えぬを
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レカペ2504公開バキサム小話

Xでポストしたネタを小話にしました
『バーンズ候補選挙期間中、ハニトラ仕掛けられたり、あらぬ誤解受ける写真撮られたら困るよねって補佐達が話してたら、バッキ自身が「じゃあカモフラージュ用の恋人作って公にするか」って言い出すの
え?誰に頼むの?って補佐達が心配するんだけど、まぁキャップですよね』

過去から現在に至るまで、ジェームズ・ブキャナン・バーンズという青年は、スミソニアン博物館に展示された情報よりもなお濃い人生を送っている。文字で綴るに到底足りず、青年の過去をアメリカ国民の半数以上は知っているだろう。それと同時、青年は容姿に優れていて、そういった意味でも何かと話題にのぼる人物である。ジョークを込めて、〝過去などどうでも良いから青年とワンナイトをしてみたい〟、などという女性のインタビューさえも頻々にある。
さて、そんな青年が、下院議員候補として立候補し、世を騒がせるに至っているのだが、青年の補佐を務める数人が恐れているのはゴシップである。
ジェームズ・ブキャナン・バーンズという人物は大層な色男で、スミソニアン博物館以外のウェブヒストリーのページには、ブルックリン時代の華やかな恋の遍歴までも記載されている。数々の偉人の色恋が教科書に掲載されることもあるが、その真偽の程はいかほどか、と本人に聞くことができるのは、ジェームズ・ブキャナン・バーンズだけであろう。
とはいえ補佐達からすれば、それはあくまで青年の表面的な評価や過剰なラベリングであり、その実悲劇的な過去を持ちながらも、初代キャプテン・アメリカの親友でもあり、頼れるサイドキックでもある。
多大な功績は揺るがない真実であり、それは青年の人となりを言い表すことのできる証左だ。
が、何しろ青年の美貌は、はるか昔から変わらず、多様性の昨今、個性を重んじる向きがあろうとも、誰もが認めるハンサムな相貌は、時として不利となる場合もある。この場合は、女性問題、もしくは男性問題などの、ゴシップの的になりやすいという点において。
「決まった相手はいないが」
尊敬するバーンズ候補の言を信じるのならばそうなのだろう。だが、油断はできないのだ。今この時期に、スキャダルは避けたい、という、ミーティングでの補佐達の総意に、提案をしたのはバーンズ候補本人だった。
「つまり、ハニートラップを仕掛けられたとして、俺にその気があろうがなかろうが、そのワンシーンだけを切り抜きされた記事が出ようものなら俺は失墜するってことだろう?なら、カモフラージュ用の恋人作って公にするか」
青天の霹靂である。補佐達全員が困惑した。
〝公にしても問題なく、こちらの事情を汲んで立ち回れるような人物がどこに?〟と、補佐の一人が言う。
「公にしても問題なくて、こっちの事情を汲んで立ち回れて、且つ、俺のパートナーとして不自然じゃなく、失墜どころか俺の支持率も急騰して天にまでのぼるようなやつに心当たりがある」
数人の補佐がそれが誰であるかに気づき、まさか、と期待に頬を紅潮させた。
バーンズ候補が片頬で笑った。



「で、なんで俺?」
「こんなクリーンなイメージの恋人他にいないだろ。補佐達は拍手大喝采だったぞ」
待ち合わせの場所に着いた時点で、サムは嫌な予感がしたのだ。バッキーの顔が、他所行き用の笑顔で固まっていたから。
バッキーが下院議員として立候補している間、サムは極力バッキーとの接触を避けていた。互いの立場を慮るが故だったが、バッキーはそれを良しとせず、可能な限り時間を作り、互いのセーフハウスで過ごすことを心がけているようだった。
そんな中、敢えて外で会うことを提案してきたバッキーに、急ぎの用事があるのかと駆けつけてみれば、わかりやすい作り笑顔で迎えられ、親しげに肩などを組んでくるものだから、サムは早々に察しがついた。
「なんだよ、パパラッチにでも追われてんのか?」
「いや、そうじゃない……と言うのは語弊があるか。パパラッチはその辺にいる。それにも絡んでくるんだが、サム、今日から俺の恋人になってくれないか」
……はぁ?」
バッキーは現時点に至るまでの経緯をサムに話した。
「補佐官達は誰も止めなかったのか……
「両手挙げて大歓迎だったぞ」
『〝親密げなツーショット撮られてきてくださいね〟って言われた』などと嘯くバッキーに、サムは頭を抱えた。それを支えるようにバッキーが体を寄せるのだから、パパラッチには確かに良い写真提供ができたであろう。
……小切手切れよ」
「キャップを独り占めだ。言い値でいいよ」
状況を悟ったキャプテン・アメリカの判断は早い。
翌朝のトップニュースには、腰を抱かれたキャプテン・アメリカことサミュエル・ウィルソンが、ジェームズ・ブキャナン・バーンズ候補の肩に頭を預ける写真が一面を飾ることとなる。



