つぐころね
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【賽子遊び】万華鏡のみせる白昼夢【企画】

🤝藍苺堂内同名スレのオマケ用
Renew 2025.05.29.

 
 何時か何処かの藍苺堂。
 暖簾と格子戸を潜ると雇われ店主の付喪神がカウンターの向こう側に座りながら、片目に当てた筒を楽しげにクルクルと回している姿がみえる。

 「ぁ、いらっしゃい

 数瞬の後。来客に気付いた店主は、にこやかに手招きをしながら逆の手で。もっていた筒―――年代を感じる真鍮製の万華鏡を差し出しながら。

 「少し、変わった子でね? 気紛れに色んな風景に入り込む幻想、見せてくれるんだって。試して、みる?」

 そう笑って楽しげに目を細め、「試すなら何が見えたか教えてね」と笑った。





 不思議な万華鏡が見せるのは不思議な夢。
 誰にでも起こる事ではないけれど、誰かには起こった夢物語。それを覚えているか――縁が繋がるかは、誰か次第に違いない。きっと忘れてしまっても、問題ないだろう。


付喪神の見た夢:藤棚x星月夜
 ふわり、と鼻腔を擽る甘い香り。
 春の夜風は少し冷たいけれど、それも忘れるくらいに美しい――大きな、大きな、藤の古木。立木仕立てなのか、独り佇む姿の美しさは幻想的すぎて怖さを感じる程で。
 
 「わ、兄さん。綺麗だね」
 「月がないと星が目立つな

 藤越しに星月夜を見上げる二人の声に、つられて空を見上げれば。まるで絵画のように不在の月の代わりというように煌めく星々が視界いっぱいに広がって。つい、「すごい」と誰にいうでもなく言葉が零れる。

 「ね、藤も星も綺麗だ」
 「藍花は、こういう景色を見つけるのが上手だね」

 そ、と寄り添うように右と左に千颯と咲良彩。肩や腕に触れる温もりは心地良くて。比較的顔が近い咲良彩の肩に頭を乗せて、腕に腕を絡ませながら「ボク、えらい?」と子供の時みたいに笑ってみせれば。二人は各々「そうだね」と笑って頭を撫でてくれて。煌めく星に照らされた藤の花は、とてもとても綺麗に見えた。

 ―――なぁんていう、夢をみたのは不思議な万華鏡の景色をみた夜。
 元々不思議な子だったし、そういうオマケもつけてくれたのかなぁ?と、鳴り続ける目覚まし時計を止めながら思うボクだった。

名も知らない幼子とみた黄金に染まる銀杏並木:銀杏並木x狐の嫁入り
 秋、黄色く染まる銀杏並木。
 そこが何処かは分からない。誰かの見た景色かもしれないし、誰かが見たかった景色かもしれない。そんな不思議な夢の中。

 不思議な万華鏡の持ち主である糸切狭の付喪神が、しとしとと降る雨越しにひっそりと顔をだしている太陽を見上げて。(狐の嫁入りだ)と、ぼんやりと思っていれば、いつの間にか視界に紛れていたのは地面につきそうな程に長い黒髪と、小さな肢体。

 誰かは分からない。幾つなのかも、男の子なのか女の子かも全て。
 ただ――悪いモノではないと、誰かが囁いてくるから。

 「狐の嫁入り、だね?」

 そう、少し距離を置いたまま付喪神が声を掛ける。すると聞こえた声につられるように振り返った幼い子は、前髪の隙間から覗いた紫水晶に似た気怠げな瞳の中に、不思議なものを見たような色を混じらせていたけれど。

 「虹、見えるかもね?」

 と空を指差しながら、付喪神は気にせず笑って言って。
 言葉に促されるまま視線を上へと向けた幼子は暫く空を眺めた後、付喪神へと視線を戻し。コクリ、と小さく頷いてみせた。

 名前はおろか声を聞く事もないまま。ほんの少しだけ歩を進めた付喪神と、それを拒否する事なく受け入れた幼子は。二人並んで天気雨の中、銀杏並木に佇み、空を見上げる。振り止まぬ雨の中でも二人の体は濡れない。だけど確かに感じる頬を濡らす感覚は、これが夢の中だと物語っていて。

 付喪神は彼が誰か、は敢えて聞かない事にした。そして幼い子に自分が誰かも、伝えない事にした。

 「「あ、虹」」

 だけど、誰かは分からないまま二人で見上げた虹は、とても綺麗だった。


 ―――そんな夢をみた朝。
 ふらり、と店へと立ち寄り。万華鏡を試していった小さな子の事を思い出しながら。「あの子も虹、見れたかな?」と藍花は小さく笑った。

黒角子羊が遊ぶ夕暮れこやけの砂浜で:浜辺x誰そ彼時
 ザーン、ザザーン

 春夕焼はるゆやけに染まる白い浜辺。
 辺りに誰もいなく、ただ静かに波音だけが鼓膜を揺らす。

 嗚呼、まただ――と付喪神は思う。
 ぼんやりと霞む茜色の空と、濃い青に染まる海の色を眺めながら、是は夢だと、思った所で気付いた人影ひとつ。

 それはまだ冷たいはずの波打ち際で遊ぶ小さな影。
 ふわりと沸いた好奇心のまま、歩み寄り。「ねぇ」と声を掛ければ。声につられ、振り返ったのは蒼色と紅色の瞳が目を引く、黒髪の幼い子。黒い羊のような角もみえるけれど自分もヒトでないので特には気にはならない。ただ、可愛い子だなぁと、だけ。

