優秀な狩人として生まれついたものが、必ずしも体格に恵まれているわけではありません。獣は強く生まれついた者が強い。しかし俺たちは人ですから。
狩りをするために、必ずしも己の使う必要はないのです。毒を用い、罠を張り、獲物に先回りをすることも、棲家を突き止めて逃げ場所がないところまで追いかけていくこともできます。
そして一撃で獲物を仕留める。その術を人はあらゆる知恵と手段で生み出して、道具として扱ってきた。俺たちの一族も、故郷ではそうして日々の糧を手に入れていました。
一撃を加えれば勝利することができるのであれば、獲物を押さえつける力は必要ない。喉笛に迫る体格も、爪も牙も、手にしている必要はないのです。
今、俺に与えられた力には、異能という名前が付けられています。しかし、私はまだこの力を獲物を仕留める武器にできていません。その術が私には足りません。
異能を使った戦いに慣れたあなたに、アドバイスをいただければと思っています。
ラダからの申し出は手紙という古風な手段を持って届けられた。
外出時はインカムで事足り、ラダ自身がプライベートで必要性を感じていなかったこともあり、情報通信端末を所持していなかったこと。
生前の罪の性質から、職員と個人的にやり取りすることを危惧され、監督責任者の目を通すことが求められていたこと。
手書きのアナログデータであれば、外部への漏洩や改竄、そして複製されるリスクが少ないこと。
あげれば、理由はいくつかあった。それらの理由により、手紙が不死川 薫子に届くまでには長い時間がかかった。手紙を出した本人も通告なく却下されたと思いその存在を忘れたあたりで、二人の試合は実現した。
訓練を重ねて、ラダにも基礎体力がついてきており、戦闘の訓練を始めるにはちょうどいい頃合いだった。
「あなたからのお手紙、受け取りましたわ。解答が遅くなってごめんなさい」
訓練中はスーツを身につけるが、施設内の運動場では試合に相応しく運動着を身につけて、カーディナルの尾羽が如き色をした髪を纏めていた。
「こちらこそ。お時間を頂けたこと、感謝します」
ラダは現世の知識が教えてくれる通りの礼儀正しい振る舞いを見せた。
「一つ、聞いてもいいかしら」
不死川は問いは視線とともに、まっすぐに投げかけられた。やはり彼女に頼んでよかったのだとラダは確信した。強い者は見ればわかる。体格や手にしている武器などで図ることができるものではない。
放たれる覇気。自負が生み出す自信。異能を持つものに対する恐れや嫌悪がない。
「戦いを学ぶなら、女性がいいと思っています。今の俺が膂力で男性に勝るのは難しいでしょう」
「そう。ではなぜ、拳による戦いを選んだのですか」
不死川との戦いは拳によるものを希望していた。ダーリンでも武器の所持は許可されている。女性でも戦いたいと願うのであれば、
「それが最も汎用的だからです。拳を武器とできるなら、俺はいついかなるときでも、体が動く限り勝利を考えることができます」
「なるほど」
不死川は拳と手のひらを胸の前で打ち合わせる。
「よろしくってよ。それでは始めましょうか」
拳を構える。基本的な打ち込みはわかっている。ただ、今までそれは動かないサンドバッグや単調な動きを繰り返すマネキン相手のものだ。不死川は無造作に構えているように見えた。
隙だらけに見える懐に飛び込む。
不死川は避けも反撃もせず、衝撃を殺して受け止めるように一歩引いて半身になった。それでもまだ、間合いの内だ。捕えると覆った瞬間、腕に蛇のように絡みつくものがあった。腕を取られている。
関節が固定され、体を動かせなくなる。
痛みを恐れなければ、まだ動く。骨を外し、体を捻る。足を振り上げ蹴り上げる。腕を捕らえたまま、状態の動きだけでそれを交わすと、柔らかく絡みついてくるようなしなやかさとは裏腹に鋭い蹴りが軸足を払う。
気づけば、宙を見上げていた。
不死川は手を差し出し、ラダの体を助け起こす。肩は骨をはめればすぐに痛みは消えていく。蘇ってから便利な体になった。
「資料によると、生前は男性だったとか」
「はい」
「体の硬さのイメージが抜けていらっしゃらないのね。腕を掴まれたとき、骨を外さなくても抜け出すことができたはずよ。股関節の可動域はもっと広いはず。……まあ!感覚を掴むには実際に動いてみるのが一番ね。さ、どんどんとやっていきましょう!」
再び構え、二人は向き合う。ダーリンと違って、人間は怪我をしたらなかなか治らない。だが不死川に怪我の心配をする必要はなさそうだった。
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