トレスがセルフォンをスライドさせながら、サムに画面を見せてくる。
「この、バーで頭寄せ合って端のテーブルで話し込んでる写真は?」
「久しぶりに会って、向かい合って飲んでるだけだな」
「この、すごく真剣な表情で見つめ合ってるのは?」
トレスはまた別の写真をスライドしてみせる。
「NFLの贔屓チームが俺たち別々なんだよ。試合結果で揉めた」
……この、手を繋いでいる写真は?」
「それは演技」
ウェブニュースに掲載された、『バーンズ候補とキャップのロマンス』を報じた写真を次々にスライドするトレスに対し、サムがその全てを説明すれば、最終的にトレスは乾いた笑い声をあげたのち、セルフォンをテーブルに放り投げた。
「全部説明ついちゃうデートなんだ。マジでカモフラージュ用なんだね」
「だからそう言ってるだろ」
サムは手元のニュースペーパーから目を離さずに、呆れたように言う。
サミュエル・ウィルソンは、現代人にしては珍しく、SNSをあまり見ない人間だ。トレスにすれば考えられないことだが、未だサムはペーパーでニュースを読む。それがまた似合うのだから、なお一層トレスの中ではサムの人間性への憧れが強まる──が、ジェームズ・ブキャナン・バーンズ候補とのロマンス報道に関しては、いかんせんコメントし難い。
サム本人からその経緯を聞き及んでいるものの、連日のように報道されるそれが、世間には当然のように受け入れられ、ウェザーニュースと同じように〝今日の候補とキャップは?〟などと報じられるのは、サイドウィングを自認する立場としては、進言したいのが本音だ。
──ねぇ、サム、それ、外堀埋められてるんじゃないの?
トレスは放り投げたセルフォンのウェブニュースの写真の切り抜きを眺める。
サムを見つめるバッキーの表情──。
スミソニアン博物館やウェブヒストリーにある、ジェームズ・ブキャナン・バーンズという青年の、過去から現在に至るいずれにおいても、誰もが見たことのない蕩ける表情でサムを見つめている。そんな写真ばかりなので、サムの言う、〝恋人のふりをしている〟というカモフラージュは、既成事実に近い。
少なくともこの国の住民は、ジェームズ・ブキャナン・バーンズ候補の表情を見て、祝福しているに違いない。
『バーンズ候補、顔もいいけど男の趣味もいいじゃん』とは、記事を見たルース・バット=セラフの言である。相手がサミュエル・ウィルソンであるという点における、〝趣味がいい〟という言葉については、トレスも首がもげるほどに同意したものだ。
真っ赤な薔薇の花束を抱えたジェームズ・ブキャナン・バーンズ候補と、それを受け取るキャプテン・アメリカことサミュエル・ウィルソンが写った号外が、タイムズスクエアで配布された時、記事は奪い合いになったと聞く。
そのオールドファッションなバーンズ候補の振る舞いを、楽しげに、やがてはにかみ、そうして嬉しげに受け取るキャップの額と頬には、大きめのガーゼとサージカルテープが貼り付けられていた。
幾つかの二人のロマンス写真と共に、号外記事の裏面には、キャップの前日の活躍と負傷が掲載されている。
このニュースが報じられた翌日、薔薇の花束が飛ぶように売れ、花屋からいっとき赤い薔薇が消えた。
さて、こうしてバッキーが徐々に狭めた包囲網は、やがてサムの翼をも捉えたのか。数ヶ月後、数百本の薔薇の花束を抱えてバーンズ候補を訪うキャプテン・アメリカの写真が掲載された号外が、タイムズスクエアを舞う。
ルースに加え、イザイアと共に、トレスはその経緯を問いただすことになるのだが、それはまた別の話である。