「四番ライト、三毛縞くん痛烈なヒット~! 九回裏・二アウトから怒涛の快進撃! ニューディメンションオールスターズ、ナイスな健闘なのだよ~!」
ナイスPによる実況で、ドームいっぱいに黄色い歓声が響き渡る。一塁に進んだみけじママンは勝利の拳を掲げて、二塁のナッちゃんも「ママ~!」と飛び跳ねながら大喜びだ。
ESアイドル甲子園。アンサンブルスクエアのみならず、全国のアイドルが集結する一大野球イベント。事務所ごとのチームで参加させられた俺たちは、ペンライトの光るステージ……ではなくて、メガホンの歓声が響き渡るマウンドで勝負している。
予選はいくつか勝ち抜いたけど、前回のコズプロ戦では大敗を喫して、敗者復活戦に突入。お姫さまの期待に応えてなんとか踏ん張ってはみたものの、敵チーム三点、ニューディメンション二点の劣勢。潔く諦めて次いこ次~、と投げやりになっていたところで、三番のナッちゃんが覚醒した。「アタシにはね、椚センセエとのパフェが懸かってんのよ~~~!」と起死回生の大根切り。それに続く四番のみけじママンも乙女のやけくそに触発されて、「ママに任さなさい!」とヒットを決めた。
汗臭い競技はあんまり好きじゃないけど、逆転のチャンスはさすがの俺も見逃せない。ベンチから飛び起きて、湧き上がる仲間たちの輪に割って入ることにした。
「諦めない心っ、そこに痺れるっ憧れる~っ!!!! おれ、先輩がたの熱い魂に感動しました!!!! おまえもそうだよな、相棒!?」
「暑苦しいのは苦手なので、近寄らないでください」
切り込み隊長・エースの一番こと冴霧笑主を避けるように、ブレーンの二番・名都神無がミットで壁を作っている。残念ながらふたりは仲良く空振り三振しちゃったわけだけど、これまでの試合では健闘してくれたので合格点をあげるとしよう。若いっていいね。感心感心、と老人しぐさで頷いていると、同室の子がぷいっといじけた。
「みんなのマドンナ、マネージャーのユメがいながら不甲斐ないの。ユメを甲子園に連れていってくれる王子様は、ひとりもいないの?」
「あのあのっ、よかったらそのお役目、拙が務めさせていただきやす!」
「ふん。お昼ごはんのおにぎりのことで頭がいっぱいで、ピッチャーに牽制されたライカちゃんには到底つとまらないの」
そんなぁ~、としょぼくれるホ~ちゃんの背中をよしよしさすって、ハルくんが「アタックは野球とおんなじな~。二アウトからが勝負です!」と無邪気に笑った。総監督のナッちんが「ソラはいい子だネ」と頭を撫でながら、「センパイ、次の次でショ。とっとと準備しなヨ」と手厳しく当たる。
六番、青葉のお兄ちゃんが「選手遣いが荒いんですから~」とキャップを被り直すと同時に、偉そうな声がベンチに響き渡った。
我らが鬼軍曹、セッちゃんだ。
「れおくん。絶対に打ってよね!」
あんた、チームの監督ですか? ってぐらい自信満々に腕を組んでるセッちゃんが、バッターボックスに向かう月ぴ~に指示をする。九回裏、二アウト二塁。ピンチとチャンスがせめぎ合う球場で、五番の月ぴ~が「ばっちこ~い!」とバットを振りかざした。
セッちゃんは、フッ、と後方監督ヅラで微笑んでいる。ちなみにこの人、前回のコズプロ戦で「今の絶対にセーフだったよねえ!?」「いえ、どう考えてもアウトなのです」と因縁のライバルに喧嘩を吹っ掛けていたので、今試合はペナルティとして補欠です。事務所の先輩が怒りっぱなしだったら、後輩もやりづらいからね。まぁ、それだけ勝負ごとには真剣なんだろうけど。駄目なものは駄目なので。事務所の稼ぎ頭であるKnightsのメンバーにも忖度しないニューディメンションって、最高。アットホームな職場です。
「五番ショート、月永くん」
冗談はさておき、勝敗の結果は月ぴ~の一振りにかかっている。バッターの名前が読み上げられると、ス~ちゃんがメガホンを手に持って、ニューディメンション軍団に呼びかけた。
「レオさんが大逆転homerunを打てるように、皆さんでyellを送りましょう! 各自、やる気になるようなwordを叫ぶように!」
エスプリの子たちは素直なので、「は~い!」と元気よく返事した。純真な小中高生、あまりにも眩しすぎて灰になっちゃうかもしれない。ピッチャーのス~ちゃんがこれまた美人の母親譲りの後方監督ヅラで、うんうんと頷いている。
俺たちの守備が不甲斐ないせいで、随分と打たれちゃったから落ち込んでたけど。なんとか元気を取り戻せたみたいでよかった。凛月お兄ちゃんは安心です。
「月永先輩って、最高~~~!!!! 野球界のエベレストでも、トップに立ってくださ~~~い!!!!」
「ユメを甲子園に連れてって♡なの~」
「ファンのみなさんが喜ぶと思います。よろしくお願いします」
「ええと、ええと、拙もがんばって続くので、どかぁんと一発くだせぇい!」
一球目、勢いよくバットを振るもストライク。「わはは! 消える魔球だ!」と八重歯をきらめかせて、月ぴ~が再度構えた。バッターズサークルで待機している青葉のお兄ちゃんが、「月永くん~! ファイトですよ~!」とエールを送る。Switchの残り二人も続いた。
