kibaco
2025-04-19 04:05:05
6668文字
Public ザファ
 

可愛げの化身

2025.03.21に開催されました、
三リョwebオンリーイベント『Kissまで16センチ』web小説アンソロに寄せさせていただいたやつです。

インハイ後の三リョ。無自覚。
二人が少し女の子の話をしているシーンがあります。

「優しくされるとすぐ好きになっちゃうんすよ」

 なんでこんな話になったのか。

 同学年の二人がインハイを節目とした中、冬の選抜まで部に残る三井が適当に駄弁る相手は1年の赤頭か2年の生意気ドチビのどちらかになる。桜木が療養中なので必然的に新キャプテンと行動を共にすることが増えた。
 そも宮城は2年生ながらスタメンフル出場が多いから三井が赤木木暮の次によく接する部員は、三井のバスケへの鬱屈と劣等感の捌け口にした相手、というなんともしまらない事になった。
 だがどうやら宮城はその件に関してはもう手打ちと思っているのか、ごくフラットに三井に接してくるので三井もそのように宮城と相対していた。

つまりは結構仲良くなったのだ。あんなことがあったのに。

 盆過ぎの残暑厳しい夏の午後。生ぬるい風がなんとか通る体育館の地窓付近に座り込み、頭を使わないしょうもないことを駄弁っていたのだと思う。そう、宮城がすぐ告る、って話をしていて。
「オレチョロいから。優しくされたりカワイイって言われるともう好きになっちゃう」
 へらっと宮城が言う。
ハ?なんだそれ。女子か?
「は?男子だが?」
 思ったことが口に出ていたらしい。即座に宮城が返してきた。
「優しくてオレのこと可愛がってくれてー、大らかで人を引っ張ってく感じの人によわいの」
 別にアヤコはお前のこと可愛がってはねえだろ、と突っ込みたくなったが三井は黙っていた。
「そんで10連敗かよ」
「なんで三井サンが知ってんだよソレ」
「つーかオレじゃね」
「は?」
「大らかでリーダータイプだろ」
 割と当て嵌まっている。少なくともアヤコと同程度には合致してるはずだ。三井はそう思った。かつては面倒見の良いキャプテンもしていた。

「あーね。オレのこと徒党を組んで可愛がってくれたもんね」
 そう過去でもない出来事を突っ込まれ三井はウッと呻いた。隣でダレてる宮城を見るとニヤニヤ笑っていた。この野郎。ああ言えばこう言う。可愛くない。己の事を棚に上げて三井は口の減らない後輩にやり返した。
「お前見た目のわりに女子得意じゃねえのにオンナ好きだよな」
 アヤチャンアヤチャン言ってるくせに軽薄な奴だ。むっとして宮城が口を尖らす。
おっ、むくれた。
 ちょっとした仕返しが効いて三井はニヤニヤした。三井は宮城のその顔をわりと気に入っている。クソ生意気な宮城だが頬のラインがまだ丸く子供っぽい。スカした宮城が油断した顔をすると三井はなんとも言えないそわそわとした気分になる。授業中、ジッと座っていられなくて脚の筋肉がむずむずする感じに似ている。
「得意じゃねえわけじゃねえよ。モテないだけです」
「言っててむなしくねーか」
「うっせ」
 宮城に小突かれてちょっとだけ三井が向こう側に傾ぐ。大した力じゃないので起き上がりこぼしのように元の位置に戻る。ついでに尻をずらして少し宮城に寄った。
「おんなのこって優しいじゃん。そりゃ好きになるよ」
 宮城は三井が気に入ってるその丸い頬をさらしながら言う。汗にしめった肌がそのラインをなおさら柔らかく見せた。

「女の子は気に入らねーとか言って俺のこと殴んないし」

 そういう宮城は先程のようにニヤニヤしながら三井を見たりせず、正面を向いたまま独り言のように呟いた。三井のことを責めているわけではない。なのに三井は責められなかったことに気が沈んだ。さっきのように三井を見て、笑いながら揶揄ればいいのに。今詰めた分の距離がまた空いたように気分になった。


