Adaps_A
2025-04-16 21:37:46
1006文字
Public ダングリのはなし
 

バーカウンターでアレをやるダングリと光のはなし


生身の挑戦者というのは、本当に神出鬼没だ。
さっきまでそこにいたのに、ふと視線を逸らすともういなくなっている。
それでいて、どんなところにも現れるからタチが悪い。

本当に、タチが悪い。
人の気も知らずに少し離れたバーカウンターで飲んでいる、アイツは!

リングの上で見た、射抜くような目線と美しい戦技の数々。
一目惚れするのにそれ以上は必要なかった。
鮮やかで、輝いていて、それでいて獰猛。
ステージの上で見せたそれとは全く別。
気配が薄い。存在が薄い。認識が薄い。
そんな彼が、のんびりとグラスを傾けている。
静かに、蛍光色のドリンクを飲んでいる。
信じがたいほどに蛍光グリーンに発光するドリンクを、飲んでいる。
通りすがる客も二度見するほどの、ドリンクだ。

え、何? あんな光る飲みモンあったか?
シェイカーを振るマスターの方を見る。
マスターは首を振って「エーテルのやつ」とだけ言った。
確かにエーテルで少し光るドリンクはある。
仄かな光が暗闇に映えて、とても綺麗なドリンクだ。
そう、向こうの客が飲んでるやつ。仄かに青く光っている。
そして隣の彼を見る。
明らかに蛍光グリーンに発光している。
彼もまぶしいのか、サングラスをかけてドリンクを飲んでいる。
よく見たらこのサングラス、メーカーとのコラボで出したダンスマングラスじゃないか?
照れくさいやら信じがたいやら、感情がぐちゃぐちゃである。
半ばヤケクソにドリンクを飲み干す。
すると、間髪入れずに目の前にグラスが置かれる。
頼んでない、と顔を上げると、マスターは彼の方を指しながら言う。

「あちらのお客様からです」

彼の方を見る。
ドヤ顔でこちらを見ている。
ドリンクを見る。
信じがたいほどの虹色に発光している。
もう一度彼の方を見る。

「一度やってみたかった」

音もなく隣に寄った彼が、頷いた。
そうか。やってみたかったのか。
気持ちはわかるよ。

「やられたのは、初めてだなァ……
「そうなんだ。お互いに貴重な経験だね」

少しサングラスをずらして、地味な装いの彼は笑った。
確かにそうかもしれない。
だから、少しの葛藤と一緒に、ドリンクを一口飲み込んだ。
味は、前に飲んだのと変わらなかった。

「おれが光らせました」

得意げに笑う彼の笑顔と、ドリンクが眩しかった。
いやウソ、ドリンクの方が眩しかった。
何なんだコレ。