荒野ハチ
2025-04-12 01:24:26
4903文字
Public 小話
 

しのぶれど、其の楽欲は

造られた存在とはいえ悪魔
あの時、彼はそう言ってた

「アオガミの好きにしていいよ?」

「少年?」

いきなり何を言いだすのか
そんな表情で神造魔人がこちらを見る
彼の反応はごもっともだ
こういう空気になるであろうことは、僕も予想できていた

「そう言ったら、アオガミはどうするんだろうなって」

ちょっとした好奇心でもあった

いつも僕のことを一番に考えてくれる神造魔人
その気持ちは純粋に嬉しいし、僕のアオガミらしいところだなとも思う
けれどそれ故に、彼の行動は僕に対してかなり受動的で、
たとえば、その……
夜のお誘いなんかも、今まで全て僕の方からという事実

傍から見ると、まるで僕ばかりが欲求不満みたいで
少し納得いっていないのが本音である

「で、どうするの?」
「どうすると言われてもな」

いつもキリッとつり上がっている眉尻がやや低くなり、本当に困ってしまっているようだ
一度そういう雰囲気になれば、最中はアオガミも積極的に僕を求め、リードしてくれる
よって欲が無いというわけではないと思うのだが
どうやらこの神造魔人は、自分の欲に正直になるということが難しいらしい
……僕が関わると特に

その腕を僕の背中に回したまま
何もせず、何もできず、じっとこちらを見つめる神造魔人
その真っ直ぐな視線に、だんだんと自分が悪いことをしているかのような気持ちになってくる

「私は……
「ん?」
……

何かを言いかけて目を逸らし、再び黙りこんでしまった
その言葉の先が気になって仕方がない

「私は、なに?」
……

彼の口は真横にしっかりと結ばれ、僅かな隙間すら見せない
もともと寡黙な彼だが、こうも固く閉ざされている様子を見ると
この沈黙は強い意思に基づくものであるとわかる
……頑なに何を拒んでいるんだろう

……アオガミ。くち、開けて?」
……
「キス……したい」

そっと触れるように、唇で神造魔人の口元をなぞって誘惑してみる
……だが、効果は薄いようだ

……

変わらず彼の口は閉ざされたまま……
けれどもその視線だけは、再び真っ直ぐこちらを見つめる
僕だけを捉えて、まるで逃がす様子のないその視線に
彼の固く閉ざされた口よりも先に、僕の方が観念してしまった

……ごめん。あんなことを聞いて、困らせたよね
……

彼からは何の返事もない
……困らせるどころか、怒らせてしまったのかもしれない

アオガミが自分からは絶対に僕を求めようとしない理由
決して察していないわけじゃない
彼の優しさ、思い遣り、そしてそれこそが彼の愛情だと分かっている
それなのに、納得できないからと煽って、その気持ちを軽んじるようなことをして……
非常に温厚な彼も、そんな僕の行いに愛想を尽かしてしまい何も言えないのだと思う

……
……

次第に怖くなり、彼の顔が見られず黙ったまま俯く
一方で彼は依然として真っ直ぐにこちらを見つめ、離してくれない
……目を合わさなくとも分かる
その視線がやや痛く感じた


___そっと、僕の頰を大きな手が包んだ

自分の手元に目線を落としていた僕の顔は、その手が導くままに仰向けられ
抵抗する間もなく唇が重ねられた

……んっ……

僅かな隙間からスルリと口内へ侵入する器用な舌
僕が開かせるはずだったその口に
こちらの口が簡単に開かれてしまう始末

「ぅ………… ハァ……

一方的に舌を絡め取られ、二人の唾液が混ざりゆく
浅い水音と吐息混じりの甘い声が
静かな寮室に響いた____


いっときの間口内を弄られ
息をするのも忘れそうになるほど情熱的な口付けに
遂には酸素を欠乏してしまい脳が意識を手放しかける

「ハハァ…… でッ

やっと解放された僕は、くったりと神造魔人の胸に身体を預け
その腕の中で息を切らせながら
行為に及んだ理由をなんとか問いかけた

……君が望んだからだ」


『キス……したい』
確かにそう言った。その発言に嘘は無かった
けれど、対する神造魔人の答えに
僅かに胸の奥がズキンと痛んだのを感じた

……私は、」
……
「君の望みを叶えたい。それが私が君に為したいことだ」

アオガミならそう答えるだろう
僕の中で十分に想定されていた答えだった
本当にアオガミらしいなと嬉しく思ったのも事実
……だけど、
少し辛くもあった。だって…………

