冒険の途中、四、五本の切り株が並んだところにキャンプの設営をして休憩を挟んだ時のこと。切り株に腰を下ろしたリコは脇の下や背中に手を回して服をつまんで引っ張っている。お腹の少し上の辺りでもそれをして、リコは「んー」と唸る。そんな姿を見たロイは不思議に思い声をかける。
「リコ、どうしたの?」
「なんか胸が締め付けられてる感じがして…ブラのサイズ合わなくなっちゃったのかな…」
「……そ、そっか…」
思わぬ回答。ロイは一瞬頭が固まり、反応が遅れた。当然、ロイの視線はリコの顔から下へと落ちる。リコは変わらず服の上からその奥にある下着をつまんでいる。あまり見てはいけない。ロイはすぐに顔を空へ向けた。
「…あ」
リコの口から声が漏れた。ロイが反応して顔を向けると、リコの顔が真っ赤に染まっている。そしてリコは立ち上がり、ロイの方に向かって両手をあたふたと振る。
「ご、ごめん!!なんも考えずに返事してて!!こ、こんなの言われても困るよね…」
「ああ…いや…僕も察しが悪かったから…」
言葉に詰まる。これまでお互いあまり意識していなかった性別の違いを感じていつになく気まずい雰囲気となっていた。リコが落ち込んでいるだけならロイが明るく振る舞うことで解決しただろう。しかし、ロイも女の子の体を意識するなど初めてのこと。視線が下に行かぬよう、空を仰ぐので精一杯だ。相変わらず無邪気に空を飛ぶタイカイデンとアチゲータが青い空で豆粒となっている。
そんな中、長く続く沈黙をリコが打ち破った。
「ロイ…あの…聞きたいことがあるんだけど…」
「な、なに…?また冒険のこと?いいよ、なんでも…」
「じゃなくて…その…ロイは…大きいおっぱいと…小さいおっぱい…どっちが好き…?」
「え」
ロイの目の前で胸を抑えて体をもじもじと揺らしながら聞くリコ。膝が曲がっているのか、いつもより頭が低く、上目遣いだ。仕草、表情、言動。全てがロイの頭の中をぐるぐる回って思考を止める。
「ロ、ロイ…?」
「は!!——」
リコが彼の名を呼ぶと、ロイは正気に戻った。が、戻ったが故にリコの先ほどの質問が鮮明に響く。どうしてリコはこの話を続けたのか。混乱がほんのわずかに怒りとなる。目が合えば、リコは逸らしてしまう。ひとまず答えたくない。ロイは気持ちを固めて口を開く。
「そ、そんなの聞いてどうするの?」
「どう…って…どうも…しないけど…」
「じゃあ聞かないでよ…」
「で、でも…!大事な…ことだし…」
リコは変わらず頬を赤くしたままそう言った。当然ロイの顔も真っ赤だ。しかし大きな切り株の上で眠るキャップとマスカーニャの表情はやわらかく、非常に健康的な顔色だ。リコは瞳を上へ覗かせる。少し目尻に雫が溜まったその愛らしい顔にロイは息を飲んだ。
「ロイが…大きいのが好きなら…もっと大きくならなきゃだし…小さいの好きなら…これ以上大きくなったら困るもん…」
「はっ…はぁっ!?」
キャップのボルテッカーのごとく強烈な電撃がロイの全身に走った。この二人は特に付き合っているわけではない。ロイはリコが今正気ではないことをようやく理解した。てんぱったり気を張ったりすると変なことをするのはリコにはよくあること。おそらく後でリコはこんなことを言ったのを余計に恥じるだろう。それを待てば何も言わずに済むと思いつつも、答えなかったら答えなかったでリコと後で余計に気まずくなるかもしれない。そう考えたロイは拳を握って口を開いた。
「僕は…大きさとか別に気にしないよ…好きな人のが…一番魅力的でしょ?」
言い切ると、ロイは顔を右へ振った。これ以上真っ直ぐにリコの顔を見るのは無理だったようだ。胸に手を当て俯いたリコの顔はまだ赤い。しかし彼女の口元はやんわりと緩んだ。
「そっか…分かった…ありがとうロイ」
「あ、ああ…とりあえず、もうこのお話終わりだから…」
「ちょっと待って」
背を向けてどこかに逃げようとしたロイの手をリコが掴んだ。顔だけを振り返ったロイがリコに聞く。
「ど、どうしたの?もういいでしょ?」
「あの…ええと…明日…下着屋さん…寄ってもいい?」
「…それはいいけど…明日で大丈夫なの?」
「うん…今日は我慢できるから…」
「そう…わかった。でもあの…わざわざストレートにそんなの言わなくていいからね…?買いたいものがあるとかでいいから…無理に聞かないし」
「そ、そうだよね!ご、ごめん…!私焦っちゃってて…!」
ようやく離された手を顔に当ててロイは大きな息を吐いた。リコが水を汲んでくると言ってその場を離れると、ロイは切り株に座った。
「リコってどんなのつけて…って、考えちゃダメだ考えちゃダメだ…」
ぶつぶつと言いながら頭を両手でポコポコと殴るロイを見て、空から降りてきたアチゲータとタイカイデンは顔を向き合わせて首を傾げた。
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