HAZURE_Mapo
2025-04-19 00:22:44
2824文字
Public SO2文章 物語を彩るモノたち
 

物語を彩るモノたち【廻る運命】

SO2に出てくるモノ視点の話。登場キャラはディアス・クロード。※モノが喋ってます ※捏造設定が多めです

 私がこの村で仕事を始めてどのくらいの時間が経っただろう。
 ここで働き始めた頃、新入りだった私は元気よく水を掬い上げながら村の人々を観察していた。畑仕事に精を出した帰りの労働者、雑貨屋で買い物した帰りの親子連れ、待ちくたびれている子供を宥めながら井戸端会議をする母親達。特に記憶にあるのは歳の近い小さな人間達が集まりチャンバラごっこをしていた光景だ。彼らは日が落ちる直前まで私の近くで木の棒を振り回して遊んでいた。たまに擦り傷程度の怪我をする者もいたが、傷の多さも勲章だと意に介していなかった。その中には、小さな頃の村長もいた。今となっては少々腰が曲がっているものの立派な白髭を蓄えた威厳のある風貌になっているが、彼にもちゃんと無邪気な少年だった時がある。
 確かに彼は当時村一番のやんちゃ坊主ではあった。けれど剣の腕は周りと比べて群を抜いていた。優れた剣術のセンスは数年後も錆びることなく磨かれ続け、そのうち大人でさえも彼に敵うものはいなくなった。師匠という意味でも憧れていた自分の父親でさえも。
 しかし、いつしか物足りなくなったのだろう。こんな退屈な田舎は俺のいる場所ではないと一度は村を後にした。もちろん村の者は彼の強さを認めており、将来は用心棒にと期待していた矢先のことだ。星も出ない曇天の真夜中に昼夜休まず働き続ける私の隣を横切って、一度だけ振り返り住み慣れた村を見つめた後、外套を翻して旅立った。
 その時の、硬い決意に満ち溢れたと思えばどこか寂しさを讃えた眼を私は忘れていない。同時に夜が明けてからの村人達の動揺も覚えている。
 しかしいなくなった当初こそ毎日彼の名を聞いたものだが、それが一ヶ月に一度、一年に一度と回数も減っていった。残された者で村を守らなければならないのだ。捨てた者に未練を残しても仕方がないと言わんばかりに、村人はまた私のように変わることのない日常を取り戻していった。
 けれど旅の間に何かあったのか、彼は結局数十年後に戻ってきた。村を後にした当時の面影はあったが、昔のままの記憶では別人だと思うくらい外見は年齢を重ねていた。しかし顔つきは変わらず村を後にした時の眼とほぼ同一、寂しさだけは消えていた。そして自分はこの村を守るのが使命だと宣言した。
 この姿に人々の反応は千差万別。喜んで受け入れる者もいれば、怒号を浴びせる者もいた。しかし一番多かったのは、疑心の目で見ていた者だ。彼が村を出てから数十年経ち、彼を知らない者が村の半数以上を占めていた事が原因だった。小さい辺境の村ゆえに人の往来も滅多にない、こんな場所で何がしたいのかと好奇心より懐疑心のほうが村の雰囲気を包んでいた。
 止まらない怒りの声が向けられるのは承知の上だが、恐らく自分の知っている村の雰囲気ではなかったのだろう。親は既に他界し帰る住処もとうになく、しばらく彼は戸惑っていたが不在の期間を埋めるべく粉骨砕身の努力を始めた。
 周辺に魔物が出没すれば退治はもちろん、サルバ方面の魔物退治の依頼も請け負いながら畑仕事、雑貨屋の店番、乳飲み子の世話など求められれば何でもやった。あまりの働きぶりに少々心配することもあったが、止まることなく働き続ける私を見ると心が落ち着くらしい。疲れた時には私の近くで足を川につけながら休息を取っていた。私もつられて心なしか動きが遅くなっていたらしく、調子が悪いのかと逆に心配されたことが何度かあった。今思い返せば、このやり取りは私の一生でも最上に楽しいひとときであったとしみじみ感じる。
 こんな風に他愛もない日常を丁寧に過ごした結果、彼は村の者に認められて満場一致で今の地位に就任し、数十年経った今なお言葉の通りに働いている。大したものだ。
 それに驚くべき事がもう一つ。
 彼が村長に就任したばかりのまだ杖を持たずに歩けた頃、同等かそれ以上の優れた剣士の才能を持つ者が現れた。幼い頃から目つきは鋭く、睨むだけで臆病者は退散するほど威圧を感じたがそれだけで、目の奥は本来の性格である暖かさを宿していた。この様子に村の者も将来大成するかもしれないと期待を寄せていた。
 しかし神は残酷だ。彼も含む一家に凄惨な事件が降りかかり、村人の期待は雲散霧消して空の彼方に消え去った。
 唯一生き残ったものの、心に治る事のない深い傷を負い村を後にした彼を心配しない者はいなかった。
 無論、私も。
 現在の村長の時とは違い、彼は数年経っても人々の記憶にある。例え彼が村を去った後に生まれた子どもだろうが。
 それでも、人々は営みを止めることはない。
 彼らは働き、生活は絶えず続く。
 生きるために流れる時間は皆平等だ。
 月日が経ち、私もずいぶん年老いた。昼夜はもちろん晴れの日も雨の日も、ずっと絶え間なく働いてきた。最初からこれが私の運命だと受け入れていたから特に苦に思った事はなかったが、ここ最近は水が昔より重く感じ、数分に一度は体が軋む音が鳴る。
 しかし、今目の前にある現実を見ると私はまだまだ止まりたいと思わない。
 かつて去った、剣の才がある者が仲間を連れて帰ってきた。
 それに私を眺めながら二人並んで談笑している。
 彼が笑う姿は久しぶりに見る。彼が失意の中で村を発った日のことも覚えているが、若かりし村長の時と同じく星が出ていない日の真夜中だった。
 しかし村長と決定的に異なっていた部分がある。
 眼に生を感じなかったことだ。
 光がない夜だったからだけではない。あれはまさに生きる屍だった。
 それがどうして、今は眼に輝きが灯っている。
 あの時のことを覚えている故に信じられないが、彼もまた旅の途中で変わったのだろう。
 この光景の、その先を私はずっと見ていたいから私はこれからも働き続ける。


「本当に良かったのか。この村に住むと決めて。地球に帰る選択肢もあったんだろう」

「まぁね。でも僕はエクスペルが好きだし、地球にはない自然がたくさんあるアーリア村が気に入ったんだ。
 それにこの水車、凄いじゃないか。随分と昔から動いてるんじゃないか? これ。もう地球では使われてないから本でしか見たことなかったけど、実際に見てみると迫力あるなー」

……俺はこの風景が当たり前だと思っていたが、お前は違うんだな」

「そうだね。だからこれから始まる生活を楽しみにしてるよ。レナもこの村にいるって言うし、何よりディアスが『アーリアに来ないか』って誘ってくれたのが嬉しかったからね。受け入れてくれたお礼にまだ魔物の動きが活発だから村のために一肌脱ぐよ」

……そうか」

「うん。この日常を守るためにも」


 ──どう言うことだか、この村は責任感が強い者が集まるらしい。
 これもまた村が持つ運命なのか。
 それならば、この幸運がまるで私のようにずっと廻り続けることを願ってやまない。