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あけみ
2025-04-12 11:05:56
2641文字
Public
SPN(小説)
【SPN】抱きしめる【C/D】
30日CPチャレンジのC/D編。
S5の2014年ルートより。
Cuddling Somewhere/抱きしめる
人が抱きしめ合うのにはどういう意味があるのか。という、ふとした疑問をカスティエルはディーンに問うたことがある。
ディーンがいるモーテルまで飛んできたカスティエルは、先日見たドラマの内容を思い出しながらベッドに寝転がる彼を見やった。2週間前にサムと別れてからディーンはお互い離れている方が天使と悪魔に付け込まれることはないとし、頑なにサムと会おうとしない。ディーンの弱点はサムであり、サムの弱点はディーンでもある以上カスティエルもこの決定打に異を唱えることはなかった。
「で? なんだって?」
ディーンはポルノ雑誌から顔を上げカスティエルを見やった。先程のカスティエルが投げかけた問いに戻る。
「君も弟にするだろ」
「ハグか?」
「何の意味がある?」
人間に興味を抱き始めたカスティエルのこういった疑問にディーンは面倒くさく顔を歪めるも、無下にはせず彼にも理解できる言葉で説明するのが常だ。
「安心させるためとか、悦びを分かち合うときとか、そういうときにするんだ」
ディーンの説明にまだ理解が及ばないのかカスティエルは首を傾げる。
「抱きしめると人は安心するのか?」
「うーん、まぁ、相手による」
相手というのは家族や友達、恋人といった部類を上げたディーンは「なるほど」と真顔に頷いたカスティエルが滑稽に映り少し微笑んだ。挨拶のハグすらしたことのない天使を前に興味を示したディーンは両手を広げた。
「それじゃあ、してみるか?」
カスティエルは目を丸めたがすぐに眉を寄せて断った。
「私が力の限り抱きしめたら君の体が壊れてしまう」
「そこは手加減しろよ。恩寵パワー全開でハグするな」
そう言ってディーンはベッドから腰を上げるとカスティエルの前まで歩いて対面すると、優しく抱きしめる。
「ほら、こうだ」
ディーンの両腕が背を摩ったのが分かり、体を固まらせたカスティエルはどう反応したら良いか分からずにいた。
「な? 簡単だろ?」
「
……
ああ」
ぽんぽん、と肩を叩かれ破顔するディーンに胸をざわつかせた。安心したとか、悦びを感じたとか、そういったものではなかった。カスティエルが感じたのはもっと別の何かだったが、それが何なのかはまだこの時は分からない。
ハグを覚えたカスティエルはそれからというもの隙あらばディーンを抱きしめることが多くなった。タイミングなど理解しているはずもなく、出会い頭に、ディーンが寝入る直前に、会話中になどといった具合だ。もちろん、ディーンはそのたびに怒鳴った。「今は違う」とか「空気読め」といった具合だったので、カスティエルは何が悪いのかさっぱり分からなかった。そういったことがしばらく続き、ついに最悪なタイミングでディーンを抱きしめた。バーで一夜の出会いを求めたディーンに「迎えにきた」と言って女性を押し退けたのだ。モーテルに戻ったディーンは使い方を完全に間違えているカスティエルに説教をし、ハグ禁止とまで言い渡したがカスティエルの言い分はこうだった。
「君を抱きしめると、不思議な気持ちになる」
「
……
なんだ、それ」
「分からない。胸が騒ぎ立つ。落ち着かないが、どうしても離れがたい。君に抱きしめられたときとても焦った
……
いや、焦りとは少し違う
……
どちらかというと、すごく良かった」
そう言ったカスティエルは黙りこくるがジッとディーンを見つめる。
「そんなふうに俺を見るな」
「なぜ?」
「お前のそれは、きっと
……
赤ん坊が母親に向けるような気持ちだろうよ」
「君は私の母ではない」
「物の例えだ」
ディーンはそう言って、顔を背ける。カスティエルが感じる感触はそういったものではなかった。けれど、ディーンはカスティエルが理解できないでいる感情を知っているようだった。なぜ教えてくれないのか? 一瞬、焦燥を覚えるカスティエルは眉を寄せる。
「
……
君はきっと弟を守るとき、大切に思うとき、抱きしめることで安心させていたのだろ?」
幼いころからずっとそうだっただろう。
ならば、彼が不安になったとき、大切に思うとき、一体、誰が抱きしめるのだ?
それ以来、カスティエルは無暗にディーンを抱きしめることはなくなった。
サムとは相変わらず別れたままで、連絡も取らずディーンは狩りをした。その狩りにカスティエルも同行するようになった頃。悪魔も天使も大きな動きがないまま月日は流れていく。ディーンもカスティエルも現状が悪化を辿る気配を察知できずにいた。それは、奇しくも二人の関係が人間と天使から親友へと少しずつ形を変えていたことに比例し、サムの状況の危機に意識が及ばなくなったことにも関係した。
――
デトロイト。
サムがルシファーの器になることを了承した後、町は廃墟となったという。
土砂降りの雨の中、路地裏で懸命に声を張り上げ叫ぶディーンの後ろ姿をカスティエルはふらふらとした足取りで近付いた。
叫びは言葉として成り立たなかったが、何を言っているかは知っている。彼は懸命に祈った。祈って泣いた。
『ミカエル! 俺を器にしろ! お願いだ
……
俺を
……
器に
……
俺の全てをやるから
……
!』
悲痛な祈りはカスティエルを動揺させた。彼はそう易々と祈ったりしなかった。友であるカスティエルにすらだ。天を仰いだカスティエルはすでにミカエルが去ったことを感じ取る。どこかホッとする自分がいて驚愕する。ミカエルがディーンの祈りを聞き入れ彼を器にしてしまったら、と考えただけで虫唾が走った。ディーンが天に向かって祈る声をもう聞きたくなかった。
やめろ。やめてくれ。
その祈りは、誰のためのものだ?
カスティエルは息を吐いた。
座り込んだディーンのすぐ背後まで近付いた。膝を付き、ゆっくりと震える両腕でディーンを抱きしめる。濡れた体は冷たくなっていた。カスティエルも濡れていたので、二人とも惨めな気持ちだった。抱きしめた腕を振りほどかれると思っていたが、ディーンは叫ぶのを止め静かになった。それから肩が震えだし、泣きながらカスティエルの名を呼んだ。
その名を聞いてドクリと鼓動が波打った。カスティエルは抱きしめる腕に力を込める。
「キャス
……
キャス
……
っ
……
キャス」
子どものように泣くディーンの体をカスティエルはずっと抱きしめていた。
彼はもう祈らなかった。
fin
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