Ymi:no
2025-04-20 09:11:01
3882文字
Public ビマヨダ加筆修正前
 

「わし様のビーマはカッコイイのだぞ!」

Twitterを始めるわし様のビマヨダ

……ほう?」
 それはたまたま、本当に偶然の出会いだった。
 とあるSNSで動物の画像を漁っていたドゥリーヨダナのタイムラインに、唐突にそのつぶやきは現れた。添付された画像には、男性の上半身が収められている。つぶやきに付けられた反応を見るに、中々に人気があるようだった。
…………
 ちらりと脳裏に恋人の姿が浮かぶ。少々興味の湧いたドゥリーヨダナは、早速つぶやきを検索してみることにした。
「ほうほう」
 結果として、男性の鍛えられた身体の写真には、一定の需要があるらしいことが分かった。さもありなん、そうでなければボディビルダーなど成立しないだろう。またひとつ広がった世界に頷きつつ、しかし依然として、ドゥリーヨダナには納得のいかない部分があった。
 ――なぜだ。わし様のビーマの方がカッコイイというのに、なぜ他のやつらがチヤホヤされとるのだ!
 そう。そもそもSNS上の彼らには知りようもない、恋人のビーマの肉体美への理解のなさが、何よりも腹立たしいのである。なんという理不尽。
 彼はめくるめく淫らな夜の記憶を掘り起こすと、ふうと熱いため息をついた。自分を組み敷き、全てを暴きたて、容赦なく快楽に堕とす、恋人の精悍な顔が脳を焼く。あの逞しい腕に抱かれ、自分が縋りついてもビクともしない背にしがみつき、しなやかに伸び上がる脚の筋肉で、強く強く腰を打ちつけられる……それが堪らなく気持ちいいことを、ドゥリーヨダナが何より知っている。ずくんと疼いた腹を宥めつつ、やはりわし様のビーマが一番カッコイイだろうと眉を吊りあげた。
「ええい! こうなれば……! わし様が肉体美の何たるかを教えてやろう!」
 こうして一念発起した彼は、恋人の良さを広めるために、アカウントを開設したのだった。

「写真を撮らせろ!」
「写真? いいけどよ。何に使うんだ?」
「んふふ〜ナイショだ!」
……本当のところは?」
「わし様のおかず」
「それは俺を呼べよ」
「お前がおると朝まで寝れんだろう。わし様死んじゃう」
………………
「なんか言わんか」
……まあ、事実だな、とは」
「だろう〜? 流石に週五くらいがいいとわし様思うわけ。でもお前のせいで身体は欲求不満になってしまうからなぁ。お前のせいで」
「ぐ…………
「分かったか〜?」
………………抱きてぇ」
「ぶはははは! ――これが終わったらな?」
 早速ビーマに撮影を迫ったドゥリーヨダナは、不思議そうな顔の恋人に適当なことを言い含め、パシャパシャと撮影を始めた。初めは窓や部屋の明かりを活用していた彼だったが、次第に専用の道具を買い揃え、気がつけばちょっとした撮影ルームを部屋の隅に作っていた。
「凝り性だなぁ」
「財とはこうやって使うのだ。お前も覚えておくとよい」
「ほぉん」

❀❀❀

 恋人に知られていない、それでいて遍く他人に恋人の良さを知らしめられる場所。そんなSNSの存在に、ドゥリーヨダナはあっという間にのめり込んでいった。
『この背中のラインがよいのだ』
 凹凸のはっきりした背中は、なだらかな影を落とし酷く美しい。
『んっふっふ〜 見よ、この丸太のようにぶっとい腕を! 全世界の男の憧れと言っても過言ではなかろう! しかしこれはわし様専用なのだ 羨ましがってもやらんからなᵔᢦᵔ』
 筋肉の伸び縮みにあわせて膨らんだ腕の隆起は、大きなカーブを描きその逞しさを一層強く示している。やはり美しい。
「ウム、この大胸筋、わし様より大きいぞ…… わし様も鍛えねばならんか……揉みごたえがないと飽きられても困るしな……
 盛り上がった大胸筋が谷間や外側の縁に細長い皺を作り、膨らみを強調するような凹凸ができていた。これはもしかしたら、自身のより大きいかもしれない。むに、と自分の胸を揉み、肩を落とす。筋トレしよ。
『わし様の夫は脚もつよつよなのだ』
『昔から驚くほど足が早くてな その秘訣はこのふくらはぎにあるのかもしれん』
『実はわし様と夫の足のサイズは同じなのだ おそろ、というやつだな』
『胸鎖乳突筋名前が長すぎるだろう わし様全然覚えられんのだが』
 顎の下を攻めた一枚に、顔も見たい! といった返信がつく。
『顔か 顔はなぁ、俗にいうソース顔?イケメンというやつだが……わし様専用だからな! 秘密だぞ〜(*/▽\*)』
 ドゥリーヨダナはしたり顔でそうコメントすると、恋人の顔を思い浮かべ、一人でにやにやと笑った。そう、あくまでもビーマはわし様のもの。観客オーディエンスは引き立て役でしかないのだ。
「んっふっふ! 気になるだろう、わし様が羨ましかろう! でも見せてやら〜ん!」
 つまりはそういうことである。

