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Kaori
2025-04-18 01:06:15
6564文字
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ウルトラマンアーク
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分かち合うもの
X(旧Twitter)でお見かけした、ユウマとシュウさんの同時変身&始末書合作ネタをお借りしました。
空に煌めく二つの虹を人々が見上げているころ。
人がいない建物の陰で、小さな光の粒が収束して二つの人影が現れた。
「おつかれさまでした、ユウマくん」
「シュウさんもおつかれさまです。今日は早く終われましたね」
物陰に置いていたリュックとアタッシェケースを回収して、二人は人がいる方に向かって歩き出す。
「ユウマくんが怪獣が二体いることに早めに気付いてくれたおかげです」
「あれはシュウさんが貸してくれた新しい探査装置だからわかったんです。やっぱり防衛隊の最新機器はすごいです」
「まだ試作機の段階でしたが、お役に立ててよかったです。
……
ところでユウマくん、その探査装置はどうしました?」
「
……
え?
……
あれ?」
ユウマはぴた、と立ち止まってあちこちのポケットを探りだす。ジャケットにもズボンにも見当たらず、リュックを地面に置いて中を漁っても探し物は見当たらない。
「
……
あれ、僕、どうしたっけ
……
? シュウさん、僕が装置をどこにやったか知りませんか?」
「いえ、私もそこまでは
……
」
「ですよね
……
え、まずい。どうしよう
……
あそこまでは持ってたはずで、その後に
……
」
リュックの中身を全部広げる勢いで探していると、遠くから二人を呼ぶ声が聞こえた。
「いたいた、ユウマー! シュウー!」
「ユウマ、シュウさん! お疲れさまー!」
リンとユピーが手を振りながら二人のところまでやってくる。
「ねえねえ、ユウマ。これ、あっちで見つけたんだけど、ユウマが持ってたものじゃない?」
水色の大きな手の上に乗っている物を見て、ユウマの顔が引き攣る。隣でシュウが息を飲み込んだのも感じた。
「ああっ!! それ
……
っ!?」
「
……
探していた物ですね」
深緑色の筐体はあちこち擦り傷やヒビが入っていて、ずれた接合部からは内部の基盤らしきものが見える。
受け取ったシュウがそっと電源を入れようとするが、端が欠けたモニター部分は何も反応しない。
「壊れちゃってるみたいだねえ」
ユピーの明るい声に、ユウマとシュウは返せる言葉がなかった。
◇◇◇
分所に戻ったユウマは、待機していた所長に一連の出来事をうなだれながら報告する。
ひととおり聞き終わった所長は、はあ、と息を吐き出した。
「ひとまず経緯はわかった。ユウマに事情があったのもわかってはいる。
……
だが、防衛隊から借りた機器を壊したのは事実だ」
「はい
……
本当にすみません
……
」
「おそらく石堂さんは、こちらの責任が軽くなるように防衛隊側には説明してくれるだろうが、SKIPとしてはそれに甘えるわけにはいかない。SKIPからも正式に謝罪と報告書を出す必要がある」
「
……
はい」
「ユウマは経緯報告書を作ってくれ。明日の昼までにだ」
「了解しました」
自分の机に戻ったユウマは両肘をついて頭を抱える。見守っていたユピーが声を掛けてきた。
「ユウマ。壊れちゃったとはいえ、探査装置が見つかっただけよかったと思おうよ」
「そうね。紛失してたらもっと大事になってたよ、きっと」
「
……
ユピー、リンさん、それ、あんまりフォローになってません
……
」
(シュウさんの方も、悪いようになってないといいんだけど)
報告のために宇宙科学局に戻っているシュウはどんな様子だろうと思いながら、ユウマは報告書を作成しようとPCを起ち上げた。
◇◇◇
シュウが班長室を訪れたときには、窓から差し込む陽がかなり低くなっていた。
「
……
それで君は、最新の試作機をSKIP所員に貸与していた、と」
「開発部からは改善のためにも現場で使用した生の声を聞きたいと言われていましたので」
「それは君が使用する前提だったのではないか?」
「私よりも怪獣生物学の専門家が使った方が、より適切なフィードバックができると考えました」
「その結果として、試作機の破損につながったわけだ」
「それに関しては監督が不十分だった私の責任です。責めは私が負います」