 「冷たく、ない?」
 「あれ?そういえば冷たくないかも?」

 きょとりとした顔から破顔する仕草は子供らしくて、可愛らしくて。一歩、二歩と足先を砂で埋めながら歩み寄る。(嗚呼、ボクも素足だ)そう頭に過ったけれど、「ふしぎー!」と笑う愛らしさに霞んでしまって。「そっか」と笑って、ふたりで並んで沈みゆく太陽を眺める。

 パシャリ、パシャリ――と波を蹴り、楽しげに遊ぶ姿を真似をして波を蹴る。ちょっと楽しい。

 「楽しいね」と笑う顔に頷きながら「楽しいね」と答えて、一緒に笑って。誰そ彼時の空をみながら歌う、夕焼けこやけ。
 歌に合わせて小さな手と手を繋ぎ、波打ち際を歩き出す。烏のアノ子が心配する前に送り届けないとなぁと、夢の中で思う自分に小さく笑えた。

 「「からすといっしょに、かえりましょ~♪」」

竜胆の佇む雪原:雪原x誰そ彼時
 ―――シン、と静寂だけが広がる雪原。

 耳を澄ませば聞こえるのは風の音に密やかに紛れる吐息がふたつ。
 唇から零れた吐息は真っ白で、目に見える形で寒さを誇示していて。

 なのに何故か寒さは感じなくて。そこで漸く夢だと気付く。

 雪雲の切れ間。冬特有の澄み切った空を染める黄金色の夕陽を覆うように追いかける紫から濃青へと変わる空は、とても綺麗だけれども。きっと、あっという間に冬茜を夜へと変えてしまう、そんな短な時間。

 なんとなく視線だけを横というか斜め上へとずらせば、夕暮れのグラデーションの一部にも似た色を持つ友人の横顔。彼はただ、黙って夕陽に反射し煌めく雪原をまっすぐと見つめていて。ほんのりと橙に染まる横顔が何を考えているのか、ボクには分からないけれど。「綺麗、だねぇ」そう呟けば、短く「そやな」とだけ返ってくる。

 きっと視線は交わる事もない。言葉も次に続く事はないと思うけれど。なんとなく、それが『この場における正解』な気がして。触れそうで触れない距離で、ふたり佇み。雪原が闇色に染まる様子を眺めていた。

竜胆と尾花色の海で見上げる茜雲:ススキ畑x誰そ彼時
 一面に広がる黄金色まじりの尾花色は、ふっくらと膨ら無む芒の穂は狐の尻尾みたいだと思う。ただ少しだけ惜しいのは、しとしとと止みそうで止まない秋時雨のせいで、せっかくのふかふかが濡れ鼠のようになっている事。ちょっと可哀想なくらい。
 だったけれど――

 雨、雨、ふれふれ...♪

 芒と共に濡れ鼠になるのも趣がある気がして。濡れる事を気にせず鼻歌まじりに歩きだした所で感じた視線に振り返えれば。そこに在った、雲の切れ間。茜色のスポットライトを浴びる竜胆色の髪をした――ボクを『藍』と呼ぶ彼の赤い瞳と視線が交わって。

 「お迎え?」とボクが笑うと、「かもしれませんね?」と彼が意味ありげな笑顔と共に手を差し出されたから。何も考えずに近づいて、手に指先を乗せて二人並んで空を見上げる。

 そこには、さっきまで濡れていたはずの芒の穂が、すっかり乾いて、ふわふわで。風に揺らされる姿は楽しそうにすら見えて。それは夕焼けの茜色に染まる黄金色の海のようで。

 「「綺麗」ですね」

 さわさわと騒めく芒の海の中。声が重なり、笑みも重なる。きっと、これも夢に違いないけれど、綺麗なものを共有できる喜びに夢も現も変わりないのだなぁ...と、思って。そして、なんとなく。もう少しだけ、この景色を一緒に見ていたいなぁと、誰にでもなくコッソリ願ってみた。

遠い白磁と夜の海辺:海辺x月夜
 吸い込まれそうな深い闇をも飲み込む夜の海、凪いだ水面に沈む大きな月。だけれど天をどれだけ探しても月はなく、満点の星々だけが静かに煌めいている。

