筒条
2022-01-11 22:13:45
2704文字
Public SB69
 

ブンブンニードルくんとハッチンの話

今回はちゃんと原型ですが相変わらず捏造だらけなのでご注意ください‥‥。
ブンくんが父親のおさがりだった場合のifです。ブンくん視点。

<勝手な脳内設定>
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・この星では万物にメロディシアンが宿ってるから音楽によるエネルギーが蓄積されれば楽器のような無機物にも自我が生まれるよ
・とはいえ生物ともまた違うのでミューモンと会話できたりするわけじゃない
・気合い入れれば原型のままちょっと動いたりできる
・蓄積したエネルギーが強ければ付喪神みたいな感じでなにかしらの生物の形がとれるといいな(願望)
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「ハッチンがな、ギター始めたいんだと。」

随分と久しぶりに「オレ」を手に取ったそいつが戯れに弦を弾く。独り言のように呟かれた言葉。まぁ実際この場にいる「ミューモン」は1人なので独り言に違いないのだが、その言葉の続きをなんとなく察して長くチューニングを怠って緩んだ弦から不満げな音を漏らす。

……こいつ、ガキの子守を押し付ける気だ。

たしかあいつはまだ小学生じゃなかったか。
二本の足で立つことすらままならなかった頃の小さくてふわふわした命に向けて、オレを緩やかに響かせていたこの男の姿だって記憶に新しい。
その大福のようだったチビもとうとういっぱしのミューモンとして目覚める時がきたらしい。なんでも、同級生のギターがかっこいいから自分も負けたくないと。子供らしく単純な動機だ。きっかけがオレたちの影響ではないことが些か悔しいが、共働きで構ってやれる時間が少ないなどと言い訳をしてオレの音を聴かせてやる機会を減らしたからこんなことになるんだ、バカ親め。

「最近、あいつを家にひとりにしちまうことも多いだろ。お前からも見守ってやっててほしい。……ちゃんと続くかわからん段階で新品を買い与えるのは家計的にきついし……
母ちゃんにもどやされる……と呟く声を聞き逃さなかった。後半が全てじゃねえか。
そもそも親父の使い古しのお下がりなんて、子供が嫌がる典型パターンだろう。オレは時代に遅れをとらねぇ現役バリバリの超カッケェギターである自負はあるが、あのちんちくりんにオレの渋さはまだわかるまい。もしオレを前にして一言でもダセェなどと口に出そうものなら、相手がガキだろうと容赦なくブッ刺してしまうかもしれない。
びーびー泣き喚く小さい姿を想像して眉を顰める。いやオレ眉とかねえんだが。


そんな懸念をよそに件のチビの第一声はといえば。


「ファ〜〜〜!!超かっけぇ!!」

父親譲りのつり上がった眦に包まれた母親譲りのスカイブルーの瞳が、好奇にきらきらと輝いている。
ぎゅうと力まかせに抱きしめられ、ああこいつあんまりモノを丁寧に扱うタイプじゃねえなと早々に悟ったが、不思議と不安はなかった。
幼く澄んだメロディシアンの鼓動が伝わってくる。軽やかでせっかちな8ビート。これからオレと共鳴していく、はじまりのリズム。

ーーガキの子守、上等じゃねえか。

この、これから如何様にも変化する、どこまでも純な結晶を。
濁らせはしないと、ただ強く決心した。


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あの日のことは、決して忘れない。

いつもなら日が沈み切る前には騒がしく帰宅するハッチンが、黄昏も宵に差しかかろうとした頃になってようやく玄関先で力ないただいまを響かせたあの日。
母親の憂慮が混じる叱咤の声を振り切って、一直線に自室になだれこんできた彼の目が、痛々しいほどに腫れていたあの日。

陽を浴びた朝露のように透き通った輝きを見せていたハッチンのメロディシアンが、深みのある紺青を纏うようになった、あの運命の日を。

歓喜ではなかった。当たり前だ。
ハッチンが初めてオレを手にしたときに見せた笑顔と、いっしょにサイキョーになろうな!という言葉。それがいまのオレの原動でありすべてだ。誓いというには軽率で稚拙だが、長く止まっていたオレの秒針を動かすには十分な熱がそこにはあった。
そうして守ると固く誓った幼く澄んだメロディシアンを、いとも容易く塗り替えられたのだ。
どこの馬の骨とも知れ……なくはない、彼の幼馴染の八咫烏に。

それでもオレの感情メーターが憎悪に振りきらずに済んでいるのは、ハッチンがオレを手にするきっかけも元を辿ればその八咫烏であったためである。より正確に言うと、八咫烏が持つ紺青のエレクトリック・ギター。同級生のギターがかっこいいから自分も負けたくないという、子供らしく単純で可愛らしい動機だとは思う。思いはするが、なんと憎たらしいことか。今でこそハッチンにとっての最強ギターはこのオレであるが、最初にハッチンの目を輝かせたのはあちらの方なのだ。
何よりハッチンのメロディシアンは憎き紺青によって濁るどころかより強い輝きを放つようになったのだから、本当に忌々しい話である。

まだオレは直接その八咫烏にもギターにも会ったことはないが、面を拝んだ暁には一発ブッ刺してやらないと気が済まない。だって、そいつらを想ってハッチンは今日も血豆を増やしているのだから。
彼が積み重ねる努力が月日の流砂に埋もれてしまわないよう、オレはひたすら針を研いで来たる日を待った。


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実際にその無愛想でスカした面を拝むことができるのは、実に4年の歳月が流れてからのことになる。

ギラついた紺青のギターを携え、音域の広いよく通った声でマイクに向かって叫ぶ姿は、なるほどハッチンのメロディシアンを塗り替えただけの力はあると納得した、が。だからといって素直に認めてやれるかどうかは別の話だ。ハッチンがこさえた血豆の数に見合う程度には、これからこの八咫烏には応えてもらわなければ困る。

この数年間で、ハッチンが抱く八咫烏への想いがどれだけ膨れあがっていたかを、おそらくハッチン自身も自覚していないのだろう。きっとそれは、ずっとそばでハッチンのメロディシアンと共鳴してきたオレだけが知っている。
だからこそ、その想いはオレが音にして、振り向かせて、受け止めさせる。それが、オレが相棒としてハッチンにしてやれることだ。

お前がオレに捧げてくれた年月を、オレは決して無駄にはしない。お前にこの先どんなことがあろうと、誰にどんな感情を抱こうと、それ故に迷うことがあったとしても。
お前とお前の音楽はいつだってここにあると、オレが証明し続けてやる。


耳かっぽじってよく聴きやがれ、八咫烏。
てめえのメロディシアンも、オレたち色に染めてやっからよ!