 宮城とよく喋るようになった。

 正確に言えば、宮城がよく喋るようになった。三井に。三井と。

 インハイ後のバスケ部の環境の変化もある。しかし三井は宮城に近寄りやすくなった気がしている。夏の激闘を共にしたからだろうか。宮城が三井に慣れたのだろうか。ガードが下がった宮城はかなり居心地が良い。大した話はしていない。バスケの事、日常の事、学校の事、そしてバスケの事。大抵は三井が喋って宮城が適当にノッたり突っ込んだり流したりしているが、たまに宮城の個人的な事。子供の頃からリスペクトしている選手の事をほんのりと話す時がある。
 三井はその話をする時の宮城の静かな、どこかいとけない雰囲気を気に入っている。いつも生意気の化身のような後輩が、たどたどしく大切な宝物をそっと見せてくれるようなくすぐったさが面映ゆく、むずむずしてたまらなかった。
 かつての三井から見た宮城はもっと尖ってて、世の中舐めてそうで、というか三井を舐めていて1年の頃から赤木に認められて早々にベンチ入り。呼び出して数人で囲んでも平然と独りで現れて三井を病院送り。全てに余裕な男だった。バスケ部を襲撃した時は躊躇いなく三井に頭を下げてバスケ部を守ろうとした。そういう事ができる男だった。本当にムカつく奴だった。

 しかしこうして宮城を徐々に知ってみると、実際の宮城は余裕っぽく見せるのが上手い事がわかってきた。
 わりと不器用だ。
 特別要領が良いというわけでもない。たぶん三井の方がカンの良さがあり、いざ事に掛かれば要領が良い。宮城は己が及ばない部分を下準備や慎重さで一つずつ埋めている。
 あと故意なのか無意識なのか、人を煽るのがやたらにうまい。人の地雷の上でタップダンスを踊りがちなのだ。全国の時も息するように他校の奴から売られた喧嘩を買い、華麗に煽っててほんと問題児だった。

 それを宮城に言ったら、ちょっと驚いてからニヤッとして、
「よくわかったスね」
 理解度たけえ~と感心してから、「オレ自分の地雷もよく踏むの」と言った。
 三井は宮城のそういうところを淋しいと感じる。寄せた距離をすいと空けられるような感覚。

淋しいやつ。しれっとしてるくせに隙を見せるんじゃねえよ。

 空いた距離を埋めたい気分になって三井は宮城にさわった。何でもいい。隣に寄ったり肩を組んだり体当たりしたりケツを叩いたり、物理的に近づくことで気を紛らわせた。さわって相手の温度や触り心地を知ると近い気分になれる。宮城は基本的に抵抗しない。
 こちらが近づけば近づき、離れると離れる。懐っこいやつには同じだけ懐っこいし、突き放してくる相手には寄っていかない。結果、桜木とはサルの親子か?ってくらいにぺったりしているし流川とはテリトリーを共有しているネコ同士のような距離感だ。では三井は。
 三井が敵意を持って追いかければ逃げた。拳を固めて殴れば殴り返してきた。こうして馴れ合うような接触をすれば、宮城も三井にじゃれるようにぶつかってきたり小突いてきたりするようになった。座り込んだ三井の背中にぺたりと貼り付いて来た時はかなり驚いた。

 そっと声をかけて優しくすれば、もしかすると心を開くのかもしれない。

 宮城は優しくてこちらから行くタイプによわいのだ。だから何だっていうんだ。今さら宮城に猫撫で声で話しかけるなど有り得ない。だが勝手な三井は宮城の腹の内に手を突っ込みたいと思っている。荒んでた三井をさんざ煽り倒した男の薄皮を少しずつ剥いで柔らかい部分をさわる事は、バスケが上達するのに似た高揚があった。


 一日のほとんどをバスケに費やせた夏の日が終わる頃には、鍵閉めする宮城と居残って自主練する習慣がついていた。目的に沿った負荷を組み込んだ練習時間とは違う。三井にとってそれはただ楽しんでバスケをやるご褒美の時間だった。宮城もそう感じていると三井は核心している。宮城の修練も兼ねてシュート練も一緒にやった。相手にボール出しさせて10本ずつ打ち合う。外すと「ヘタクソー」とお互い野次る。楽しかった。
「さっさと打てー」
「うっせえ!集中してんだよ!」
「矯めたって入んねーもんは入んねーよ」
「サクサク打てー」
「ヘタクソー」
「アンタからみたら大体ヘタなんだから言うな!タコ!」
 宮城は可愛くない言い方で可愛いことを言った。三井は喩えようもない楽しい気分になる。

