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望月 鏡翠
2025-04-15 00:14:59
952文字
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日課
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#1689 「橋造り」「乱打」「在廊」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
人は生息域を広げて、もはやこの世に人以外のための場所はほとんど残っていないと言っていい。都会から遠く離れ山奥深くに分け入っても、まだ人の生活する場所がある。
しかし、人を惹きつける景色も産業もない土地は、新しい住人も観光客も惹きつけることなかった。結果そこには、先祖伝来の土地を守りながら細々と暮らしている人しか残らなかった。思うまま拡大していった人間は結果として、利便性とこの世の広さに負けて、身の丈にあった場所に収まったのである。
山奥の僻地に暮らしていたものたちは、人の生活から隔たりすぎてその存在を忘れ去られた隠れ里となってしまった。
そこに生まれ、そこで育ち、おそらくはそこで死んでいくであろう在郷の大工は、人生において最も困難な仕事に携わることになった。橋造りの仕事を任されたのである。
橋を造ることそのものは、人手があれば難しくはない。自分たちで家を建て公共の施設を作り生活してきたのだ。問題は橋を建てる場所であった。
そこは天狗の山である。
文明から隔てられたことで、かつて存在していた神秘が再びその姿を現したのである。人が山の恵みを手にいれることに不自由しているのなら、自分たちの里と道を結んだらどうだというのは、天狗からの申し出だった。
彼らの住居は、里に近いが更に山奥になる。鑿で出鱈目に岩肌を乱打したような、 切り立った荒々しい崖だ。そこに橋をかけようと思ったら、それこそ翼を持っていなければ成り立たない。そこも天狗は申し出ようといった。
つまり大工は、天狗を一時的に部下にして人と彼らをまとめて、仕事をしなければならなくなったのである。
彼らは気位が高い。その居住域で仕事をするだけでも緊張するのに、仕事を命じるなんて、とんでもないことだ。
万が一機嫌を損ねたら、生きて帰ってくることはできないかもしれなかった。
それが今回の仕事を特別にしていたのだ。
しかし、大工の仕事は思ったよりも円滑に進んだ。顔合わせのあとの酒が彼らのお気に召したのである。それは天狗がわざわざ人と誼を交わそうと申し出た理由でもあった。
どうやら天狗は、酒を醸すのに必要な糀が欲しいらしかったのだ。いかに神通の力を持っていても作り出せない唯一は、人の営みの中にあった。
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