望月 鏡翠
2025-04-16 23:57:36
1087文字
Public 日課
 

#1693 「首塚」「民主」「万葉」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話

 人の骸にはどれほどの栄養が含まれているのだろう。そこはしばらく草木一つ生えぬ呪われた土地だと囁かれた。なんのことはない。土が富み過ぎて薄まるまで草木が映えなくなってしまっただけだ。もっと詳しく調べれば骸に生えるキノコなどは、腐っていく死体の熱と湿気で、大いに栄えたはずだ。
 それも今は記録の中では悍ましい様子だったということしか伝わってこない。
 肉が腐り切ってこなれた土からは、新しい命は生い茂った。万葉の花が咲き誇った。呪いがでてきたのは、それ以降のことである。
 首塚に埋められた死者には、時間の経過という概念がなかった。常に新鮮に人を恨み憎むことができた。最初は首を切り落としたものを、次に犯人が仕えた主を、それでも収まることはなく、近くを通る無関係の人をのべつまくなし襲い始めたのである。
 怪異を鎮めてくれという依頼が師匠に舞い込み、私たちは古い土地にやってきた。動きやすい服装を見誤っていた。登山をする心構えでいなければならなかったのだ。万の草木が生い茂り手入れをしようにも近づけなかった塚は、完全に山に還り藪を切り開きながら、進まねばならなかった。
「何人死んだからわかりませんが、全てを鎮めることなんてできるのでしょうか」
「難しいだろうね。人一人の恨みだって深いのだから。君はどうするつもり?」
 それは師から出された課題だった。一人で解決できるところを見せてごらんと言われているのだ。
「そうですね……。たとえば、首塚にいる人たち全員と交渉して成仏してもらうのは、とても大変です。ですから代表を決めてもらうというのはどうでしょう」
「なるほど。私はその代表とだけ話し合って他の人間には彼に追従をしてもらうというわけだね。しかしそれでは問題があるよ。どうやって代表を決めてもらう。首塚に埋められた人たちは、別にお友達同士ってわけじゃないんだよ」
「そこは民主的に、彼ら自身に話し合ってもらいます。僕が決めるわけにはいきませんからね」
「面白い」
 師匠は本当に面白かったらしく、口を大きく開けて笑った。あんなに大きく口を開けたら、羽虫が口に飛び込んでくるんじゃないだろうかと、心配になるほどだった。
「首塚を作るような時代の人たちに、民主の概念が理解できるかなぁ。まあやってみなさい。きっと面白いことになる」
 結果として、僕のアイデアは失敗したが、呪いを鎮めるのはうまく行った。運命を委ねる代表を決めてくれと言ったら、彼らは互いに喧嘩を始めて、最後の一人になるまで勝手に消しあってしまったのだ。
 共通の敵がいなければ、人なんてそんなものだ。