シュウはすっと背筋を伸ばし真っ直ぐに前を向く。相対する丹生谷班長からは、眼鏡越しにいつもどおりの鋭い視線を返された。
「まずは経緯報告を文書でも提出してもらう。おそらくSKIPからも報告書が出てくるだろうから、それと合わせて最終的な処分を決めることになる」
「SKIP側に責任はないと
……
っ!」
「組織としては君の報告だけでは終わらせられない。君がそう主張するなら、詳しく報告書に記載するように。提出期限は明日の朝だ」
「
……
承知しました」
これ以上はこの場で話しても無駄だろう。そう判断して、シュウは頭を下げると班長室から退出した。
SKIPに、何よりユウマに無用な責任を負わせるような事態を避けるためにも、慎重に報告書の記載内容を検討しないといけない。
そんなことを考えながら足早に班長室から去っていったシュウは知らない。
一人残された丹生谷班長が、深々とため息をついていたことなど。
「
……
まったく。小さい機器など砂粒くらいの存在になってしまうのはわかるが、もう少し上手くやってくれ」
◇◇◇
分所に残っているのはユウマ一人だった。
リンは「ユピーの夜間メンテナンスが必要だから」と、ユピーを連れて早々に退勤している。所長もユウマに夕飯の差し入れをしてから帰っていった。
PCのディスプレイに映る報告書はまだ埋まっていないところの方が多い。調査・研究の結果をまとめることと違い、こういった報告書の作成はまだまだ慣れなくて時間がかかってしまう。
「経緯、かぁ」
ユウマは頬杖をつき、今日の出来事を改めて思い起こし始めた。
いつものようにホットラインに掛かってきた電話がきっかけで、異変があった現場に向かった。
シュウが最新探査装置の試作機を持って分所を訪れていたのは偶然だったが、そのおかげで怪獣を早く発見することができた。
「所長! やっぱりこの振動の元は怪獣です。地下50メートルあたりに巨大な生体反応があります。まだおとなしくしていますが、急に動き出す可能性もあります」
『わかった。俺は防衛隊や地元の警察・消防に連絡する! リンは避難誘導のサポートを! ユウマはそのまま怪獣の様子をモニタリングしてくれ!』
その場に残ったユウマとシュウは探査装置のモニターを覗きこみながら、怪獣の動向を注視していた。
「この探査装置、SKIPのとは全然違いますね。こんなに地下にいるのに詳しく生体反応がわかるなんて」
「不審な振動が移動する経路を元に、怪しいと思われる場所を特定できたのはユウマくんが推論してくれたからです。
……
なるほど、ターゲットを補足してからの探査は良好ですが、補足するまでのところに課題がありそうですね。開発部に伝えておきます」
「詳細なデータが取れる分、探査できる範囲は狭いかもしれないです
……
あれ?」
ふとモニターに示された波形に違和感を抱いて、ユウマは探査装置を構え直す。地面に近付けて、ゆっくりと向きを変えていく。
「
……
これは、さっきのとは別の反応? 心音のパターンが違うような
……
もう少し深い地点にいる?」
「ユウマくん? どうしました?」
「シュウさん、ヤバいです。怪獣がもう一体いるかも」
「えっ!?」
そのとき、地面が大きく揺れた。先ほどまで感じていた不定期な振動よりもかなり激しい。地下から何かが突き上げてくるような揺れ。
「地下で二体の怪獣が接触してしまったようです。おとなしかった一体目も暴れ始めました! 地上に向かって上昇してきています!」
「所長! ユウマくんの話、聞こえましたか!?」
『聞こえた! こちらは避難誘導を急ぐ! 二人もすぐに退避するように!』
ユウマとシュウの足元もどんどん揺れが大きくなってくる。
探査装置の目まぐるしく変わる波形と数値を見つめながら、ユウマは必死に対応方法を探していた。
(複数の怪獣と戦ったことはあるけど、
一人
僕とアーク
だけだとけっこう厳しい)
過去に複数の怪獣と対峙したときの苦労の記憶が蘇ってくる。
「
……
とりあえず先に地上に出てきた一体目の相手をして、二体目が出てきたらなんとかして地下に留めておいて、アーマーが使えるようになったら、分身しちゃえば二体同時に相手にできるから
……
」
「何を言ってるんですか、ユウマくん」
低い声に思考を遮られて顔を上げると、目の前にシュウの険しい眼差しがあった。
「また、一人で走り出そうとしていますね? 何のために私がいるのですか? 分かち合うのではなかったのですか?」
真っ直ぐに見つめられて、ユウマははっと目を見開いた。
(そうだ。もう、僕とアークだけじゃない。シュウさんたちもいるんだ
……
!)