 嗚呼、また夢付喪神は、ぼんやりとする思考で思う。
 今日の夢は、とても夢らしい不可思議な場所だとも、思う。

 そんな金波銀波が奏でる潮騒だけが耳に響く中、月と見紛う白磁をみつける。
 真っ黒な海の上、白き髪に煌めく星々を隠す白磁の媛が静かに浮かぶ姿は神秘的そのもの。嗚呼、綺麗だ――と思う。だけど、その後ろ姿に胸が締め付けられる。なのに声は出ず名を呼びたくとも、はくはくと息が零れるだけ。

 手を、伸ばしてもいいのだろうか。そう、葛藤する心を置き去りに自分の指先は白磁の媛へと伸びていく。爪先は砂に沈みながらも前へと進む。さくり、さくり、と。だけれど何故か近付けなくて、もどかしさだけを募らせる。

 とわくん、そう名を呼び。白魚みたいな、ほっそりとした手を掴んで、自分よりも大きなその身を引き寄せたい。いつものように『お姉さま』と花が綻ぶような笑顔をみせてほしい。嗚呼、なんてボクは身勝手なんだろう。そう思うけれど、伸ばした手を諦める事はできなくて―――――

.. .

 「お姉さま?」

 夢から、醒めた。目の前にはボクを覗き込む白磁の媛の不思議そうな顔があって。嗚呼、夢だったと、ほっとして。そのほっそりとした頬に手を伸ばし「おはよ、とわくん」と声を掛ければ。

 「おはようございます、お姉さま」

 あの夢の中で見たかった、花の綻ぶような笑顔で彼女は笑った。


 ※

 人が寝ている事の多い、太陽もまだ一欠片しか顔を出していないような彼は誰時。

 藍蘭堂のカウンターの上。桐箱に仕舞われた万華鏡が、キラリと覗き穴の硝子を光らせる。
 それは楽しげにもみえるし、懐かしそうにもみえる。まだ、ただの無機物である彼?彼女?は、何を想って、こんな遊びをしているのかは誰にも分からない。店主である付喪神なら何か気付くかもしれないけれど、きっと彼女は語らない。

 ただ、なんとなく。「そうして欲しいのかなぁと思って」と笑いながら。今日とて誰かに万華鏡を差し出すのだろう。彼女にとって、誰かにとって、その景色は美しく、懐かしく、愛おしいものな気がするからと呟いた言葉も、きっと誰にも届かない。

~終?~
独り言0人目:藍花
 丁度良く藤の花を引けたので、るんるんと家主の孫ーずと夜のお散歩をした夢を。
 でも夢は夢なので。普段よりも素直で子供っぽく、を心掛けてみたり。
 藤の木を立木仕立てにしたのは、その方が幻想的な気がしたからなんだけど正解だった気がする?

1人目:寺山・夏くん(h03127)
 寺山少年は星詠みという事だったので、敢えての見知らぬ者同士のまま、朝になれば忘れてるような不思議な夢の欠片。そんな風にしてみたり。
 あくまで白昼夢。本当に在ったかは関係なく、覚えてすらいなくても問題ない。そんな雰囲気が伝わるといいなぁ。
 普段より3人称っぽくしてみたけど、これはこれで有りかなぁ(うーん)

2人目:神賀崎・刹兎くん(h00485)
 お姉さんからのご縁で覗きに来てくれた可愛い子。夏くんと同じく、名前を知らない前提だったので。
 知らない同士のまま、夕焼けに染まる波打ち際で遊んで、お散歩をして、帰るまでのシーンにしてみました。
 可愛らしいお子さんだったので、可愛く書けてたらいいなぁ。

3人目:竜胆・雪之進くん(h01601)(付喪神の当たり枠譲渡品)
 静寂の広がる夕焼けの雪原、という情景に。静寂と寒さを全面に出してみたくなった小噺。
 初のお友達との企画小噺だったから、お喋りさせたいなぁ~とも思ったのだけれど。敢えて選んだ『ト書でのみ会話』は正解だった気がする。雰囲気に全振りしたけど、とっても満足な小噺になりました。

4人目:竜胆・鏡之助くん(h02616)(付喪神の当たり枠譲渡品)
 彼に続いてボクもススキ畑を当てていたので、誰そ彼時+さざめ雨の合わせ技にしたら想像以上に綺麗に纏められた感じに。1つ前の彼と同じく、状況描写優先。雲の切れ間からサァァと落ちてくる夕焼け、それはきっと綺麗だろうなぁと想像しながら書いた小噺になりました。手を握るのではなく、掌に指先を乗せる。二人のこの感じがなんとなく好きなので、また使わせてもらいました(てへ)

5人目:白・とわくん(h02033)(付喪神の当たり枠譲渡品)
 他に書かせてもらった方々とは、ちょっと毛色の違う夢と相成りました
 "夜の海"は彼女にとって、とても意味のあるものだと思っているのと。行くのなら、夢ではなく現実でと思ってしまったの。そして「真っ暗の海に浮かぶ、月のような幻想的な無音の白磁』みたいなイメージが浮かんじゃったので、仕方ないよね?的な? 書きたかったんだもの(。ノノ)


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√Eden 藍花 / 藍苺堂