……なら、アオガミは僕から何も欲しいと思わないの?」

「少年?」

あーあ言ってしまった……
僕が唯一彼に対して抱いていた不満___
いいや、不安だった

僕を一番に想ってくれるゆえに、僕に対して受動的な姿勢の神造魔人
それが彼からの何よりもの愛情表現だと分かっているけれど、
僕ばかりがその愛情に甘え、彼に自分の欲を強いていないだろうか
納得いってないんじゃない
本当は、ずっと不安だったのだ

「じゃあ、アオガミが望んでいることが僕の望みだよって言ったら、なんて答えてくれるの?」
……!」

どんどん一方的な言葉が出てくる
なんてひどいわがままだ
ここまで大切にされているのに、ここまで愛されているのに、
まだ答えが欲しいだなんて
どうしようもなく自分勝手で情けなくて、涙が出てくる

「少年……
……

突然の僕の涙に神造魔人はやや戸惑いの表情を見せたが
すぐにいつもの落ち着いた様子でゆっくりと話し始めた__

……思いとは、言葉として口にした瞬間に、思いでなく欲へと変わってしまうものだ」
……
「言霊が宿り、力を持ってしまう。場合によっては相手の心に干渉し影響を与えかねない力に
私がその欲を口にすれば、それが原因で君に何かしらの影響を与えてしまうだろう。それは私の望むところではない」
……
「思いは、思いのまま留めておいたほうが良いこともある」

そんなことだろうと思ってた
ありのままの僕を尊重してくれるこの神造魔人は、僕のらしさを損なわせるようことは絶対にしない
ましてや、それが自分の欲によるものならなおさら
先ほど彼が断固として口を開かなかったのはそういうことだ

「でも、それだと不公平じゃない僕ばかりがアオガミに望みを叶えてもらって」
「それが私の喜びだ」
……ずるいんだよ」
「ずるい?」

そうして僕のことばかりを理由にして自分のことは何も話さないの

「僕にも教えてよ」
「何をだ」
「僕もアオガミと同じように、アオガミの望みを叶えたいのに、この想いは叶えてくれないの?」
「しかしそれは

「僕もアオガミと同じ気持ちなの!!」


少し大きな声で彼の言葉を遮ってしまった けど
一度溢れてしまった感情も、喉の奥から溢れてくる言葉も
もうどうにも抑えておくことはできなかった

「好きな人のことは何だって知りたいって思うのは当然のことでしょう?」
「少年
「アオガミが、僕の気持ちを知っておきたいから話をしたいってそう言ってくれたのは、
……そういうことだからでしょう?」
!」
「僕だって……


聞きたいよ____

___あなたのこと…………


それは “言葉”と形容するには難しく、
発声した自分ですらほとんど聞き取れなかったほど掠れた泣き声のようなもので
とても相手の耳に届いているとは思えなかったが……

……すまなかった」

低く重厚感のある謝罪の言葉と同時に、
ぎゅうっと神造魔人の腕に力が入る
彼の耳はそれを、きちんと言葉として捉えられていたようだ

「私が欲を口にしてしまえば、それは君に影響するだろう。君を悩ませ、戸惑わせてしまうと、そう判断した」
「アオガミ
「だがそれは私の一方的な考えだったのかもしれない。事実として君は、そこに不平を感じていたのだな」
「アオガミの気持ちは伝わってた きっと僕を大切に想ってくれてるからなんだって」
私はそれこそが君のためだと信じ、君の本当の気持ちに耳を傾けようとしていなかった。
相手のことを思ってした行動が、必ずしも相手を幸せにするとは限らないとそう知った筈なのにな」

