ほうじゅ
2025-04-13 01:40:03
1928文字
Public ファルルのおはなし
 

【SQ5】とある日のファルル 〜オレンジりんごはいちご味〜

ウソをつくファルルのおはなし。

 春の陽ざしがうららかな今日は、〝えいぷりるふーる〟というお祭りの日らしく、ウソをついても良い日だそうです。
 ファルルもウソをついてみようと、さっそく考えてみました。
 人を悲しませるウソはダメです。人を怒らせるウソもダメです。せっかくのお祭りの日なのですから、楽しいウソでなくってはいけません。
 でも、普通のウソでもつまらない気がします。楽しいけれど、ちょっとびっくりして、わくわくするような、そんなウソ。ぴったりのウソはないでしょうか?
「ほら、今日はどれにするんだ?」
 ウソのことを考えている内に、いつもの果物屋さんに辿り着いて、手を繋いだユウトが聞いてきました。果物屋さんのお兄さんも、ファルルを見てにっこり笑います。
「よう、りんごのお嬢ちゃん! 今日もとっておきの月りんごが盛り沢山だぞ」
「りんごっ」
 お兄さんの言うように、店先に並べられた月りんごは、それはそれは素晴らしいりんごばかりでした。つやつやの表皮に、芳しい香り、両手で持つのにぴったりな程よい大きさ……
 ファルルはわくわくと駆け寄り、いつものようにりんごを選びかけましたが、あっと思い留まります。そうです、今日はウソをついても良い日なのです。
 ファルルはりんごを選ぶフリをして、少しきょろきょろしてみます。そうして、楽しいウソのもとを見つけて、思わずにやりと笑いました。
「ふぁるる、りんご、えらぶする。ふぁるる、りんご、……これするゆった!」
「え?」
 ファルルが元気に選び取ったのは、つやつやの表皮に、芳しい香りの、両手で持つのにぴったりな、橙色をしたまん丸のオレンジでした。すぐさま、ユウトが訝しげに声をあげます。
「りんご……って、それ、オレンジだぞ?」
「んー、ゆうと、ちがうゆう。だいだい、くだもの、りんごゆった」
 ファルルはくるりと振り返り、ふふんと鼻を鳴らします。きょとんとしているユウトの前に、両手で持ったオレンジを掲げて、意気揚々と話し始めます。
「くだもの、おれんじ、ちがうゆう。くだもの、『おれんじりんご』ゆう。おれんじ、いっしょ、まちがうなる。ぷろ、ちがい、わかるなる。ふぁるる、ぷろ、わかるなる!おれんじりんご、りんご、ともだち。おれんじりんご、とくべつゆった!」
「あっ、えっ……そ、そうなのか?」
 ファルルの説明に、ユウトは驚きながらも納得しています。その様子に、ファルルはにやにやが止まりません。
 本当の本当は、『オレンジりんご』なんて果物はありません。いえ、もしかすると、ふしぎでいっぱいの世界樹のどこかには、そんな果物もあるのかもしれません。けれど、今ファルルが持っているのは、正真正銘ただのオレンジです。りんごの友達だなんて、そんなことはまったくない、本物のただのオレンジです。
 けれど、今日はウソをつくお祭りです。オレンジをりんごだと言っても、許されてしまう日なのです。
「ふぁるる、りんご、かうゆった。おれんじりんご、おかいあげ!」
 オレンジを頭の上まで持ち上げながら、果物屋さんのお兄さんに、ファルルはばっちんとウインクをします。途端にお兄さんは、さっきのファルルとおんなじようにニヤリと笑ってみせたあと、威勢よく話し始めました。
「さっすがりんごのお嬢ちゃんだあ! そうっ、このオレンジりんごは、今日しか収穫できない、特別なりんごでなあ。お嬢ちゃんくらいのプロでなきゃ、ただのオレンジと間違っちまうんだなぁ」
「んっ。ふぁるる、ぷろゆったっ!」
「へぇ。りんごにも、色々あるんだな……
 お兄さんの口車に、ユウトが真面目顔で呟きます。ファルルはすっかり有頂天です。
 買ってもらったオレンジを両手で持って、ファルルはぴょこぴょこ飛び跳ねます。そのまま、くるくると走り回り、おかしくて笑ってしまいます。
「おれんじ、りんご、ぷろゆったっ! とくべつりんご、おれんじりんごっ」
「味は、りんごの味なのか?」
「ん。おれんじりんご、あじ、いちごゆう。ゆうと、おやつ、いっしょたべる!」
「ああ。……ちょっと楽しみだな」
 すっかりオレンジりんごを信じてしまったらしいユウトに、ファルルはまたまた笑ってしまいます。
 おやつの時間、いちごの味がすると思って、オレンジりんごを食べたユウトは、どんな顔をするのでしょう。ユウトのことだから、「変わった味だな」なんて言いかねません。こんなに簡単にウソを信じてしまうなんて、ちょっぴり、心配にもなります。
 でも、いつもはウソなんてつかないので、本当に、今日だけの特別です。
 それに、広い世界のどこかには、そんなふしぎな果物も、本当に、あるかもしれませんからね!