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タロイモ
2025-04-20 13:17:12
4000文字
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ホットクリームパイにご用心!
パーバソ☆クリームパイ企画🥧提出作品です!
全年齢!健全!パ卿がクソボケ!
最後にちょびっと他キャラ出ます。
「あ゛っっっづぁッ!!」
とある昼下がりの食堂に、良く通る、悲鳴と言うにはやや雄々しい大きな声が響いた。
厨房の手伝いをしていたパーシヴァルが驚いて皿洗いの手を止め、顔を上げてみれば、声の方向には良く見知った顔があった。
「バーソロミュー?」
そこには、午後の軽食を楽しんでいたはずの海賊紳士が、涙目で口元を押さえて席に着いていた。人の疎な食堂には彼を含めて数人しかいないものの、そのすべての視線が彼に注がれている。昼間と違って静かな食堂だ、彼の大声はことさら響いたのだった。
食堂の端の方で優雅なティータイムを嗜んでいた彼の傍らには、彼がお気に入りだと話していたティーセットと、いくつかの資料、それから、齧りかけのパイが乗った白い小皿が机の上に並んでいた。
そう言えば、今日の茶菓子はホットクリームパイだったなとパーシヴァルは思い出す。
齧ると中からとろりとした熱々のホワイトクリームが溢れ出すそれは、赤き弓兵エミヤ謹製の人気おやつにして、口を火傷したサーヴァント数堂々の第一位に輝くパイであった。
とても美味なのだけれど、中の熱々クリームには粘度があり、中々冷めないのが特徴でもある。良い感じに冷めたと思ってうっかり大口で齧ると、唇にそれなりのダメージを食らうのであった。
最近は認知度も上がって火傷をするサーヴァントも少なくなっていたが、どうやらバーソロミューは、それを知らずに思い切りパイにかぶり付いたらしい。
普段は茶請けも付けずに紅茶だけ啜っているこの男は、たまに気が向いて菓子を手に取ることはあったものの、やはりホットクリームパイのことは知らなかったようだった。
パーシヴァルは、慌てて皿とスポンジを置いて手に付いた泡を洗い流し、おざなりにタオルで手を拭いてから、グラスに製氷機から取り出した氷をカラカラと二、三個入れた。
火傷してしまったのなら、冷やしてやらねばなるまい。サーヴァントの外傷などあって無いようなものであるが、熱いものは熱いし、痛いものは痛いのだ。
パーシヴァルは氷の入ったグラス片手に、ドバイの休暇を共に過ごして以降、かけがえのない友人となった男の元に駆け寄った。
「
…
大丈夫かい?バーソロミュー。熱かっただろう?」
腰を屈めて目線を合わせれば、涙目の海賊は口を押さえたままこくこくと首を縦に振った。火傷した口が痛いのもあるのだろうけど、大方、大声を出してしまった羞恥と屈辱、それから驚きに固まっているのだろうなと騎士は想察する。普段は伊達男の紳士で通している彼だ、格好悪い所を見せたくないというのは、矜恃でもあるのだろう。
こういう時、下手にあまり構うと彼は拗ねてしまうので、パーシヴァルは一先ず何も言わずにバーソロミューへ氷の入ったグラスを差し出した。
「
……
ありがとう」
ややあって、バーソロミューは口を開き、礼を述べつつ苦笑してみせた。無様なところを見せたね、と口を押さえていた手でグラスを受け取った海賊は、そのまま冷えたグラスに唇を寄せる。
彼の薄く形のいい唇は、痛々しくも少し赤く腫れていた。恐らく、口に何かが触れるだけでも痛むのだろう。グラスを唇に押し当てながら、バーソロミューは眉根を寄せて、憎々しげにホットクリームパイを睨めつけていた。
サーヴァントの表面上の怪我など霊基を編み直せば済む話かもしれないけれど、無駄を嫌い、海賊時代の名残なのか多少の傷や怪我は放っておく質であるバーソロミューは、そういうことをしないのであった。
それを魔術で癒すことさえ無駄だと厭うのは、今までの付き合いで、パーシヴァルもよく知っていた。
「
…
そのホットクリームパイは、今までも何人も犠牲になってるんだ。斯く言う私も、初めて食べた時は火傷したよ」
「
…
へぇ。中々危険なメニューなんだね」
パーシヴァルがフォローするように言えば、バーソロミューは片眉を釣り上げて、今度はグラスに入っていた氷を口に放り込みながら答えた。どうもクリームで口内も火傷してしまったらしく、海賊は思っていたよりも重傷なようだった。
そんな彼を見て、ふと、パーシヴァルは母に教わった
呪
まじな
いのことを思い出していた。
よくパーシヴァルが森で膝小僧を擦りむいた時に、母がかけてくれたもの。呪い、とは言っても宮廷魔術師の使う魔術や幻術とは比べ物にもならない、苦痛を少し和らげるためだけの子供騙しの単純な魔術だ。魔力だって殆ど使わない。
その魔術の式を思い出しながら、パーシヴァルは口の中で小さく呪文を唱えて、指先を自らの唇に当てた。
「
…
パーシヴァル?」
氷を口の中でカラコロと転がしていたバーソロミューは、急に隣で呪文を唱え始めたパーシヴァルに気付いて、訝しむようにその名前を呼んだ。対して、騎士はにこりと海賊に微笑みかける。
