夜明 奈央
2025-04-13 06:53:27
5878文字
Public その他の小説
 

6年同室組が"出られない部屋"に閉じ込められた!

出られない部屋におけるrkrnのお約束の扱い ※カプ要素なし
2025年4月11日初出

 食満留三郎と善法寺伊作は、忍術学園の廊下から自室に入って扉を閉めただけだ。しかし、目の前には自室とは異なる見慣れない空間が広がっている。壁も床も天井も真っ白、家具も窓さえない。部屋を間違えたにしても、忍術学園にこんな部屋があったかと首を傾げたくなるような部屋だった。すぐに今入ってきたばかりの扉を開けて廊下に戻ろうとしたが、扉はぴくりとも動かなかった。
「なんだあ? ここは」
「なんだろうね」
 留三郎と伊作は呑気に会話しながらも、周囲に警戒を巡らせた。何かの罠かもしれない。他に人の気配は感じないが、手練の忍者であれば2人では気づけない可能性もある。ぐるりと全体に視線を巡らせると、やがて2人の視線は正面の天井付近に掲げられた謎の額縁に釘付けにされた。
「手を繋いで『ムーン・プリズムパワー! メイクアップ!』と叫ばないと出られない部屋」
 部屋と呼ぶのは烏滸がましい四角い箱のような空間で、それだけが異質に主張していた。先程入ってきたはずの扉はいつの間にか壁と同化して消えている。
「なんだかわからないけど、とりあえずあれ、やってみる?」
「出られない部屋」という名称の通り、出るには骨が折れそうな空間だ。プリ○ュアとセー○ームーンを足して2で割ったような謎の指示は、全くの不発に終わったとしても特段害はない。ひとまず試してみるべきだろう。
 理屈では理解できるが、思春期真っ盛りの15歳には些か恥ずかしい指示だった。幼稚園児か、逆にもっと歳を重ねていれば色々諦めもついてすんなり実行できたかもしれない。
「いや、待て、その前にひとつ試してみたいことがある」
 どうにも気恥ずかしさが勝った留三郎は、手を繋ごうと差し出した伊作の手を無視して、壁に対峙した。そして両手で大きく空間を掻き分けるような仕草をする。
 が、何も起こらず、手を大きく振り回しただけで終わった。
……留三郎、何してるの?」
「おっかしいな。いつもならこうやってバリっとやれば他のとこに繋がるんだけどな」
「バリっと?」
「ほら、落・乱のお約束のあれだよ。解説する時にいつもやってるやつ」
「お約束? 何を言ってるの?」
「えっ?」
「えっ?」
 お互いに顔を見合わせた。しばらく沈黙が流れる。
「いや、お前だってやったことあんだろ……? 低学年がわちゃわちゃ馬鹿なこと言ってる時に他の場所から空間繋いで解説して、『後でここ貼っといてくれ』ってやつ」
「もしかして突然こんなところに放り込まれて気が動転してる? 馬鹿なこと言ってるのは留三郎の方だよ。そんな空間転移みたいなこと、できるわけないじゃない」
「普通はそうなんだが、落・乱ではできるっていうか」
「できないよ。どこ○もドアじゃないんだから」
「いや、でも……
「手を繋いであの台詞叫ぶのがそんなに嫌? いいじゃん、やろうよあれくらい」
 伊作は至って真剣な顔をしている。留三郎本人も、だんだんと自分の常識がおかしかったのかと不安になり始める。部屋の空気は不穏なものへと変わっていった。

