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い
2025-04-19 21:17:15
2384文字
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切るフェーズ後
万理さん夢
沈黙を紛らわすように、渡されたマグカップに口をつけた。
熱い液体を飲み込んだ後に吐く息すら雑音になる気がして躊躇われ、これまでどうやってまともに呼吸をしていたのかわからなくなって不規則に息を吸う。隣に座る万理さんの存在感がわたしを圧迫し、圧倒している。ずっと会いたくて声を聞きたくて仕方がなかったその人が体温さえ感じられる距離にいるのに、何を言われるのかわからない恐ろしさに顔を上げることすらできない。
わたしが話し始めるのを待っている? それとも何を言うべきか悩んでいるのだろうか? はたまたあまりの怒りと呆れに言葉すらも失っているのか、どんな表情をしているのかわからないから想像ばかりが膨らんでいく。柔らかいソファーに身体が沈み、身動きひとつとれないでいた。
今度こそ確実に終わったな、と自らに言い聞かせるように心の内で繰り返す。
たかたが、あまり連絡が取れなくなっただけ。そもそもがそう頻繁に会っていたわけではなく、多分特別な関係性ではなかった。彼女だと紹介されたことはあったけれど、そんなもの様々な説明が省けるからでしかないだろう。
わたしが、勝手に好きだっただけ。万理さんは優しいから、それを許してくれて、受け止めてくれていただけ。ただそれだけの関係だった。だから、急に態度が冷たくなったと感じたとしても本来のあるべき形に戻っただけのはず。そのことに対してわたしが何を思い、悲しみ怒ったとしてただの傲慢でしかない。それらはどこまでも独り善がりで自己中心的な感情だ。勝手に期待して、勝手に裏切られる、そうやって浮き沈みすることはわたしの人権に基づいた自由ではあるけれど、あくまでわたしの内側だけでかたをつけるべきことで、万理さんを巻き込んでいいことではない。
だから、人目につく場所で声をかければ
――
結果的に職場まで押し掛けるような形になってしまったのは誤算ではあったが
――
場を収めるためにその後の約束もしてくれるはずという打算のみで動いたわたしは、正しく罰されるべきなのだ。
「ば
……
万理さん。あの、わたし、ごめんなさい、迷惑かけて
……
」
絞り出した声は悔しくなるほど粗雑に響いた。本心から謝っているのに、これではまるで責め立てている。許してほしいという決して透けてはいけない言葉を、それを望む弱さを、万理さんの前でだけは晒したくなかった。
「ああ、いや、うん、ええっと
……
。さっきは色々怒っちゃったけど
……
、ずっと返信してなかったから
……
俺にも責任はあると思う。だから、ごめんね」
それなのに、信じられないほど優しい言葉が返ってきたことに身勝手に緊張が緩むのは止められなかった。恐る恐るその横顔を見ると、万理さんの表情も硬い。けれど怒りや呆れは不思議とあまり感じられず、ただ困惑と後ろめたさのようなものが滲んでいて、わたしは思わず「やさしいですね」と呟いていた。
「そう?
……
優しかったら無視してないよ」
「無視は、してないような
……
。返信はくれてました」
わたしの言葉に、万理さんが僅か嘲るように笑う。
「あんなの返信のうちに入らないでしょ。自分でも雑だったなって思うし」
「わたしだって雑な返信で終わらせることくらいありますよ。友達との連絡とか、面倒になって、スタンプだけで返したり」
「そういうのとは、意味が違うよ。だから
……
正直、もう嫌になってると思ってたし、びっくりした」
言外に、俺のことまだ好きなの、と聞かれているのだとわかったし、なんで、という疑問もまた同時にそこにあった。そんなものわざわざ聞くまでもない当然のことなのに、逆にどうして全てを見透かしてくるこの人がそんなに簡単なことだけをわかってくれていないのだろうと不思議で仕方ない。
「迷惑ですか?」
頷かれたら素直に引き下がるつもりでそう聞いた。遠回しに、もしくは言い淀むことはあっても間違いなく肯定という判決がくだるだろうという覚悟と諦念をもって。
「
……
迷惑ってわけじゃないけど」
「ほんとう?」
返ってきたのはやんわりとした否定で、素直に驚く。うん、本当だけど、と呆気に取られたような声色で返す万理さんのほうがわたしより余程驚いた顔をしていて、なんだか気が抜けて笑ってしまった。こんなときなのに、好きな人の初めて見る顔はいつだって新鮮で眩しい。
「そっか、そう
……
。迷惑じゃないなら、よかった」
「うん」
「好きでいてもいい?」
「
……
うん、いいよ」
「あ、でも、困るなら、あんまり言わないようにしたりとかはしますけど
……
」
「いや、それは
……
気にしなくていいから」
じゃあ、すきです、と数センチあった隙間を埋めるように身体を傾け、持ったままになっていたマグカップを机に置いてから万理さんの腕とシャツの袖を握りしめた。安堵と喜びに自然と顔がゆるむ。感情をコントロールできずに持て余している姿を正面から見られたくないが故の行動だったが、数ヶ月ぶりに感じる体温にそんな理性も溶けていく。
俯かせていた顔を持ち上げるようにして頬を撫でられ、ん、と鼻にかかった声が勝手に漏れた。そのまま顎や首筋を触られていると、自分が犬や猫にでもなったかのように思えて今なら素直に甘えられるかもしれないという気持ちが湧き上がる。
「
……
もう遅いし、泊まっていきなよ。必要なものがあればコンビニで買ってきてあげるから」
「えっ
……
いいの? 迷惑じゃない?」
「お詫びにはならないかもしれないけど
……
君がいいなら?」
「あ、わ
……
うん、泊まりたい、うれしい
……
ありがとうございます」
「こちらこそ」
数秒の間があってから、躊躇いがちに抱き寄せられた。「いいっていうか、俺がそうしてほしいだけだから」と耳元で溢された言葉をわたしは声を発することもできずに聞いていた。
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