
『花束作る~名案ね~出来たら行きましょ♪ あの一本道バーっと歩いて右に五回曲がってガーっと突き当りのおうち~♪』
『話を聞けー‼ あとその歌、個人情報ばらまいてるんじゃないかー⁈』
 お互いオーバーなリアクションでセリフを交わし、コミカルなシーンであることを全面に打ち出した。
 
 場面は変わり、おばあちゃんの家の中へ焦点が当たる。
『うーむ、歌詞の住所に来てみたものの、おばあちゃんとやらの姿が無いな……。ま、待ってりゃ赤ずきんがわざわざ食べられに来てくれるんだから、しばらくここに居るとするか』
 オオカミは、ペロリと舌なめずりをしたのち部屋を物色する。
『しかしハムの一枚も無いとは。こりゃあの子供を逃してしまったら、いよいよ空きっ腹が限界になっちまう……
 用意周到なオオカミはいそいそとおばあちゃんのフリをするため、クローゼットから衣服を取り出す。どうしても「オオカミがおばあちゃんのコスプレをする」という現象そのものに笑いの要素が付きかねないシーンではあるが、”ここではオオカミへの恐怖と何%かの悲哀を味わってほしい”という演出家の意志が固く、十分にそれを実現する描写と演技をみせていた。
 緩急こそが肝要、その持論を存分に展開するこの舞台、緩となる次の笑いどころを生むのは……
『お、おばあちゃん! ワタクシ参りましたわ、おばあちゃんに会いに! ご、ごきげんようあそばし⁈』
 オレだ! なぜだ! まぁこれには筋道だった物語上の理由がある。
 個人情報漏洩ソングを歌っていた赤ずきんの身の危機を悟った若き狩人は、一度彼女の身代わりとなっておばあちゃん宅を訪問し、安全を確認することになったのだ。そのため今のオレは、赤いワンピースに白エプロン、頭に赤いずきんを被り、ワインと花束入りのバスケットを持った可憐な少女のいでたちである。まぁそうだ、可愛い咲希とそっくり兄妹であるこのオレが、似合わないわけはない!
『お元気かしらおばあちゃ……なっオ、オオ……⁈(オオカミがベッドで寝そべっているじゃないかー‼)』
 生の声でセリフを述べた後、エコーをきかせた録音セリフと照明で、狩人の心中の驚きを表現する。
 なお、ここで観客にはおばあちゃんのネグリジェを身にまとったオオカミの姿が公開されるわけだが、類は類でなかなかしっくりきていた。むしろしっかり違和感を生むため、オオカミらしさを増すため後から手や足の装飾を増やしたくらいだ。
『(い、いや、そういえば彼女のおばあちゃんの特徴を聞いてなかった! もしおばあちゃん本人なら、オオカミと決めつけるのは大変失礼だな……)』
『おぉ赤ずきんや、よくここまで来たねぇ。さぁそばにおいで』
 ここからは、類演じるおばあちゃんコスプレのオオカミと、オレ演じる赤ずきんコスプレの狩人の舌戦が数ラリー。ややこしいな。
『お、おばあちゃん! 会えてうれしいですわ、さぁワタクシの名前を呼んで!』
『(名前……? 確か、見つけた日記の中にそれっぽいのが……)メイジー?』
『(な、名前も聞きそびれてるから合ってるかわからないー!)』
 スポットライトが当たる中、大きく両腕を上げて頭をかかえる狩人。よしよし、客席からは笑いを漏らす声がいくつも聞こえてきた。
 こんな調子で続ける会話だが、リサーチ力の差で狩人の方が分が悪くなっていく。オオカミはオオカミで赤ずきんの正体に疑問を浮かべるようになるが「まぁ食べられるなら何でもいいや」と牙をむけようとしたその時。新たに登場するのが……
『あらあらまぁまぁ、薪を調達している間ににぎやかなお客さん達が……
 本物のおばあちゃんである! 年を召した口調でおばあちゃんを演じるえむは、鎌のように大きな斧を一振りするとほほえんだ。
『それで、一人は人間さんで一人はオオカミさん? どちらにせよ、勝手に上がるなんて、マナーがなってないじゃないの』
 そう、原作準拠では祖母の見舞いに訪れる赤ずきんが多いが、このおばあちゃんはメチャクチャ元気なのだ!
『おばあちゃん! その赤ずきんは私を助けてくれた方のお客さんよ! そのおばあちゃんは私を丸呑みにしちゃう方のお客さん!』
 さらに、衣装交換により狩人の服装と装備を受け継いだ赤ずきんの少女が加勢する! そして舞台は屋外に移り、四者四様の戦闘スタイルでバトルを繰り広げるのだった……
 が、勢力は実質一対三、オオカミが白旗を上げる結果となった。
『あーあ! 人間サマはお気楽なこった! 作物を刈り取っても抵抗されないし、魚を釣っても泣き叫ばれない!』
 ……このセリフは、最後の展開に向けて加筆した方がよいのでは、と類が提案したものだった。最後の展開、それは、オレが脚本に残したいと大きく主張した部分だ。
……みんな気楽に生きてるわけじゃない。僕ら人間は仕事を分けてるだけで、僕や父さんは何度も叫びを聞いている』
 狩りは悪なのか、その行為でしか生を得られない生き物もまた悪なのか? 明確な答えを出すことは難しい。だが、この舞台で若き狩人が出す結論は、こうだ。
『うちに、来ないか? 人間に手を出さないと約束してくれるなら、僕らも狩ってきた他の生き物を分けてやれる』
……! これはこれは、なんともお人好しだなぁ、お前は』
「お人好しだねぇ、君は」。脚本を全員に見せた時の類も、同じ反応を示していた。狩人の家に招いた矢先に命を狙われるかもしれない、約束を誓った傍らでその約束を破り続けるかもしれない。でも、対話すれば共生もできるはず、それが狩人の……オレの、結論だ。”若き”狩人と設定することを条件に、類はこの結末を呑んだ。それが類自身の返答だった。
『つっても銃の腕はイマイチだし、お前の狩りに任せてたらどの道飢え死にしちまいそうだ……ハンティング教えてやろうか?』
『いらない! んん、まぁともかくこれでオオカミはうちで引き取るということで、お嬢さん達は再会をお楽しみください!』
『えぇ……ありがとう狩人さん! じゃあおばあちゃん、お土産の……あぁ、ワインのビンが割れちゃってるわ!』
『あらあら、けれど贈ってくれる気持ちが嬉しいわぁ。それに、キレイな花束があるじゃないの!』
 そしてこの物語は幕を閉じる。おばあちゃんも赤ずきんも、オオカミも死なないエンドだ。これが”ハッピー”と断言できるエンドなのかはわからない。なにせ狩りは続く。それでも、これが今紡げるエンド、今作り出せるショーだった。