足元の振動はさらに大きくなる。
地面の下で土が抉れる音が近付き、ついにそれは地上に達する。
轟音とともに土砂が湧き上がった。
降りかかる土煙の向こうに現れた強大な影。
揺れる地面に負けないよう力強く足を踏みしめて、ユウマとシュウは明らかになった怪獣の全貌を見上げる。
「一緒に行ってくれますか?」
「もちろん」
一瞬だけ顔を見合わせて頷きあう。
二人同時にキューブを取り出す。
青く/赤く煌めくキューブを構える。
(みんなを、シュウさんを、守るために)
(みんなを守るユウマくんを、守るために)
想いを込めてキューブを握りしめる。
慣れ親しんだ音と共に青い/赤い光が強く広がる。
そして現れる赤銀の/黒銀の大きな姿が二人を包み
――――――
「あのときに、どっかに放り出しちゃったんだよなぁぁ」
せめてどこかのポケットに入れておけば、きっと衣服の一部と扱われて、元に戻った時にもそのまま無事だっただろうに。
一連の流れを思い起こして、ユウマは再び頭を抱えた、そのとき。
「やっぱりまだここにいましたね」
背後から聞き慣れた優しい声が掛かった。
「シュウさん!? どうして」
「リンさんから聞きました。ユウマくんが残って経緯報告書を書いていると」
「いやあ、明日の昼までに出さないといけなくて。あ! シュウさん、防衛隊の方はどうでした? やっぱり、問題になってしまいましたか
……
?」
「私もユウマくんと同じです。経緯報告書を提出するように言われました」
「ちなみに、いつまでに
……
?」
「明日の朝です」
締め切りの短さに目を見張っているユウマに、シュウは落ち着いた微笑みを向ける。
「何十枚もの始末書に比べたら、これくらいなんてことはありません」
「
……
え?」
「いえ、こちらの話です。それで、私も急いで報告書を作成しないといけないので、机をお借りしても良いでしょうか」
常駐が終わってシュウ用の机は片付けられている。ただ、調査の情報交換や試作機器のテストなどでたびたびシュウがこの分所を訪れるので、作業用のスペースは残されていた。
「すみません、シュウさんにも報告書を書かせるようなことになってしまって」
「ユウマくんだけのせいではありません。私もあの場にいて一緒に探査装置を見ていたのですから」
「でも、持ってたのは僕なので
……
」
なお言い募ろうとするユウマを、シュウは片手をすっと上げて遮る。
「お互いに報告書を作成しないといけないわけですし、ここは苦労を分かち合いませんか?」
「は?」
「どうせ経緯は二人とも同じになるのですから、分担しましょう。それぞれが書いた部分を組み合わせれば良いのです」
「な、なるほど
……
?」
「怪獣発見から地上に出てくるまでの部分は、探査装置を見ていたユウマくんの方が詳しく書けるでしょうからお願いします。私はそこまでの状況と、怪獣出現後にアークたちが現れた以降の辻褄を合わせる部分を担当しますので」
「わ、わかりました。頑張ります!」
シュウに書くべきポイントを絞ってもらったおかげで、先ほどよりもスムーズに進められそうな気がする。
ノートPCを広げてさっそく作業を始めたシュウを見て、ユウマも改めて自分のPCに向き直った。
◇◇◇
「おはようございまーす」
リンが出勤してきたときに電気が灯いたままだったので、もしかしたら、と思って声をひそめて分所の中に入る。
案の定、中央の机に二つの人影があった。
「
……
まったく、二人揃って」
「ユウマもシュウも、気持ちよさそうだねぇ」
同じくそっと後ろに付いてきていたユピーに、リンは肩をすくめてみせる。
