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sisimi
2025-04-20 02:17:05
1528文字
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夢路を辿って会いにゆく
父水
死ネタ※水木が出てきません。
隣で友が笑っている。これは夢だ。
男は友人である水木を随分と昔に喪っている。別れは暖かい春の日のことだった。
ゲゲゲの森の中、木の上に小さな家がある。その大木の根本に、暖かい日差しを浴びてうつらうつらと船を漕ぐ男がひとりいた。
夢と現のあわいを行ったり来たりしていた男だったが夢に友を見たあたりで目が覚めてしまった。そのまま夢の中で友と語らい続けたかったのに、その願い虚しく、懸命にしがみつこうとした夢はすり抜けて消えた。まだ眠り続けよう、夢の中にいようと意識するほどに頭は覚醒してしまい、友の姿も消え去った。
夢の友が残した余韻で暫しの間、茫として己の白い髪の合間から空を見ながら友を想う。
今日は友の命日であったな。寝ている間に己の頬を濡らしていた滴を手で拭うと男は立ち上がった。
縹色の薄い着流しの裾を翻し、からんころんと下駄を鳴らして歩く男は狭間を通り抜け、妖怪と人間の世界の境界をふわりと越えた。
人の住む側に降り立つとあちらとは違う匂いがする。人間の生きる世界だ。
男の友は人間だった。だからとうの昔に死んでしまって、もうどこにもいないのだ。その友との思い出を反芻しながら男は歩いてゆく。
友の墓は小高い場所にあって、たくさんの知らぬ者たちの墓に混じってそこにあった。何の変哲もない普通の墓石で他の墓と見分けもつかない。だが男はからころと下駄を鳴らして迷うことなく真っ直ぐに目的の墓のもとへ歩いてゆく。やがて目的の場所である一つの古い墓の前で立ち止まった。
己の視界にはただの石の塊がある。これが友の、水木の墓だ。
もっとも墓に来たとてそこに友はいない。男と同じ幽霊族でもない、人間だった水木の体は墓の下にはすでに無い。こうして会いに来ても意味などないではないか、と思わぬでもないがそれでもやはり今日この日には毎年必ず会いに来るのだった。
男は冷えた石を一撫でして友に語りかける。
「水木、今どうしておるのじゃ。
おぬしが自分は死んだら地獄行きだと言っておったから探しに行ったが地獄にはおらんかったではないか、一体何処におるんじゃ」
「また水木にワシの名を呼んでほしい」
おぬしに会いたい。寂しさがぽつりと落ちた。
日差しが暖かくても心は冷えて、心地よい風が吹いても男の胸中はずっと滞ったままだった。
何年経っても忘れることなどなく鮮やかに思い出せる。友の笑った顔を、低く優しい声、仕草や匂い、短いながら共に過ごして出来た思い出を。全部が全部を大事に抱えて男は生きている。
目を瞑り友を想えばその声はすぐに思い出せる。
『ゲゲ郎』
ああ、あの声をまた聞きたい。会いたい、その体をめいっぱい抱き締めてやりたい。ああ、ああ、水木や、早う会いたいぞ。
友の一つ一つを想うたびにきゅうと胸が痛んだ。
地獄にいないとなればおそらく転生するのだろうが、これがなんといつになるかは分からない。すぐにこの世に出てくる者もいるが物凄く時間がかかる者もいる。
水木はいつになることやらさっぱり検討もつかない。男に出来るのはただ待つことだけであった。幸い、幽霊族は他よりうんと長く生きるので再会を待つことができる。
待てば会えるといえどもいつになるかも分からない再会を夢見て長い時を待つのは寂しく、さすがに堪える。共に過ごした時間の幸福が会えない寂しさを際立たせた。だが同時にその思い出が生きて待つための糧ともなり得るのだからなんとも儘ならないものだと思う。
「おぬしが転生するのを待っておるよ」
再び会えるその時までは記憶を辿っておぬしの夢を見よう。僅かな夢の中でだけでも共にいられるように。
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