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ahotootoha
2022-10-05 22:14:02
3167文字
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司類版ワンドロワンライ お題:都市伝説
ドッペルゲンガー
「
……
じゃ、僕こっちだから」
「じゃあ、またな」
返事は返してこないまま、類はショッピングモールに向かう道へと去っていった。
特大のため息が思わず飛び出す。こんな帰り道にするつもりはオレには無かった、おそらくだが類もそうだろう。
交差点の人混みを分け、次第に小さくなっていく恋人の背中を眺めながら、ため息のきっかけを思い返す。
それは、口喧嘩、にも満たないようなささいな言い合い。類は、自分の身を顧みないような生活サイクルを送り続けていて、オレは、彼の身を案じる言葉を止めなくて。いつもの事だ、分かっていた。それでも、今日はそれが長引いて、別れ際にまで持ち越されてしまったのが、今抱える苦々しい後味の所以だ。
彼の後ろ姿はもう無い、立ち尽くしていてもしょうがない。オレもこんな重苦しいムードを何日も長引かせるつもりはないが、たまには、今日一日くらいはこうでもならないと重く受け止めてくれないのだ。往来に背を向け帰路につく、その時。
「司くんっ
……
!」
小さな声、いいや雑踏の喧騒にかき消されているだけで、たしかに大きく上げられた恋人の声が耳に入った。
声の方に振り返ると、横断歩道終点もしくはその奥の方、姿は見えない。聞き間違いか、幻聴か? いいやそんな訳はない、オレが類の声を聞き間違えるはずがない。それに、現に声がした方角に立つ人々は少し周辺を見渡して、視線を前に戻す動作をしていた。
オレは、向かう。別れ際のやり取りもなにも関係なく、オレを求める声の元へ向かった。
オレが横断歩道を渡り切ったような頃。次第に見慣れた薄紫が、周囲より十数センチ高いような彼の頭部が、神代類その人が、姿を表した。
「ッ
……
ハァ、司くん、まだ、近くにいたんだね
……
」
「あぁ、もう帰るがな。
……
どうしたんだ?」
彼はどれほどの距離を引き返してきたのだろうか、肩で息をしていた。類の呼吸が落ち着くのを待つ姿勢はある、と示しつつ、オレは次に発される言葉を待った。
「あの、ごめんね? さっきは意固地になりすぎたというか、司くんの言い分の方が正しいし、僕もがんばって改善するから
……
」
「それ、本当に思っているか?」
問いかけると、一気に類の顔がこわばる。しかし、そこでふてくされたり開き直ったりしないのは、いつもの彼とは異なる様子だった。
「すぐには難しいけれど、だけど、努力はする。どうしようか、睡眠を計測して毎日送ればいいかな、あぁでも僕が取り扱うと信用性に欠けるかい?」
少し早口に畳み掛ける。再会から時間が経っても引かない汗。何かしらの、焦り? 少し怯えにも似た色を感じ取ってしまった。
(そんなに今日のオレは、愛想を尽かしたように見えたのか?)