◇ ◇ ◇

 潮江文次郎と立花仙蔵が気づいた時には、見たこともない謎の空間にいた。天井も壁も床も全面真っ白で、窓も扉もない。自分たちがどうやってここに入ったのかも不思議なくらいだった。六年は組の2人が閉じ込められているのとほとんど同じような空間だ。
 違うのは、正面に掲げられた額縁に書かれた文章。
「ジュンコとキスしないと出られない部屋」
 指令をこなさせる気はあるのか、ジュンコーー伊賀崎孫兵の飼っているペットの毒蛇らしきものも部屋の隅を這い回っている。ただし、閉じ込められた2人には毒蛇の種類はともかく個体識別まではできないため、確実にジュンコであると断言はできない。おそらくそうだろう、という程度だ。毒蛇であることは間違いないので、生還するためにはまずあれに噛まれないようにするのが最低条件だ。
「ふむ、ジュンコとのキスか。部位の指定はないようだから巧くやれば無傷で済ませられるだろうが……
 文章を眺めながら仙蔵が呟く。
「わざわざそんな危険な真似しなくても、バリっとやればいけるんじゃないのか?」
「は? バリっと?」
 文次郎が投げやりに言うと、仙蔵は怪訝そうに問い返した。
「ほら、いつもやってんだろ。壁破って解説するやつ」
「なんだそれは、頭がおかしくなったのか?」
……お前、また俺のこと揶揄おうってか? 緊急事態なんだ。今はそれどころじゃない」
「お前こそ何を言ってるんだ。忍びたる者、こういう時こそ冷静さを欠いてはならん。それをなんだ、『バリっと』って。ふざけてるのはお前の方だろう。そんな暇があったらジュンコを安全に捕まえる方法でも考えたらどうだ?」
 仙蔵は日頃から平然とした顔で冗談を口にする男である。特に文次郎を揶揄うのを好んでいるようで、学園生活で最も被害に遭っているのは自分だろうとの自負があった。長い付き合いからおそらくこれもいつもの冗談だろうとは思うが、今は緊急事態である。冗談に付き合っている場合ではない。
「とりあえず俺はジュンコとのキスの前にこっちを試すぜ」
 文次郎は立ち上がり、手近な壁に向かった。いつものように壁に穴をぶち開けようとしたが、仙蔵に片手を掴まれてそれは叶わなかった。
「何すんだよ」
「それはこっちの台詞だ」
「だから壁破ろうと」
「そんなことできないと言っただろう」
「せめて試してからでも」
 2人は再び睨み合う。先に折れたのはいつも通り文次郎の方だった。
「はいはい、わかったよ。ジュンコを安全に捕まえる方法ってか? 殺していいならどうにでもできそうだが、お前はなんか使えそうな道具とか持ってんのか?」
「文次郎、ようやくわかってくれたようだな。では頑張ってくれ」
 途端、仙蔵は壁をバリっと破り、人1人が通れる程の大穴を開けた。そのまま悠然と穴を潜ろうとするので、文次郎は慌ててそれを押し留めた。
「やっぱりわかってんじゃねぇかっ!」
「ん? そりゃ、落・乱のお約束だからな。そこ貼っといてくれるか」
「貼るかよ俺も連れてけ」
 2人が揉み合っているうちに、留三郎と伊作がこちらをじっと見つめていることに気がついた。どうやら穴の向こう側にいたらしい。
「なんだ? お前ら」
「どうかしたのか?」
 一時休戦した文次郎と仙蔵がそれぞれ尋ねると、留三郎は急に覇気を取り戻して叫んだ。
「そう! これだよこれ! バリっとやるやつ!!」

