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望月 鏡翠
2025-04-13 22:18:55
1128文字
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日課
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#1687 「肉襦袢」「寝腫れる」「口角」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
食卓に並んだごちそうを見て、彼女は一瞬目を輝かせたあと、すぐに顔を背けてしかめ面になってしまった。勿体無いからしまっておいてと言って、日持ちしなさそうな数品だけ食べてあとは手をつけずに残してしまった。
好き嫌いはないはずだ。もちろん、アレルギーだってない。それなのに、どうしたのだろう。体調が悪いのかそれとも僕が何か失敗をして、知らないうちに彼女の機嫌を損ねてしまったのだろうか。
僕は恋人のために、最大限できることをしている。不足があるなら教えて欲しかった。彼女の、全てが十分足りているという答えは、いつだって僕を困惑させた。足りているのに、どうしてそんな顔をするのか。足りているのに、どうしてお腹が鳴るのか。そしてどうして食べてくれないのか。
恋人になって初めて危機が訪れたことを感じていた。
むしろ今までが順調すぎたのだ。その順調さに甘えていたのかもしれない。人が二人いたら、様々なことが起こる物だ。そして、人は気づけば変化している。その組み合わせである関係も、様々に変化していくのが当たり前のことだ。
彼女ときちんと話し合い、もう一度他人同士が歩み寄るが如く、近づく必要がある。
彼女は答えを渋っていた。しかし僕のしつこさに負けて、教えてくれた。
「太っちゃう」
それが答えであることに気づかずに、僕は何度か同じ質問を繰り返し、彼女を拗ねさせるとう愚行を犯した。
太っている。
素晴らしいことだ。柔らかく豊かで、生きるパワーに満ちている。私はそういう人の方が好きだった。
彼女はどうやら、その部分が理解できていないらしかった。
寝晴れた顔や、足のむくみや、お腹に入っている筋が認められないのだ。
肉襦袢を脱ぎ捨てて、筋肉と骨と皮になることが彼女の望みだった。
そんなことは許し難い。私と彼女の見解は違っていた。美しさに対する価値観の違いである。彼女には豊かさという絶対基準が存在しないのだ。
僕は困惑し、どうにか彼女を説得しようとした。
口角にできるえくぼやズボンの上に乗る肉の魅力を彼女に伝えるべきだと思った。
彼女は僕の作る食事のおいしさが、いかに美容と健康に害であるのかを力説した。そして僕の豊かさに対する考えには、理解を示さなかった。
話し合いは難航し、議論は平行線を辿った。
これを終わらせるためには、誰にも言ったことがない秘密を明かす必要があるのかもしれない。
僕は中世から来た。記憶と肉体を保ったまま現代に蘇った転生者である。だから美醜の感覚はどうしたって当時のまま変えられないのだ。
彼女もきっと飢餓と貧困を経験すれば、僕がふくよかな人が好きだって、理解してもらえると思うのだけど。
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