……
変な意地を張っているのは、オレの方か。
「
……
いや、オレもプライベートな問題に口を出しすぎたとは思っている。悪かった」
どうか彼には安心してほしい、苦しめたいわけではないのだ。一度下げた頭を上げた後、できる限りその想いが乗るように、ふんわりと笑いかける。
「証拠を出せとまでは言わないから、少しずつ改善していこうな」
「あぁ、そうするよ
……
それでさ、ショッピングモールだけど、やっぱり一緒に見て回ってくれないかい? 相談したい内容もあるんだ」
オレの態度によほど気を張っていたのか、類は、一気に安堵した表情を見せた。
かと思うとぐいぐいと、オレの答えを待つまでもなくショッピングモールの方へとオレの腕を引っ張って行ったのだった。
「突然言われても、それに従う理由も義理も無いよ」
「〜ッ、少しは柔軟に考えたらどうだい?」
いいや考えたって分かるわけがない。いきなり小道から伸びた腕に引きずり込まれたかと思えば、自分と全く同じ姿形、同じ名前を名乗る相手から『司くんに謝ってこい、そして一緒にショッピングモールに行け』と命令されるなんて。これがかの有名なドッペルゲンガーかあるいは化け狐の戯れか。命令の言葉さえなければ、交流を図りたいところだったのだけれど。
対面したもう一人の僕は、苛立ちを隠しもせず僕の肩を押しのけたかと思うと。
「もういい、僕が行く
……
、司くんッ!!!!」
「は? ちょっ
……
!」
遠征公演で借りたどの広大なステージでも出さなかったような声を張り上げて、司くんの名を叫びだしたのだ。慌てて僕は先程とは対照的に、もう一人の僕の姿を隠すように小道へと引き戻す。
「何なんだい⁈ 」
「それはこっちのセリフだよ!」
「君が動けば丸く収まる、なのにぐずぐずしてるから、僕自身が動くしか」
「何の目的も明かさないままただ従えなんて、僕が乗るわけないって分かるだろう僕なら!」
自問自答の実体化、その果てに目の前の僕が零したものは。
「あぁもう、未来から来たっ! こう言えば分かるだろう、僕なんだから」
涙、だった。
(は、未来?)
俄に信じがたい話、しかしそれは異世界への転移を日常と化した僕らが決めつけるのもまた難しい話だ。
以降喉がつっかえたように次の句を発さず、ただ嗚咽を漏らす僕の姿を前に、僕は思考を巡らせる。
仮にこの僕が未来から来たとして、僕は何かを成すためあるいは成さないために過去の僕にメッセージを伝えに来たのだろう。指示は二つ、それを行えば僕は司くんとショッピングモールで買い物をして帰る、もし行われなければ、僕は一人で予定通り買い物をして
……
。
(司くんは?)
嫌な、予感が背筋を走る。どうして彼は泣くのか、どうして今の僕を押しのけてでもそれを果たそうとするのか。もう、ただの暗い思い込みだったとしても、じっとしてはいられなかった。
「わかったよ、『司くんに謝る』、『ショッピングモールに2人で行く』、これでいいんだね?」
口元を覆いながら一つ頷く僕を尻目に、僕は小道を抜けて別れ際、司くんの言葉を最後に聞いた場所へと向かって駆け出した。
(間に合えば、いいけれど
……
ッ!)
(
……
ああ、これでもう、大丈夫)
なんて不恰好で無様なことだろう、それでも、願いは達成されたのだ。過去の僕と、司くんの二人、ショッピングモールへと足を運ぶ姿を遠目に、無上の安堵が僕を包んだ。
壁にもたれかかる形で、しかし僕は先程までの不手際を少し悔いた。焦りが先立って、過去の僕には不親切な態度になってしまった。もっと筋道立てて、起きていることを順に説明すればもっとスムーズに事は運んだのかもしれない。先に明かせばよかったのだ、僕が未来から来た僕自身であることも
……
頼み事が遂行されなければ、司くんは予定通りの帰り道、事故に巻き込まれて死ぬことも。
……
まぁいい、タイムパラドックスを防ぐために、さっきの僕にもそれより後の僕にも、同じように時を遡ってもらう必要がある。より円滑なタイムスリップは後陣の僕に託そう。
となるとここで、すぐ自分自身の時間軸に戻ってはいけないのだ。僕は二人の後ろ姿はもう無い事を確認し、往来に背を向け家路を歩む。
メールなり電話なりで過去の自分に言伝を残せたら問題無いのだが、時を超えた機器の通信は未知数だ。アナログに、僕の部屋に書き置きを残しておけば確実だろう。
赤信号に足止めを食らう間、筆記具を取り出して伝言文を書き出す。万が一の時は僕が替われるように当時のまま、制服姿でこの時間に来たけれど、万が一を万が零にできるような頼み方はあるだろうか。
(
……
あれ、そういえば、司くんが事故に遭ったらしい場所ってたしか)
もう、遅かった。事故現場への司くんの到達時間を変えるのに必死で、僕自身が居合わせる可能性を見落としていた。そして今、メモの内容を推敲していた僕は、次第に大きくなっていく、無機物の擦れる異音に気づくのが遅れた。声の方に目を向
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