 腕が上がらなくなってきたので座り込んで休憩を取った。
 三井はふと思い出したことをつらつらと話した。付き合ってた女子にフラれた出来事だ。
「教えて、って言うからコート連れてってよ、最初は楽しそうだったのに」
「女バス?」
「ちげーけど。楽しいのになあ」
「アンタだけ楽しいことしてもダメだろ。体力差とか考えた?」
「たまには違うトコも行ったぜ?」
 腕の疲労が回復するまで、三井の残念なデートコースや宮城の実践の伴わないアドバイスで一頻り笑った。

 再開して三井から10本打つ。精度が上がり、疲労があるのに休憩前より入った。手応えを感じる。
 交代して宮城が打つ。
 すると先ほどより良いリズムで打ち、続けて入った。
「っしゃ、」
「おー。入るじゃん」
「三井サンのフォーム見てたからね」
 素直に褒めると宮城は嬉しそうに笑った。珍しく屈託ない笑顔だった。随分と可愛いことを言うので三井は妙な気分になった。
「アンタの形覚えてるうちなら入るから、」

 宮城がもう一本シュートを打つ。swish。

「忘れねーうちにカラダで覚えとかねーと」
 宮城は真剣にゴールを見つめてシュートを打つ。今度は手前にボールが当たり、なんとか入った。
(こいつすげえエロいこと言うな??!?!)
 三井はまじまじと宮城の顔を見たが、宮城に他意はなく真面目にバスケしているのが伺えた。
「えっ無意識かよ」
「なにが?」
 すげえスケベなコト言ったじゃねーか、とは三井は指摘せず、代わりにフォームのアドバイスをした。
「お前手足短いんだからオレと同じじゃちょっとちげーだろ」
 長さ足らない分、足せ。もっと下半身使え。
「イメージの話すよ」
 オレが短えんじゃなくてアンタらが長すぎるんだよ。と不貞腐れつつ宮城は素直に三井の助言を受け入れる。
「入る、ってイメージがあんの」
 そーかい。と三井は手本を見せるつもりで丁寧に一本打った。
 放物線が何にも邪魔されずリングをくぐりコートに着地する。イメージ通りの美しい一本だった。宮城がおお~と感嘆する。顔を見ると向こうもこちらを見た。宮城が嬉しげに「入った」と言う。

その時、三井は「えっ」と思った。

 三井のシュートはさっきから何度も入ってる。入って当たり前だ。そうなるように努力している。宮城はそれを、アホのように何度でも喜んだ。

えっこいつ。ずっと楽しそうだよな。

 三井はそこで初めて見るように、三井が決めたシュートボールを拾って鞠にじゃれるねこのようにドリブルで遊ぶ宮城を見つめた。てーんてーんてーん。三井の愛する空間に、三井が愛して止まない音が響く。

えっこいつ。オレのこと好きだろ。


 そうして三井の夏の後半は宮城の再発見という成果を得た。
 その成果でもって出した結論が「宮城は三井を好いている」。三井だって宮城が、まあ好きだ。共に闘うチームメイト達を嫌いなわけない。宮城は替えがきかない優秀な1番で、三井は彼のパスを常に欲している。
 二学期が始まると三井と宮城の「ご褒美の時間」が無くなった。時間いっぱいまで部活に当てるし自主練の参加者も増えた。部が活気付きそれはそれで楽しかったが、三井はあの時間を惜しんだ。なんとかなんねえかな。

 授業中、三井は一生懸命考えた。
 バスケやってる時は目の前の事で頭が忙しいので、授業中は考え事をする貴重な時間だ。宮城の可処分時間をどう奪うか。
 三井は宮城の休日を奪うことにした。土日練の前後なら時間がある。休日宮城が何をしているのか皆目検討付かないが、己とそう変わらないだろう。イエス以外のイメージが湧かない。宮城はあの三井が気に入ってるくちびるを尖らせた子供っぽい面をしつつ、「しゃーないすね」とか「いっすよ」とか言うに決まっているのだ。

