望月 鏡翠
2025-04-12 23:17:07
908文字
Public 日課
 

#1686 「独り言」「融雪剤」「サフラン」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 紫の花の中に、そっと手を差し込む。貴重な雌蕊を傷つけないように優しく取り出すと、重ならないように籠の上に重ねた。自宅で使う分だけを収穫するだけだが、スパイスとしてのサフランがどうして高価であるのかわかる、途方も無い作業だと思う。家庭用に摘み取ったそれはすぐには利用できるようにはならない。この後、保存に耐えうるように乾かす必要がある。
 雌蕊を抜いたあと残った花は、もったいないのでしばらくは手桶に浮かべたりして目を楽しませてくれる。しかし引き抜かれた後の柔らかい花はすぐに萎れてしまうので、すぐにお別れとなる。
 しばらくはサフラン特有の良い匂いを家の中で楽しむことができた。
 収穫作業が終わると乾燥の準備をする。重ならないように綺麗に並べ、風が吹いたときに籠がひっくり返って床にぶちまけてしまわないように、目の細い網で蓋をする。風通しがいい日陰に設置すればあとは乾くまで待つだけだ。
 細かい作業で凝り固まった体をほぐし、香りで刺激された食欲を抑えるために先に昼食を取ることにした。
 冷蔵庫の中は買い物に行かねば空っぽで、備蓄のホットケーキミックスで簡単に済ませることにした。
 卵を割り入れて、隠し味に本味醂を一匙。ふわふわになるらしいと噂を聞いて以来試しているが食べ比べた物がないから実はどれくらい変化があるのか、わからないまま習慣になっていた。
 熱したフライパンに生地を流し入れる。
 やがて表面が、凍った道に融雪剤を撒いたときのようにポツポツとしてくる。最初はすぐに塞がる。その穴が大きくなって、すぐに塞がらなくなってきたらひっくり返すタイミングだ。フライパンを一度濡れた布巾で冷やし、適温にしてからひっくり返す。
 ホットケーキが焼き上がった。
 メープルシロップをたっぷりとかけながら、乾燥作業に入ったばかりのサフランの使い方について考えた。
 サフランはデザートのソースにしても美味しいのだ。完成したら、プリンにしようと思っていたが、ホットケーキのソースに使ってみても美味しいかもしれない。
 頭の中で思い描いたサフランの香りは、メープルシロップとバターの香りにかき消されて行った。