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ahotootoha
2022-11-03 00:49:01
2654文字
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司類版ワンドロワンライ お題:期待
「類から見て、真に迫る演技と並の演技は、どういった部分に質の差が現れると思う?」
おや、司くんの成長タイムが始まった。
客席の一部に腰かけ二人、今は寧々とえむくんが舞台衣装
……
新作のドレスに着替え終わるまで、待ちの時間だ。早着替えに向かない系統のデザインであることは把握済みだが、こればかりは手伝いようもない。脚本にメモ書きしていた手を止めて、彼の質問にしばし考える。
「真に迫る、か。そうだね
……
」
ワンダーステージの枠を、場所にしろ人にしろ超える機会が増えてから、司くんはより一層演じる事への勤勉さを現している。その一つとして、今のように演技のコツや客観的な感想を、目立った行き詰まりの無いうちから問いかけるようになったのだ。尋ねる相手は僕に限らずワンダーランズ×ショウタイム全員、もちろんセカイの住民達も。そしてどうやら青龍院くんや旭さんといった役者歴上の先輩にも、はたまた学校でのクラスメイトや後輩といった観客視点を持つ人々まで。とにもかくにも知を広げ声を聞き、役者としての躍進を求める司くんの姿は、喜ばしいことだ。演出家としても、そして恋人としても。どちらの立場にせよ『一番役に立てる存在でありたい』、そんなささやかで傲慢な願いから、自然と答えにも熱が入るのだ。
「一言で言えば、重みかな」
「重み?」
「あぁ。司くんがそれを反映できているか、試してみようか」
僕は握ったままだったマーカーのフタを閉めた。そして横向きにつまむように持ちかえてから、司くんの目の前に差し出した。
「じゃあまず、これをナイフだと思って受け取ってみてくれるかい」
セリフは特に無くていいよ、そう加えて促すと、司くんは右手でひょいと僕から見て左側、フタの無い方を掴み、そのままナイフに見立てたマーカーを僕の手から離した。
「こうか? 多分ペン先の方が刃だろう」
「そこはお好きにどうぞ? それで次だけど」
彼からマーカーを回収して、僕は再び先程のように構え直す。一応左右の向きもさっきと合わせて。
「今度は、長剣だと思って受け取ってみてほしい」
「
……
! となると、こう、だろうか」
すると司くんは、意図に気づいたのか一つ頷いてから、動作を変えた。一度目は下がったままだった左腕も添えて、下から上へと支えるように、実際には無い刃の長さまで気を遣い両手を差し出す。司くんの中で長剣は格式高い物なのだろう、マーカーが手に渡った際にはうやうやしく一礼まで加わった。端的に言えば、それは騎士然とした振る舞いだった。
「
……
うん、なかなか良いね。アイテムの違いから価値の違い、扱う者の態度まで辿り着いて、それを反映できたのは良い流れだ」
「おお、そうか!」
途端喜色を顔に浮かべた司くんへ、さらなる前進のため一つだけ忠告を贈る。
「ただ、人の中でのモノの重みだけでなく、物理的な重みをもっと動きで反映できるといいね」
そう、手の位置や向きで刃物の差を十分表現してはいた。だが、小道具として今回用いたモノがそもそも一本のマーカー。非常に軽い品を前に、2種の刃物の重みも加味された動作、筋肉の動きとはなり難かったようだ。
「ッ
……
重み、なるほどな! オレなりに多少は意識したんだが、外から見てそう違いにはなっていなかったか
……
」
へぇ、もう本人も気づいてる部分だったのか。となると、確かな要素として彼の演技に染み付き、司くんの演技により磨きがかかるのも、そう遠くはなさそうだ。けして楽観論ではない予感を胸に、僕は微笑みかけた。
「まぁ実際の舞台ではもっとちゃんとした小道具を取り扱うし、体裁が整えば司くん自身演技に乗るだろうけど。あえて言うなら、の領域さ」
「いいや、その“あえて言うなら”が助かる! そうか、軽い物でも重さがあるような
……
となると逆に、重い物でも軽いように見せる場合もあったり
……
?」
後半は半ば独り言のように、司くんは言葉を連ねる。
その様子を見ていた僕だったが
……
、ふと、つい、魔が刺した。
「確かにね。例えば
……
聖なる長剣を授かった騎士は、大いなる加護を受けて、自分より背丈のある人間も軽々とお姫様抱っこしてしまえたり」
雑念が湧いた、と形容してもいい。“それ”は今じゃないだろう、演出家の僕が落胆の声を上げる。けれど色恋に塗れた僕が駄々をこねるのだ、だってがんばる姿がかっこいいからと。それに最近少しさみしいのだと。
「ほう?」
ああ司くんの耳に入ってしまった。お姫様抱っこしてしまえたり、“たり”は本来同列の言葉を繋げていくものだ、似たようで全然違う動作の例を、続けなければ。
「だったらこう、か?」
続けなければ、続く言葉を捻りださなければいけないのだが、今僕の身体は浮きあがっている。
(え?)
『姫、お怪我はございませんか?』
なにやら背中と膝裏は司くんの腕に支えられており、真横の司くんの顔が、優然と笑いかけていた。
(
…………
あくまで『お姫様抱っこ』であって、『お姫様役』ではないのだけれど)
けれど一度そう決まったのなら、応えなければ。ショーはもう始まっている。
『えぇ。貴方が救い上げてくださらなかったら、わたくしどうなっていたことか
……
。心より感謝いたしますわ、騎士様』
一体どんな試練によるどんな危機から救われたのか、語るには時間が足りないようだ。騎士の腕は徐々に次第に緩やかに、下降していた。
『なんのこれしき
…………
と、言いたいところなんだが、すまん、今はここまでのようだ
……
」
「
……
お疲れ様。ありがとう司くん、よく保ったんじゃないかな」
セリフ1ラリーの間は負荷をちらとも見せていなかった事を素直に褒めて、それから
……
なんてことだ!いきなりスキンシップを求めた僕の気持ちは、こんな厚遇を受けてもなお、「もっともっと」とねだってくるなんて。
(さすがにね、司くんがこんなにがんばってる横で、僕が自制できないわけには
……
)
なんて、思っていたのだが。
「い、いやまだまだオレには、鍛錬が要りそうだな
……
」
さっきまで顔色ひとつ変えていなかった司くんは、いま、俄に両頬に赤を浮かばせていた。口元に手を当て考え込むそぶりをしているが
……
。期待、してもいいんだろうか。駄々をこねてしょうがない恋人の己を、司くんも、同じように内に抱えているものだと。
だって司くんは。チラっとこちらに視線を向けて、声に抑揚を乗せて、質問してくるのだ。
「類、何か良いトレーニング方法、思い浮かばないか?」
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