 誰もが羨む褐色肌の筋骨隆々で美しい写真と、妻と言い張るドゥリーヨダナの面白い言い回しで、つぶやきは徐々に様々な人の元に届くようになっていった。ドゥリーヨダナの欲も大変に満たされ、鼻高々である。反応も徐々に増えており、それに伴い恋人の良さが広まっていくのに、彼は何よりも満足していた。
「よぉし! 今日は飲むぞぉ!」
 そうして初めて万バズなるものを記録し、上機嫌のドゥリーヨダナは親友二人を連れて飲みに来ていた。何だかよく分からないものの、嬉しそうな彼に親友らは何も聞かず付き添った。既に三軒目に足をかけ、酔いに酔った彼らはでろでろで足元も覚束ないが、それでも楽しく酒を飲み交わしている。
「恋人に心置きなく飲んでいるな」
「あやつはそんなことで文句は言わん! 美味かったかは聞かれるだろうが」
「ま、俺らが旦那とどうこうなんてねぇしよォ。そもそも友人関係に文句言うやつに旦那は勿体ねぇと思うぜぇ!」
「その通りだ」
 楽しい歓談は深夜まで続き、ドゥリーヨダナが帰宅したのは朝日が昇ろうかという頃であった。
「たぁだいまぁ〜」
 意外にも静かに玄関を開き、右へ左へ揺れながらベッドへ向かう。途中でスパイスのいい香りが鼻腔を擽り、寝ているかと思った恋人が、朝餉の準備のために既に起きていることを知った。
 ベッドに辿り着くとごろんと転がり、ふらふらと揺れる手でゆっくりと布を取り払っていく。
「眠ぅ」
……おい、そのまま寝るなって」
 ベッドの上でもぞもぞしている内に、帰宅に気づいたビーマが寝室に入ってきたようだった。
「せめて着替えてから、」
「ぐぅ」
「もう寝てやがる……

❀❀❀

 最近やたらと上機嫌なドゥリーヨダナに、ビーマは随分とヤキモキしていた。何でも自慢したがりの彼が、中々口を滑らせないのが余計にビーマの嫉妬心を煽った。
「お前ならこうするだろ」
 恋人の行動に準えて、彼のスマートフォンを手に取る。個人情報の塊だが、ドゥリーヨダナなら同じ状況になれば必ずチェックするだろう。お互いに長い付き合いだからこそ、だいたいの動向は想像がつく。
「つぅかお前が俺のスマホ見てるの、気づいてるからな。まあ全然気にしてねぇけど」
 この恋人は抜け目ないようで、結構抜けたところがある。ドゥリーヨダナがビーマのスマートフォンを弄るのには、れっきとした理由があった。行動の監視など視野に全くなく、ただビーマがよく食べるのを知っていて、勝手に小遣いをこっそり増やしているのだ。しかし、残額が二桁万単位で増えていれば、どれほどの朴念仁でも気がつくというもの。それでも恋人の気遣いは嬉しいので、ビーマは知らないふりをしていたのだった。
「俺も普段なら気にならねぇんだけどなぁ……
 後頭部を掻き、眉根を寄せる。こんなにも恋人のナイショが気になったのは、誓ってこれが初めてである。
…………
 スマートフォンを弄っている時の恋人が、ときおり欲の乗った目を蕩かせていたのを思い出す。それ以降も夜を断られることはなく、この腕に抱かれて幸せそうに笑う恋人はいつも通りに見えた。だからこそ、自分以外に向けられた、あの目の意味が知りたいと思ったのだ。
……悪ぃ」
 ロックを解除してスマートフォンを開く。並んだアプリに目を通し、違和感を探した。できれば他は見ずに、目的の情報だけを回収したい。
「これか?」
 割と早くに、とあるアイコンに通知が二桁ついていることに気がついた。青い動物のアイコンに首を傾げ、たぷたぷと操作してアプリを開いてみる。
「ォア」
 なんとも間抜けな声がでた。そこに並んでいたのは、自分の写真と恋人の惚気た文言だった。赤くなったり照れたり抱きたくなったりしつつも、ようやく合点のいったビーマは、心の内から嫉妬心が消えていくのを感じていた。
「そうかよ……
 少し気恥かしいが、何より恋人が、自分をよく思ってくれていることが嬉しかった。
「だったら、なぁ」
 スマートフォンのカメラを、すやすやと眠るドゥリーヨダナに向ける。
 ――俺にも惚気ける権利があるよな?
 パシャリと音が鳴り、新しいデータが登録される。
『写真を撮らせろって言うから好きにさせてたんだが…… こういう風に使ってんのな ちっとばかし照れるなぁ、これは ちなみに嫁さんは黙ってるとイケおじってやつらしいが、表情は愛嬌があって可愛いんだぜ[夫]』
 白と小麦色の中間くらい、程よく色のある肌がくっきりとした影を落とし、上半身の凹凸を美しく彩っていた。
 このつぶやきは肌に赤い点が散っていたことで、そのような方面の女性方に大変人気があり、爆発的に拡散されたのであった。