ノートPCと紙やペンを机の端に追いやって、ユウマとシュウが机に突っ伏して眠っていた。
二人とも穏やかな寝顔をしているので、やらなければならないことは終わっているのだろう。
「とはいえ、もうすぐ勤務開始の時間だからね
……
おーい、二人とも、起きろー!」
「
……
っ。え、リンさん
……
っ!?」
「っは!! おはようございます
……
! って、あれ、寝ちゃってた!?」
慌てて飛び起きた二人の姿に笑いながら、リンは自分の席についた。
「ユウマは報告書、終わったの?」
「はい! シュウさんが手伝ってくれたおかげで無事に書き終わりました」
「ユウマくんが探査装置まわりを詳しく記述してくれたので、私も助かりました」
「じゃあ、頑張った二人に、私からご褒美! はい、これ!」
鞄の中から取り出した物を、二人が座っている机の上に置く。
深緑の筐体に擦り傷やヒビは残ったままだが、歪んで内部が見えていた隙間はなくなり、反応がなかったはずのモニターはバックライトが付いてデータが表示されている。
「え、これ、あの探査装置!?」
「動くようになったのですか
……
!?」
「ふふふー。リンさんの手に掛かればこんなものよ!」
「ユピーも手伝ったんだよー」
「すごい! さすがリンさん! ありがとうございます!!」
「さすがに傷やヒビ割れまでは直せなかったけれど、動作するようになっただけマシじゃない?」
自慢げに腰に手を当てるリンに、ユウマはひたすら頭を下げる。
その隣で装置の動作を確かめていたシュウは、不安そうに眉を寄せた。
「シュウさん? どうかしましたか? リンさんがせっかく直してくれたんですし」
「いえ、その
……
直していただいたのは大変ありがたいのですが
……
リンさん、修理したということは、中身も見たということですよね
……
?」
「当然でしょ。中の回路もちゃんと直してます。さすが防衛隊の最新機材ですね。参考になるところがたくさんありました!」
「細かいところも多くて、大変だったよねー」
「ユピーも手伝ったということは、当然、すべての映像記録も残っていますよね
……
?」
「もちろん。あ、でも、安心して、シュウ。ユピーはリンに言われない限りは、勝手に記録を誰かに見せたりはしないよ」
明るく答えられたが、シュウの表情は晴れない。
「ええ、それは、アークの件が漏れていないことからも信頼はしていますが、とはいえ
……
防衛隊の機密が詰まった試作機の中身を、隊員以外の人が見て記録したとなると
……
」
「あ、もしかして勝手に修理したらマズかったりしました?」
「え!? もしかしてリンさんも始末書ですか!?」
「そこまでのことにはならないでしょ。大丈夫、私が直したんじゃなくて、最初からそれくらいしか壊れてなかったことにしておけばいいんじゃないですか?」
「もう既に装置の被害状況は画像で提出済みなので、今さらごまかすわけにはいきません
……
装置を壊しただけならまだしも、装置の内部構造情報を外部に漏らしたとなると、私の方の経緯報告書は大幅に書き直さないと
……
あと一時間
…………
」
「シュ、シュウさん
……
あ、ほら、とりあえずコーヒー飲みましょう! シュウさんが置いていったコーヒーメーカーはまだ残してますから!」
「ユピーが淹れてあげようか?」
「
……
いえ! 私が自分で淹れます! まずはコーヒーで心を落ち着けなければ
……
」
こうして今日も、賑やかでいつも通りのSKIP星元市分所の一日が始まるのだった。
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