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らい
2025-04-12 21:00:24
3100文字
Public
レオいず
レオいず30days⑫「オールインワン・キス」
フィレンツェ編② お題「スキンケア」
これといって気にしたことはないのだが、どうやら見た目で得をしているらしい。黙っていれば品があり、まるで姫君をエスコートする高貴な王さまのよう───夢ノ咲学院時代から『月永レオ』の容姿は評価されてきたけれど、アイドル活動を本格始動させてからは、より顕著になっている。握手会では、「本物のレオさま、カッコよすぎて死んじゃう♡」と卒倒するファンの女の子が多い。そのうえ、Knightsの公式アカウントでも写真がアップされるたび、ルックスを賛美するコメントが殺到するのだ。
スマートフォンの縦スクロールに続く「カッコいい」の文字。たとえ聞き慣れている言葉だとしても、外見を褒められるのは悪い気がしない。上機嫌に鼻歌を奏でるレオだったが、画面を泳がせていた指先をぴたりと止めた。最近、妙に多いコメントがある。「レオさまって、無加工なのにお肌きれいだよね♡」───今年に入ってから、もっぱら肌質に対する言及が増えているのだ。
SNSが映し出されているスマートフォンを片手に、レオは不思議そうに振り返った。
「あのさぁ、セナ」
「じっとしてなきゃ駄目」
「むぎゅ
……
」
人差し指と親指で頬をつままれて、顔の向きを正面に固定される。「お利口さんにしてて」と釘を刺されたものだから、レオは大人しく「はい」と返事した。
フィレンツェでの同棲生活におけるナイトルーティンは、風呂上がりのスキンケア。先日ふたりで選んだばかりのソファーに座らされたレオは、化粧水を含んだコットンを肌に押し当てられている。「ペットの管理は、主人の務めだからねえ」といって、一日三食の食事から一週間のスケジュールまで徹底的に管理されているのだけれど、肌のサイクルまで手綱を握られるようになったのだ。
実家に住んでいたころは、化粧水など使ったことがなかった。ましてや日々の洗顔さえも冷水で済ませていたレオにとっては、苦行の一言に尽きる工程である。最初のうちこそ面倒で逃げまわっていたが、美容に人一倍きびしい泉から逃れるのは至難の業だった。幼稚園の頃からかけっこでは一等賞だったレオの足でも、鬼人と化した泉にはかなわない。「れ~お~く~ん~?」と首ねっこをつかまれて、「お肌の再生力は若いうちだけ!」だの「おじさんになったら後悔するよ!」だの、長々とした説教を浴びせられるうちに諦めることにした。
よくよく考えたら、泉にこうして世話されるのも悪くない。貴重な夜のひとときを、レオのために割いてくれるのだ。尽くされている感じがして、いまでは幸せな日課のひとつでもある。多分。
「ねえ、れおくんどう?」
「ん~?」
「いま使ってるやつ。お肌に浸透していく感じしない?」
「あ~
……
。そう言われてみれば、なんか良さげな成分? が吸収されていく感じがするけど
……
ぶっちゃけ、よくわからん!」
「あんたって、ほんとに美容全般に興味なさすぎるよねえ
……
」
「ハトムギならわかる! 大容量ポンプ!」
「はいはい、あんたのお母さんが使ってるやつね。
……
でも、もうちょっと関心もったら? アイドルなんだからさあ」
「え~?」
「可愛い顔で抗議したって駄目。これだって、新製品なんだけど。俺のお気に入りをせっかく教えてあげてるっていうのに、あんたときたら
……
」
「おっ! セナが『いいな~』って思ったやつを、おれに使ってくれたのか? わはは、ありがとう! おれって愛されてるな~、美人の世話焼きに尽くされて、幸せっ」
満面の笑みで前のめりになると、ふたたび頬をつねられた。「むぎゅ
……
」と情けない声を出して、レオはひとまず大人しくする。
