庭の椿が咲いた。前に花を咲かせてから、数千年は経っただろうか。珍しいことだから、庭に人を招くことにした。新しく作った黒竹を編んだ一輪挿しを入れる籠も、誰かに見て欲しかった。
噂によると、この庭の木は人から霊木と呼ばれているらしい。世の果てに咲く幻の椿だと。可愛がっている花のことを、世代を経ても覚えていてくれる人がいるのは、嬉しいことだ。
ここは時の流れが人の世の中とは違っている。私は異界から顔を覗かせて、めぼしい子供を手招きで誘った。子供であることに、深い理由はない。ただ子供の方が長く生きそうだから、選んでいる。椿を見てから過ごす時間が少しでも長くあってくれたほうが嬉しい。
手招きに応じたのは、片孤の少年だった。
親が働きに出ている間、家で退屈していたらしい。構ってもらえない寂しさを口に出すこともできず、孤独に膝を抱えていた。その戸口でひらひらと手を招くものがあったので、親が帰ってきたのだと思って、掴んでしまった。引っ張られ、そこにあるのは、見知らぬ世界と私だったというわけだ。
子供は戸惑い最初は泣いたが、目の前のことを少し不思議な夢だと思ったか、すぐに馴染んだ。やはり子供はこういうところが良い。常識が固まっていないから、知らないものをみても、すぐに馴染むことができる。
そこで私は気まぐれに、彼を弟子にしてしばらく面倒を見た。この場所は人の世とは違った理で動いているから、体感は一月程だったのかもしれないが、現世では長い時間が過ぎていた。私は彼を現世に帰したが、もう親どころか住む国すらなくなっていたあの子供がどうしたのか、私には知る由もない。
測らずもその行方を聞いたのは、椿葉の影再び改まる頃であった。
人の世で、あの子供の名前が国の開祖として伝わっていた。神の国に行って、霊木の枝を持って帰ってきたという逸話が伝わっているのだという。確かに、黒竹の一輪挿しと気に入った椿を一枝帰り際に贈ったような気もする。
定命のものはすぐに死んでしまうが、その名は随分と長く残るものだ。
感慨深く、私は人の営みを覗き込んだ。
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