こゆ
2025-04-20 13:25:56
2669文字
Public
 

偶像

💛🏴‍☠️ドルパロ蛇足のペンシャチ!!
モブ子を添えて。

※nmmnの取り扱いや腐に対してのネガティブな表現が一部出てきますがそれを肯定する意図はありません



※AI学習転載禁止
前回のアイドルパロの話




さて事の発端は、同じグループメンバーのペンギンが主演ドラマの番宣で、街頭グルメ番組に出演したことだった。司会の芸人にメンバーの話を振られて——彼は遂にHeartの初期、まだHeartメンバーが4人だった頃の古参のファンしか知らない事実を世間に出した。
ペンギンとシャチは幼馴染で一緒に住んでいて、さらに「シャチが拗ねるから」という理由で恋愛ドラマは今回のが最初で最後。今後は恋愛がメインのドラマには一切出ないと言ってのけたのだ。もともとHeartはライブパフォーマンスが売りのグループのため今回のペンギンのドラマ出演も主題歌タイアップで渋々承諾されたともっぱらの噂だった。
地上波に流れた幼少期と思わしきペンギンとシャチが満面の笑みで手を繋いでいる写真は瞬く間に拡散され——ゴミのようなネット記事が量産され、にわかと思わしき新規のファンが大量に参入してきた。
「公式でおさななBLってこと!?」「え、薄い本が厚くなる」「←nmmn勉強してから出直して」
この流れに激怒したのは元々Heartを追っているファンたちだ。ライブに行けばペンギンはシャチを見るときだけ花が咲いたように微笑み、シャチがペンギンに蕩けるような笑顔を返す。メンバー間の誰よりも距離が近くスキンシップが多い。そんなことは周知の事実で。彼等が幼馴染で相棒で、側から見れば行き過ぎた行為も絆の深い「友情」であることは、彼・彼女たちは当然知っていた。
Heartのムードメーカーのシャチのことを見守るクールなサブリーダーのペンギンというのはファンの共通認識であり、ときにシャチ担とペンギン担で「あんたんとこの推しのおかげで今日もうち推しのかわいい笑顔をありがとう」「こちらこそ以下略」という謎の御礼合戦が繰り返される。
それが。ファンなら当然知っているような、“仲の良い幼馴染”というたったひとつ過去の写真が全国ネットの電波に乗っただけで。
ペンギンが嫌々ドラマに出ていて、そのせいでソロの仕事が増えて機嫌が悪いことを熟練のファン達はSNSやLIVE配信などから察していた。そのストレスの結果が、番宣でのアレである。全部大人の都合のせいだというのに。


「くそったれのボケナス共! 地獄に堕ちろッ!」
くだらない民度の低いミーハーなイナゴの様な新規どもを罵倒して、彼女はスマホを思い切りクマの人形へ投げつけた。ベッドの上で彼は倒れ、肩で息をする彼女は漸く呼吸を正した。
彼女は昼間はOL、夜はキャバクラの二足の草鞋でせっせと働くこの国の平均的短大卒二十代女性である。特定の恋人はいない。稼いだ金は切り詰めた生活費と、湯水の如く消費する服、美容、そして推しに消えていく。貯金なんてしたことはない。老後の不安? そんなものは知らない。どうせ長生きする気もないし。嘘。シャチきゅんが死んじゃったら私も死ぬ。
彼女の生き甲斐はアイドルグループHeartのボーカル&パフォーマーのシャチ一人だった。
付き合いで連れて行かれたメジャーデビューもしていないアイドルのライブで、彼に出会った。その日彼らはメジャーデビューの発表を受け、初期メンバーである彼はリーダーのトラファルガー・ローやペンギン、ベポと共にスポットライトを目一杯に浴びて、息を切らしながら、顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。男の子があんなにも泣いている姿を、彼女は初めて見た。
おれは別に、特別歌が上手い訳じゃない。ダンスだって飛び抜けてないし、顔も身長も人並みだ。ただ歌もダンスも好きだった。投げ出したいと思ったことはない。並外れた才能はないけれど、自分はこのメンバーでメジャーデビューしたい、ローさんの歌声を全国に届けたいという思いだけでここまで来た。
そう言っていた。
気付いたら涙が溢れていて、そこからの記憶は曖昧だ。彼女はHeartのこれまでのグッズ、配信されている曲、すでに入手困難なCD、他グループとのコラボ動画に至るまでを全てかき集めた。ライブに連れて行ってくれた子ですら引く勢いだった。何かにここまで熱中したのは初めてだった。
彼女のすべてなのだ、アイドルHeartとシャチは。
ライブでは誰よりお茶目で、誰より笑って、誰より泣いて、グループを何より大事にしてる、思いやりのある人なのだ。歌は上手いし声は優しいく心地よい、ダンスも元気いっぱいで彼女から見たら誰よりも輝いていて彼こそがNo.1だった。そして、グループのみんなを支えてさりげなくフォローしてくれる、来てくれたファンを全員笑顔にしようとする姿勢、この人がいないとHeartのパフォーマンスはまとまらない、そう思わせてくれる、ちゃんと努力を重ねてきた人なのに。
そんな彼の努力や人格を知りもしないで、好き放題薄汚く消費する世間が許せない。しかもしかも、なんで、あんなに天使みたいな子を “そういう目” で見るのよ!!
もう一度くたばれゴミ共!! と叫んでクマの顔面を殴り付ける。夢の国で生まれたクマはされるがまま、綿で彼女の拳を受け止めた。 




「また来てた。シャチきゅん可哀想コメント」
ペンギンに言われてシャチは寝る前のストレッチをしながらふーん、と他人事のように答えた。ゲリラ的SNSライブ配信を終えて今は完全なプライベートだ。ペンギンは先程の配信の反応をエゴサーチしているようだった。
「おれたち燃えてるよ」
「えー、ペンギンのせいじゃん」
「これで当分ドラマの仕事とか来ないだろ」
「それは正直嬉しいけど、……やっぱヤだし」
「かわいいこと言うじゃんシャチ」
シャチは立ち上がってソファに座るペンギンの横に腰掛けるとスマホの画面を覗き見て、スワイプして、やや眉を顰めた。
「ふたりはどこまでいってますか?だって」
「セックスする仲って答えとく?」
「ヤだよローさんに怒られたくねーし、ペンギンのファンに刺されたくねーもん」
「本当に怖いのシャチのファンの方だけどなァ」
「そうかな、気をつけよ」
そう言って恋人であるペンギンにチュウっと甘く口付けるとさっさと自主トレ用のヨガマットへ戻ってしまった。
「思ってねーだろ、シャチ」
「思ってる思ってる。ファンあってのHeartだろ」
「他人事か」
ははってペンギンは笑ってスマホの画面を下にして机に放置した。さて、もう寝るだけと言わんばかりに。

他人事には違いねーな、と呟いて。










偶像