◇ ◇ ◇

 中在家長次と七松小平太は気がつけば謎の部屋にいた。は組とい組が閉じ込められていたのと大体同じような部屋である。ただし正面に掲げられた額縁に書かれているのは「致死量の毒を飲まないと出られない部屋」
 おそらく毒なのだろう、謎の液体が入った小瓶もある。それも2本。“どちらか”との指定はないから、飲んだ者だけが出られるという解釈もできる。
「流石にこの指示には従えないな」
 小平太が仁王立ちで腕を組み、声を張り上げる。
「その通り」
 長次も同意を示したため、早速指示に従う以外の脱出方法を探し始める。しかし壁も床も天井もつるりとして何の引っ掛かりもなく、どこかが開きそうな気配はない。探索を進めるにつれて、脱出手段など存在しないのかもしれないと嫌な想像が浮かび始める。しかし指示をこなせば出られるというのであれば、ここから出る手段が存在しないわけではないはずだ。
 壁を叩いてみるが音は重く響かず、破壊は難しそうだ。持っていた苦無を壁に突き刺してみたが、傷ひとつつかずにガキンと弾かれてしまった。壁の他の場所や床、天井と順に試してみるが、結果は芳しくない。残念ながら火器の類は持ち合わせておらず、試すこともできない。破壊できそうな場所はないかとあちこちを叩いたり引っ張ったりしているうちに、小平太はあることに思い至った。
「これ、いつもみたいにぶち破れないのか?」
「簡単には壊せそうにない」
「そうじゃなくてだな」
 言うと同時、小平太が両手でこじ開けるような仕草をすると、そこには簡単に大穴が開いた。
「ほら、いけると思ったんだ。落・乱のお約束だからな!」
 覗き込むと、穴の先にはここと同じような真っ白の空間が続いている。
「あっちも同じじゃないのか」
「そうかもしれんが、確かめてみないとわからないだろう。いけいけどんどーん!」
 意気揚々と穴を潜る小平太の後を長次もひっそりと続いた。その先は今までいた部屋とほとんど同じだが、額縁に書かれているのは「ジュンコとキスしないと出られない部屋」である。
「さっきの部屋よりは簡単な課題だな」
 部屋に毒蛇のジュンコが這い回っていることに気づいて警戒するが、毒を煽るよりはどうにかなりそうだ。
「小平太、あっち」
 長次が指差す先には入ってきたのと同じような大穴が空いている。ついでに何事か言い争っているような声もする。覗いてみると、こちらを向いていた伊作がすぐに小平太と長次に気がついた。
「小平太! 長次! 君たちもいたんだね」
 声に気づいて振り返ったのは仙蔵だ。留三郎と文次郎は相も変わらず睨み合っている。どうやらみんな揃っているらしい。再度大穴を潜ると、こちらにも額縁の指示があった。書かれているのは「手を繋いで『ムーン・プリズムパワー! メイクアップ!』と叫ばないと出られない部屋」である。他2つに比べればあまりにも容易だ。
「なんで集まっているんだ? こんな簡単な課題、さっさとこなせばいいだろう」
「あはは、それもそうなんだけど」
 小平太の指摘は最もである。伊作と仙蔵が留三郎と文次郎に呆れた視線を向けるのでなんとなく事情を察する。いつものことといえばいつものことだが、こんな緊急事態において呑気なものである。
「お前たちの部屋はどんな課題だったんだ?」
 仙蔵の問いに、小平太が答える。
「『致死量の毒を飲まないと出られない部屋』だな」
「それはまた……
「たぶん半数致死量だから絶対死ぬとは言いきれないけど……
 仙蔵と伊作が慰めるようにコメントした。
「とりあえず話はここから出てからにしよう。おい、文次郎、留三郎、いつまで喧嘩してるつもりだ。さっさとやるぞ」
 仙蔵が声を掛けると、2人はようやく言い争いをやめた。
「えっやるのか、これを」
「冗談じゃないぞ」
 文次郎と留三郎が嫌そうに顔を引き攣らせる。
「止むを得んだろう」
「さっきもだけど、この台詞叫ぶのそんなに嫌?」
「手を繋ぐのが嫌ならお前たちが隣にならないくらいの配慮はしてやるぞ」
 仙蔵、伊作、小平太と順に説得され、長次にも諦めろと首肯される。
「でも、これは流石に……
「そうだ。せめてもうちょっと他の当てがないか探してからでも」
 文次郎と留三郎がなおも逃れようとする。
「お前たちはこんな時ばかり一致団結しおって……
「また槍でも降らなきゃいいがな」
 仙蔵と小平太が呆れ返る。
「もう、2人のことは放っておいて僕たちだけでやろうよ」
「もそ、これで本当に出れるかはわからない」
 伊作と長次の指摘は最もである。「手を繋ぐ」という指示がある以上1人残されては課題をこなす手段がなくなるが、2人残っていればそれも問題あるまい。
「そうするか」
「ほら、みんな手を繋いで」
 仙蔵が賛同すると、伊作が手早く皆を集めて4人で輪になり、それぞれ両隣と手を繋いだ。
「お、おい。お前ら、本当に俺たちを置いていく気か!?」
 留三郎が焦って伊作の肩を掴む。
「入りたいなら早くしなよ」
「文次郎、お前はいいのか」
 強引に促され、結局6人でぐるりと輪になって手を繋ぐ。
「みんな、準備はいいか?『せーの』で叫ぶんだぞ」
 仙蔵の確認に、各々頷きあう。
「せーの」
「ムーン・プリズムパワー! メイクアップ!」
 6人の声が重なる。台詞を唱え終わると同時、どこからともなく謎の白い光が6人を包み込む。その数秒後、光は徐々に収まり、光が完全に消えた時には伊作、仙蔵、長次、小平太の姿が部屋から消えていた。
「なんでだ!?」
「おい、あいつらどこ行ったんだ!?」
 留三郎と文次郎は部屋に取り残されていた。「なんで!?」などと言っているが、双方理由は察していた。気恥ずかしさが勝り、「叫ぶ」という条件をクリアしていなかったのだ。ほとんど小声だったと言っていい。相手がどうだったかはわからないが、自分がそうなのだからおそらく相手もそうだろうと予想はつく。
「おい、さっさとやり直すぞ」
「はあ!? 誰がお前と手なんか繋ぐかよ」
「恨むなら素直に課題をこなさなかった自分を恨め」
 ぎゃぁぎゃぁとまたも言い争いが始まる。が、結局ここから出る当てなど課題以外にない。ない、と思っていたが、文次郎が突然何かに気づいた。
「おい、反対側はどうなってるんだ?」
 文次郎が大穴の正面の壁を指差す。
「反対側?」
 留三郎も疑問符を浮かべながらその方向に視線を向けた。そちらの壁は真っ新で傷ひとつなく、最初と同じ状態を保っている。最初に留三郎が穴を開けようとして、何故だか上手くいかなかった壁だ。
「反対って言っても、穴は直接隣に繋がるわけじゃないから、どこから空けても同じじゃないのか?」
「そうかもしれんが、違うかもしれんだろう。出られないまでも、もっと容易な課題に当たる可能性はある」
 最もな指摘である。ごくり、と生唾を飲み込み、反対側の壁に対峙した。両手でこじ開けると、今度は簡単に穴が空いた。
「ほら空いた!」
「文次郎にしてはよくやったじゃないか」
「バカタレ、褒める時くらい素直に褒めろ」
 突然差した光明に嬉々として穴を潜る。そこで見たものは「致死量の毒を飲まないと出られない部屋」の文字。長次と小平太がいた部屋である。よく見れば、隣の壁には似たような大穴が空いている。覗き込むと「ジュンコとキスしないと出られない部屋」と書かれた額縁が見える。文次郎と仙蔵がいた部屋である。当然そこにも穴が空いているが、繋がるのは留三郎と伊作が最初にいた部屋だ。
 2人は無言で潜ったばかりの大穴を再度潜り、元の部屋に戻った。今度は無駄な抵抗はせず、しっかりと固く手を繋ぐ。
「せーの」
「「ムーン・プリズムパワー! メイクアップ!」」
 無事忍術学園に戻れた。


ご感想喜びます / 転載・AI学習禁止