どこまでも純粋で真っ直ぐすぎる……
なのに僕といったら、そんな彼の想いに甘えて不安だとわがままを垂れている
誰が聞いても完全に僕が悪い

………ごめんなさい。あなたの気持ちを蔑ろにするようなことを言って
「なぜ君が謝る。君が素直な気持ちを伝えてくれたことが、私は嬉しい

彼は僕の頬をそっと撫で、親指で目尻の涙を拭う優しさを見せたかと思ったら
突如として秘めていた欲を顕にし、
大きな身体と力で僕を制圧するようにベッドに押し倒した

「少年。私は
「うん。なに?」

熱の籠もった視線が交わる
お互い答えはもう分かっている
神造魔人が望んでいることも、自分が望んでいることも同じだと
だけど、彼の口からその先を聞きたくて
敢えてもう一度、同じ質問を彼に投げかけた


__アオガミが望んでいることが僕の望みだよって言ったら、
なんて答えてくれるの?____


「私は…… 君が欲しい 」


ずっと聞きたかった言葉
自分に向けられた彼からの真っ直ぐな望みが嬉しくて
先ほど拭われた目尻に再び涙が溢れる
その様子を見た彼は、ちゅっと小さな音を立てて涙を吸うように目元に口付けた

……構わないか」
「うん。もちろんだよ

彼の首に腕を回し、その欲望に応える意思を言葉と身体で伝える

時に浅く、時に深く、顔の向きを変えて何度も何度もキスしながら
一つ、また一つと制服のボタンが外されてゆき
露わになっていく僕の薄い身体に、逞しく太い腕が回される
その手からは、僕を包み込むように愛撫する優しさと
絶対に逃がさないという強い欲心が同時に身体に伝わり、
より熱を生む……

存分に僕の唇を味わった神造魔人の口は、そのまま首筋へと流れ
物欲しそうにしつこく舌を這わせて何度も甘噛みしてくる
いつもなら一点の痕も残したくないからと控えめなのに、こんなこと始めてだ

……いいよ。アオガミの印、付けて?」

もう少し待っていれば、おそらく彼の方からかけられていたであろう確認の言葉よりも前に
僕の方が焦らされて根負けする
すると彼はぢゅっと音を立て、一層強く首筋の薄い皮膚に吸い付いてきた

「んっ! ぁ…………あぁん」

初めて感じる首への強いアプローチに身体が大きく反応してしまう
僕が強い反応を示すと、すぐに大丈夫かと心配し
時には行為を中断すらしてしまう神造魔人が、
今はそんなことはお構い無しに、身を捩らせる僕を力で制止し首筋を吸い続けている……
いつも何よりも僕が一番のアオガミが、今は自分の欲を満たすことに夢中になっているのだ

こんなアオガミ はじめてだ……____


僕の首筋に自分の印をしっかりと残し終えた神造魔人の呼吸はやや荒く、乱れていた
彼の漢の象徴たるそこは戦闘装甲を突き破ってしまいそうなほど盛り上がり、
その目は、眼前にある知恵の実を今すぐにでも貪り食いたいと言わんばかりにギラついていた……

「ッ少年、……いいか?」

初めて見る、欲望を剥き出しにした悪魔のような神造魔人の姿にドキリとするも、
そんな彼へ抱く期待からゾクゾクと全身に緊張が走る
今の彼ならば、この言葉に応えることも難しくないだろう

「うん……アオガミの好きにしていいよ?」


__えっと……明日は何時に寮を出るんだっけ?13時ならいいか。
と、頭の中で自問自答
両手首を抑え付けられてしっかりと組み敷かれ、今まさに頂かれようといる状況であるにも関わらず、
頭は妙に現実的な思考を巡らせていた
何故なら……

きっと今夜は 今までとは違う夜になるんだろう__

そう予感させたからだ