ギャビィ
2025-04-12 23:41:35
650文字
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1848年のクロアチアさんとヴォイヴォディナさん

昔書いたやつ

 その晩俺はいつになく緊張していて、どうしたらハンガリーの目を此方に向けることが出来るのだろうかと、そればかり考えていた。春になってもまだ夜は肌寒く、ドナウ川から吹く風は冷たかった。イシュトヴァーンの王冠は遙か遠く、アドリア海の波の音は聞こえないまま、俺は至って不完全だ。
「もう春なのに寒いねえ」
同行していたヴォイヴォディナはなんとも思っていないのか、いつもと変わらない暢気な声で空を見上げた。俺は反射的に彼奴を睨み付ける。ヴォイヴォディナは何を思ったか突然、
「ヴォイヴォディナねえ」
柔らかく笑って、
「なんだかお前と一緒なら、やれる気がするよ」
と、そう言った。ヴォイヴォディナの瞳の中に、星が光るのが見えて、そうして俺は魔術か何かに掛けられたみたいに目が離せなくなって、ようやく気付いた。ヴォイヴォディナの背後に見える夜空は、瞬きする度に星が流れるような満点の星空なのだ。
「それに、セルビアも来てくれるかもしれないし」
けれど続けて聞こえた言葉にハッとなって、乾いた笑いが口を衝いた。そうして剣を握ったままの拳で、軽く彼奴の頭を小突く。
「外の奴なんて頼りにするな」
「お前、セルビア嫌いだねえ」
「知らないだけだ。それに、ハンガリーとは俺とお前で片つけないと」
「お前がヴォイヴォディナのこと、そう思ってくれて少しだけ嬉しいな」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。ほら、もうすぐペシュトだ」
ヴォイヴォディナが指をさす向こうに、ドナウの真珠と呼ばれる美しい街が見えた。