「バーソロミュー、動かないで、」
友人であり、至極真面目な騎士にそう言われてしまっては、悪徳海賊は動きを止めねばなるまい。
バーソロミューが頭に疑問符を浮かべながらも固まっていると、パーシヴァルの蒼穹の瞳が、すっと通った鼻筋が、一雫の白が流れる銀糸の髪が、ゆっくりと近付いてきて
——
唇が、そっと触れ合った。
(
……
)
(
………
)
(
…………
)
「
……………
は?」
たっぷり十秒かけて、バーソロミューはようやく声を発した。
対するパーシヴァルは、唇を触れ合わせたかと思うと、直ぐにその巨躯を引いて、バーソロミューの唇に人差し指をそっと触れさせた。その指をさっと払う仕草をするこの騎士のことだ、その動作にも何か意味があるのだろうが、魔術にもスキンシップにもそこまで明るくない海賊には、さっぱり意味が分からなかった。
バーソロミューが呆気に取られていると、騎士は如何にも「善きことを為しました!」という笑顔を浮かべている。
この男、本気で素で今の仕草をやってみせたらしい
…
何のつもりなのだろうか、この騎士は。
「痛みを和らげる呪いだよ。母に教わったものだけれど
…
効いただろうか?」
固まっている海賊に対し、眉尻を下げて心配そうに顔を覗き込んでくる騎士は、本気で自分が何をしでかしたのか分かっていないようだった。主人に置いて行かれて耳と尻尾が垂れ下がった大型犬の幻影がチラつく。
海賊は嵐の後に甲板に出た時のごとく眩暈がしそうになったものの、先程まで割と洒落にならない痛みを訴えていた口元から苦痛が消えていることに気付いて、とりあえずは素直に感謝を口にした。
「あぁ、ありがとう。お陰様で痛みは何処かに飛んで行ったよ」
Pain,pain,go awayってヤツさ。そうバーソロミューが軽口を叩けば、パーシヴァルは良かった、と安堵したように微笑んだ。あぁ全く、眩しい笑顔で笑ってくれやがる、輝かしい騎士様である。
先程、自分が何をしてくれたか、どうにも自覚が無いようだけれど。
「ところでパーシヴァル卿。君、私に何か言う事は無いのかね?」
机に『お行儀良く』両肘を立てて指を組み、口元を隠しながらバーソロミューはパーシヴァルに訊ねた。いわゆるゲン○ウポーズというヤツだけれど、現代のアニメや二次元文化に疎い騎士様は知るまい。
案の定、自分が詰問されているとは欠片も思っていないパーシヴァルは、その体躯に似合わぬ仕草でこてん、と首を傾げてみせた。くそ、二メートル近い大男がしていい動きじゃないぞそれ。似合っているのがまた何とも恐ろしい。
そんな男に対し、バーソロミューは恥ずかしいやら腹立たしいやら、湧き上がってくる色々な感情を一旦全て飲み込んで、いつもの紳士らしい微笑みを顔に貼り付けた。腹芸は得意な方だ。
何せ自分は大人で、紳士で、男前であるので。
友人である騎士にも、スマートに物事を教えてやるのである。
「では改めて問おう。私の唇にキスした事に対して、何かしらの釈明はあるかね?サー・パーシヴァル」
その問いかけに対し、騎士はぴしりと凍りついた。
それから数秒あって、彼の顔が見る見る引き攣り、反比例して色は赤くなって行く。脂汗をだらだらかいている幻まで見えるようだ。
普段は穏やかな彼のその表情の変わりようは、いっそ愉快な程だった。
バーソロミューはというと、それを尻目にいそいそと広げていた資料をまとめ、太腿の上に置いていた黒皮の手袋を指先まできっちりとはめた。それからティーセットとパイの乗った小皿をトレイ載せて立ち上がり、そのまま小皿を食堂の返却口に返すと、ホットクリームパイの残りを
——
流石に冷めて齧れる温度になっていた
——
口に咥えて、すたすたと食堂を出て行った。
茹蛸のように真っ赤になって口元を押さえるパーシヴァルの頭を、すれ違いざまにくしゃりと一つ撫でて。
たっぷり三十秒経ってから、パーシヴァルは大音量で海賊の名前を呼びながらバタバタと食堂を出ていった。その様を、厨房に近い場所で新刊のネタ出しをしていた播磨の国の城妖怪は、震えながら見ていたのだった。
すっかり一部始終を見てしまった彼女は涙目で、同じく最初から最後まで全部見ていた厨房の番人、エミヤと目を合わせた。
「あ
…
あの二人、あれで、付き合って、ないんだよね
…
?」
「私の認識が間違っていなければ、そうだな」
「そっかぁ
……
そっ
…
かぁ
……
」
遠い目で呟いた刑部姫は、すっかり冷めたマグカップの紅茶を飲み干しながら、頬を染めて何かを噛み締めているようだった。
小さく「ワァ
…
ナマモノ、初めて見たァ
…
」と呟いた彼女はさておき、女難の相があると有名な赤い弓兵は、皿洗いの手を止めずにふむ、と鼻を鳴らした。
「
…
さっさと気付いて、観念してしまえば良いのにな。」
それが一体、海賊と騎士、どちらの方を(或いは両方を)指しているのか全く分からず、刑部姫は「ヒェ
……
」と小声で鳴いたのだった。
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