まだ夢に引きずられるように覚醒しきらない意識の中で、近くにある自分より大きく温かい手のひらを握りしめた。柔らかく笑う気配と、起きた? とかけられた声で、ようやく世界に輪郭が生まれる。ばんりさん、と動かしたはずの口は全く意味をなさない音になってかけ直された布団のなかに消えてしまい、せめてもの抵抗のように握る手に力を込めた。
「眠いなら、もうちょっと寝ててもいいよ。休みだし」
「んん……、や……起きたい……。ばんりさん、もう起きてたでしょ?」
「俺も横になってるから」
空いているほうの腕で抱き寄せられ、髪を梳くみたいに何度か頭や背中を撫でられる。その指先から伝わるひとつひとつがひどく甘くて、本当はまだ夢の中にいるんじゃないかと疑いながらその幻想を壊してしまわないように身動ぎもせず味わった。万理さんから向けられる感情が明確に変わっていることに、わたしはいつまでも変わることなく戸惑える。
全てわたしの都合の良い思い込みかもしれない。ちょっとした言動でがっかりさせてしまうかもしれない。安心した瞬間、今度こそ幻のようにどこかへと消えてしまうかもしれない。そんな疑念が晴れなくて、ずっと、わたしは万理さんから与えられるものを、うまく受け取れているかわからないままでいる。
「んー……でも、せっかく一緒にいれるのに……」
握った手に唇を押し付けて、軽く指を食んだ。そのまま身体を擦り寄せると太ももの間に足を割り込ませられ、頭に置かれていた手の指先が首の後ろをくすぐった。
「じゃあ、寝ないでくっついてようか」
「うん……? うん……」
まだ意識の半分ほどが微睡みに浸かっているわたしの全身を万理さんの手が撫でていく。ふわふわとした心地良さにいつからこれが始まったのか次第にわからなくなっていき、万理さんに自分が強く求められている事実だけが下手に頭の働かない状態だからこそ痛烈に理解できた。
なにがどうとは上手く言葉にできないが、前とは抱き方も変わった気がする。目に見えない質量がそこにはあり、真綿で首を絞めるようにゆっくりとわたしの意識を失わせる。こちらが受け止めるものも欲しがられるものも深過ぎて、途中から水に顔を浸けられてほとんど息ができない中で藻掻いている気分になってくる。一回一回が長いこともそれに拍車をかけた。
それなのに触れ合うことでしか呼吸ができない。わたしを削るのも満たすのも万理さんでしかないその繰り返しで、どんどん他のものが入る余地がなくなっていく。
「……いつきちゃん、好きだよ。ちゃんと好きになったの、わかってくれる?」
「う、ん、うん、うー……うれし……うれしいです」
いつだって自分を圧し殺すことでしか安寧はなかった。だからこそこの理屈の通らない幸福が恐ろしい。それでも、目を開ければかつて想像することすらできなかった万理さんの満たされきった笑顔があることだけは、まるで他人事のように安心できた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.