望月 鏡翠
2025-04-15 21:34:26
881文字
Public 日課
 

#1690 「箸台」「四つ相撲」「清楚」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 大通りから一本奥に入ると、幹線道路の喧騒が嘘のような静かな場所になっている。背の高いマンションを壁として、小さな戸建ての家が並ぶ静かな住宅街である。近頃知り合った友人の家はその辺りにあった。
 この辺りに土地を買って家を建てることができるのは、金持ちか古くからこの辺りに住んでいるか、どちらかだ。
 古いながらもしっかりとした作りの家を見て、私はこの家の持ち主は後者なのだろうと想像した。木造の建物の外観は、落ち着いた色になっている。
 もうすぐ到着すると伝えていたからか、家主は玄関で待ち構えていた。駅の方向に向けて歩くところだったのかもしれない。
 私はもてなしの茶と共にリビングに案内された。中は外観から想像するほど、古くはなかった。
 机の上には標本箱のようなものが並べてある。そこには、例のアレが入っていた。
 たくさんの箸台である。焼き物だったり、金属だったり、自然のものを少し形を整えただけであったりするそれは、大きさも形のバリエーションも豊富でコレクション欲を刺激する。
 お茶を入れると、早速自慢のコレクションを見せてくれた。日本で言えば箸台なのだが、西洋で言うとカトラリーを置く場所がそれにあたるのかもしれない。
 私は錫細工ものが好きだった。重さもちょうどいい。木製も柔らかい風合いが楽しめて良い。
「この中で一番のお気に入りはどれなんですか?」
 問いかけると、家主は小鼻を膨らませながら自慢の逸品を見せてくれた。どうやらそれも焼き物でできているらしい。出てきたのは、箸を置くには少しばかり大きい。がっぷりと組み合った四つ相撲を取る力士二人だった。
 釉薬の艶が、汗で濡れた肉体を見事に表現しており、すごくリアルだ。
 工芸品としては素晴らしい。素晴らしいが、ぶつかり合う肉体のリアルすぎる表現のせいで、その腕の間に箸を置くところを想像すると、少々居心地が悪い気がしてくる。
「どうだい?」
「少しばかり、肉感が強すぎるね」
 私は正直に感想を述べた。
 口に入れるものを委ねるのなら、私ならやはりもう少し清楚なデザインがいい。