「レオさん~、フレフレフレ~! 六甲おろしな~!」
「月永センパイ。打ってくれたら、瀬名センパイの瞳がハートになる惚れ薬をあげるヨ~」
「ちょっとぉ! れおくんに変なクスリを飲ませないでくれる!?」
二球目。月ぴ~が「え!?」と振り返り、棒立ち見逃しストライク。こないだ性癖の話題で盛り上がってたとき、思考コントロールの服従モノには「おれ、そういうのはちょっとな……」とそこまで刺さってなかったのに、結局つられてるの笑う。セッちゃんのことならなんでも気になるの、ほんとうに一途だよね。
さて、泣いても笑っても三球目。俺とス~ちゃんは立ち上がり、メガホンで喝を入れる。一塁と二塁で構えているみけじママンとナッちゃんも、大声で叫んだ。
「レオさああああん! 俺たちを信じて、バットを振れえええええ!」
「応援席のお姫さまを、華麗にエスコートしちゃいなさ~い!」
「レオさん! Homerunを打ったら、私の権限でたっぷりと有給休暇を差し上げます!」
「なんと、今ならセッちゃんもついてくる」
「はあ? なんで俺まで……」
この期に及んで冷静にふんぞり返っているので、俺はセッちゃんの背中をポンと叩いた。丈の短いチアガールより、セッちゃんの応援が効果できめんであること。月ぴ~のマブであるリッツは、よく知っていますから。
月ぴ~のやる気ダイナマイトを着火させるのは、やっぱり我らがセッちゃんなのだ。
「セッちゃんもなんか言ってあげなよ。『れおくん♡ 俺も一肌脱いで、一晩じゅうサービスしてあげる♡』とかさ」
「誰が言うか馬鹿! ……でもまぁ、ちょっとだけ応援してやるか……」
ベンチから腰を上げて、セッちゃんがメガホンを掲げる。相手のキャッチャーが合図を出し、ピッチャーがこくりと頷いた。ミットに隠し持った球で、振りかぶる。
セッちゃんがすう、と息を吸った。
「れおく~ん。カッコいいとこ見せてくれたら……今週のお風呂掃除当番、代わってあげてもいいよ~」
「しょぼーーー」
もっと他にあるでしょ……。
ところが「お兄ちゃんじゃよ♡」のモーニングコールぐらい萎える俺とはうらはらに、ドームの虚空に鐘を打つ音が鳴り響く。渾身のボールが放物線を描いて、スタンド席までホールインワン。
嘘でしょ、と口元を引き攣らせる俺に覆いかぶさるように、実況のナイスPが叫んだ。
「五番、月永くん! サヨナラ、サヨナラ、サヨナラホームラン! ナイスな勝利の一撃だ~~~っ!」
応援席の姫が「イヤ~~~! レオさまぁ~~~♡」と続々と崩れ落ち、野太いおじさんの「レオきゅん~~~!」でスタンドが湧き上がる。
歓声の波に包まれながら、月ぴ〜がわははと駆けだした。二塁のナッちゃん、一塁のみけじママンが続々とホームに帰還して、ハイタッチする。
「痛快愉快! 俺たちの勝利だぞお~!」
「お姫さまたち♡ アタシの活躍、見てくれたかしら? ちゅっ♡」
中継のカメラに片やウィンク、片やキスをして、お茶の間へのファンサービスも完璧。ややあって、チームを勝利に導いた月ぴ~も帰ってきた。俺たちにわちゃわちゃと頭を撫でられながら、くすぐったそうに笑う月ぴ~。称賛の輪をくぐり抜けると、一目散にセッちゃんに駆け寄った。
「れおくん、カッコよかったよ」
「わはは! 惚れ直したか?」
「調子に乗るな」
「むぎゅっ」
セッちゃんは素直じゃないから、月ぴ~のほっぺたをつねりながら球場を後にする。まぁ俺らが見てないところで褒めちぎるんだろう。嬉しそうに跳ねる月ぴ~の姿を追っていると、背後にスタッフが近寄ってきた。
「月永さん、こちらに」
今夜のMVPは壇上に登らなければいけないので、ヒーローインタビューに誘導されようとしている。可愛い女子アナに先を越されるまえに話しかけておきたくて、俺は月ぴ~の裾をくいっと引っ張った。
人差し指でキャップをくるくる回していた月ぴ~は、「おお! リッツ!」と無垢に振り返る。
「今回の功労者である月永さんに、インタビューを」
帽子のつばをマイクに見立てて、近づける。ノリの良い月ぴ~は引退試合の野球選手みたいな神妙な顔つきで、インタビュアーの俺に頷いた。
「ホームランの決め手は、やっぱりセッちゃんですか?」
「う~ん。そこはやっぱり……ナルとママのヒットがあったからこそといいますか。みんなの応援も、おれの大砲になりましたね」
「なるほど。……でもさぁ、結構ス~ちゃんの『有給休暇あげます』が効いたんじゃない? セッちゃんと羽を伸ばして、いっぱい旅行できるもんね」
「ん〜?」
「本音を聞かせてよ。俺と月ぴ~の仲じゃん~」
大好きなパートナーと長期間のオフ。そりゃあ勢いよくホームランも打っちゃうよねえ。俺はナッちゃんでもあるまいに、わくわくしながら返答を待つ。
すると、月ぴ~は鼻と唇のあいだに人差し指を置く。そして、大昔の野球漫画に出てくる葉っぱをくわえたガキ大将みたいに、笑うのだった。
「いや、それもあるけど風呂掃除の当番ってさ……。おれって本当にセナと同棲してんだなって急に実感が湧いてきて、めちゃくちゃ興奮した」
「そっちか~い」
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