「俺の顔が美しいのは否定しないけど、別にあんたのために買ったんじゃないから。フィレンツェで暮らすようになってからお肌が荒れてきたよね~なんて、外野からとやかく言われたくないし。俺は俺の名誉のためにやってるの、勘違いしないでくれる?」
「はいはい、万物はすべてセナのおかげですよ~っと。
……
ところで今使ってるやつの商品名、なに?」
「意外。興味あるの?」
「おまえがそう言ったくせに。
……
ほら、これ!」
レオは直近のSNSから、ファンの姫から寄せられた質問の画面を見せつけた。「レオくんって、お肌のことでなにか気を付けていることありますか?」「レオさま♡ ぷるぷるおはだのひけつ、あたしもしりたいな♡ レオさまのひめより」「カッコいいレオきゅんにつられて、おじさんもちょっと頑張ってみようかな
……
と思い始めている今日この頃です。(笑)」───肌にまつわるクエスチョンが、数多く寄せられている。
泉は「ふぅん」と興味ありげに顔を近づけた。風呂上がりのせいか、シャンプーの甘い香りが鼻をつく。細い首筋をくんくんと嗅げば、またしても顔を「むぎゅ」と正面に向き直された。とろみのある乳液で蓋をしながら、泉が得意げに続ける。
「俺が管理してやってるおかげじゃん。感謝しなよ」
「わはは~。ありがとう、セナ~!
……
そういえば、こういう質問のコメントとかずっと放置してるなって思ってさ。こんなに反響があるなら、お姫さまたちにも教えてやろうって思って!」
「ふぅん、ちゃんとやる気になってて偉いねえ。俺とれおくんが使ってるのは、まずは化粧水が〇〇の〇〇。美容液は△△が出してる△△、でもタイプが二つあって白いほう。乳液は〇〇のライン使いで、週末のシートマスクは♢♢を使うことが多いけど▼▼も結構よかったよ。あっ大事なこと忘れてたね。洗顔は〇〇で、クレンジングは■■の───」
馴染みのないカタカナばかりが飛び出したので、レオは地球に訪れたばかりの宇宙人になる。糸目になるほどまぶたを細めて、「ストップ!」と制止した。
「ちょっと待て、全然わからん。一気に言われても覚えられないから、ゆっくり喋って。スローモーション!」
「ええ
……
? それじゃあ、最初からいくよ。ちなみに今教えたのは夜のスキンケアね。朝はまた違ってくるから。まずは化粧水が〇〇の〇〇で
……
」
「あぁ~っ、待って! やっぱりいいや、代わりにセナが書いといて! 『セナが使ってるやつ! 詳細はセナに聞いて!』、ぽちっとな! 送信完了~」
「はあ~?」
乳液を塗り終えた泉が、画面を見下ろしながら眉を歪める。だって長文は苦手なのだ。レオはわはは、と苦笑する。
「ったく
……
。SNSは全部俺任せなんだから」
「まぁ、おれって言葉足らずで誤解されることも多いから! セナが言語化してくれるおかげでとても助かる! ありがとう、愛してるよ!」
「調子の良いこと言っちゃって。
……
はい。今日のスキンケア、終わり」
泉はそう言って、レオの柔らかな頬にキスをした。ちゅっと音を鳴らして、「俺もSNS、更新しよっと」と立ち上がる。ボトル一式をかき集めて部屋に戻っていく泉を見届けながら、レオは柔らかなソファーに寝そべった。
化粧水で肌を整えたあとは、締めにキスをするのが日課となっている。艶やかな唇の残り香をふにゃにゃ楽しんでいるうちに、レオは「あっ」と気が付いた。
スーパーで気軽に購入できるお買い得品、世の中の美人御用達の高級スキンケア。その違いはレオにはちっとも理解できないけれども、肌の水分を乳液で蓋をするように───些細なしあわせは、泉のキスによって身体じゅうに閉じ込められている。
おれの肌がきれいなのは、セナがちゅ~してくれるからだ!
泉が教えてくれたブランド名などすこんと忘れて、レオは「もちもちっ」と寝返りを打った。
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