ボストンでクラムチャウダーを食べるのに飽きた頃、私たちは内陸に向かって出発した。地元の人も通勤に使う電車に乗って一時間ほどの移動で、都市は植民地時代を彷彿とさせる街並みが出迎えてくれる。
コンコードの街は静かな場所だった。街の名前と同じコンコード側が、北に向かって流れている。そこをカヌーに降るのもレクリエーションとしてはいいだろう。
街に到着したあと、ホテルに荷物を置くと我々は街に出た。腹ごしらえのためだ。車がないから徒歩で移動できる範囲で探すことになる。街をぶらぶらと歩いていると、ダイナーを見つけたので、我々はそこに入ることにした。
店内はピンクと水色のひと昔前を思わせる内装で、BGMにシナトラがかかっている。映画の中でしかみないような、店だった。
店につくなり、相方がテーブルに備え付けの紙ナプキンや諸々を物色し始めた。店の人に態度の悪いアジア人だと思われる前に、止めた。
「ここに爪楊枝はないよ」
日本のお店だって今時置いていない場所の方が多いのだから。打楊枝を歯ブラシに使っていた時代ならともかく、木の枝をくちゃくちゃ噛み締めて歯を綺麗にするなんて、全時代的だ。
歯を磨きたかったらホテルに戻って、電動歯ブラシを使うといい。
「いまいち馴染まないね」
そういうが、この男は誰よりも異国の風景に馴染んでいる。どこの国のどの街角に居たって、そこを自分の物語にしてしまうのだ。
その物語のような姿を、私はカメラに収めた。
「撮ったの」
「撮ったよ」
「こんな姿を?」
「こんな姿でも絵になる」
旅先で撮った写真を帰国したあと編集し写真集にするのだ。当の本人は、自分の姿が金になることなんて無頓着で、完成したものを一応受け取りはしているが、見てくれているのか疑わしい。
旅をするのが好きなだけで、大雑把な人間なのだ。写真で切り取ったシーンには、写っている人間の性格は映し取られない。彼が爪楊枝を咥えるような男であることは、共に旅をしていない人間は知らないのだ。
知られなくてよかったと思うと同時に、人気モデルの自分しか知ることがない姿を特権だとも感じる。
カヌーに乗った姿も、きっと良い絵になるだろう。
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