「いっすよ」

ほらな。

 三井の思い通り、宮城は簡単に三井の提案にオーケーした。なんとなく人に聞かれたくなくて、宮城の腕を引っ張って体育館の隅に連れてゆき話を持ちかけた。宮城は手を引かれるままにのこのことついて行き、「土日も付き合えよ」という主語も目的語もない三井の言葉に二つ返事したのだ。三井は手応えを感じた。宮城もオレと同じことを考えている。

「じゃあ流川たちもいっすか」
 三井サンが居るうちに相手させたいんすよね。

 違った。同じこと考えてなかった。
 宮城の言葉に思わず三井は「はァ?!??」とデカい声で返した。一瞬みんなの視線がこちらに向いたが、なんだアイツらかとすぐに周囲の興味が散る。驚いてるのは宮城ひとりだった。
「おめー土日もオレを使う気かよ!?」
「そうだけど?」
 宮城は当然のように言う。キャプテンなのだ。三井という資産を使い切ることに迷いがない。
「やですか」
「ヤだよ、疲れる」
 毎日毎日ワンオン妖怪と闘い1年2年の指導込みで相手してるのだ。バスケIQは上がっている気がするが土日くらい純粋に自分の為のバスケがしたい。
「お前のアウトサイド、鍛えてやっからよ」
 シュートのジェスチャーで宮城を誘う。お前、コレ好きだろ。コレ。とアピールした。
「ソレは近所のコートでやってるんで大丈夫っす」
 伝家の宝刀が効かなくて三井は負けそうになった。あの日諦めたように膝をついてしまうか。あの日。あの日、諦めて。諦めてバスケへの未練を認めた時のように。
 「オレとお前だけで好きなようにバスケしたい」「他のヤツ呼ばないでくれ」とガキのような腹の内をさらしてしまうか。三井は知性を振り絞った。

「まあそれもいいけどよ。独りでやってっと緊張感続かねえだろーよ」
まぁ、そうかも」
 宮城が揺れた反応を見て三井は追い打ちをかける。
「だらだら時間かけても効率わりーぞそれ」
 それっぽい出任せを言ってるうちに本当にそんな気がしてきた。オレだって独りでやるより人とやる方が上手くなれる。ましてや三井の将来がかかっている冬の選抜は宮城キャプテンにかかっているのだ。どれほど連携を深めても損はない。必要なことだ。何より大切なことだ。そんな気がしてきた。
「よし、体育館使える日は鬼キャプテンとワンオン小僧共に使われてやる。オフの日はお前、付き合えよ」
それでいーよな。
 三井は宮城の両肩を掴み、一方的に話をまとめた。いい、って言え。OKって言え。オレに付き合うって言え。

 宮城はぽかっと三井を見上げていたが、「はー。アンタまじ頭ン中バスケットボールしか詰まってないんすねえ」と感心したように言った。
「お前もそーだろーが」
「オレはもうちょっと、色々入ってますよ」
と己のこめかみをつんつんと指差す。三井から見ると小さい頭だ。そんな大したものが入ってるとは思えない。
「そん中にオレ入ってんの」
なんの気なしに訊いた。

「うん」

 まただ。また三井は「えっ」と思った。それどういう意味よ。宮城の柔らかい腹のうち。たまにさわらせるくせにすいと距離を取る。自覚の通り、宮城は人を煽るのがうまかった。
「ちょっと待って。週7アンタの顔見るのオレ」
 宮城は器用に眉を吊り上げ、むにゅとくちびるを尖らせた。
「おーよ。オレもお前のツラ見んだからあいこだろうよ」
 ほれ、と三井がふざけて宮城に顔を寄せると、宮城は「うわ、つっよ。もー過剰摂取なんだけどこの顔」と笑った。宮城が逃げなかったので、十数センチ先に宮城の顔があった。ふてぶてしい面構えの中に宮城を構成するパーツが配置されていて、三井はいつの間にかそれらをすっかり気に入っている。宮城の肉感的な口元や甘い頬のラインはとくに三井のお気に入りだ。ふいに例のあの高揚が襲ってきた。歯痛が疼くような歯茎がむずつくような感覚。三井は疼きのままに、己がとくに気に入ってる宮城の部分に噛みついた。

 蒸し暑く汗臭い体育館に、絹を引き裂くような引き裂かないような新キャプテンの悲鳴が響き渡ったが、体力の限界間際の部員達はなんだアイツらかと気にもとめず、黙々と練習に励んだ。

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 将来的にまた週7で顔見ることになります。
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