まつり花
2025-04-11 22:47:42
3256文字
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質疑桜答【学パロPL】

こちらは宇田学様【https://x.com/uda_gaku 】が描かれている男夢主×ホークスの設定をお借りしたファンフィクションです。三次創作になります。ほのぼの学パロPLです。よろしくお願いします。


やっと春らしくなってきた。
まだ肌寒い日はあるものの日中の柔らかな日差しと窓から見える淡くカラフルな景色にぼんやりとそんな事を思う。新学期も始まり、新しい顔ぶれも授業になじみ始めた頃、前年度とまったく変わることなくせっせと化学準備室にやってくる生徒が居た。
川上継御くんだ。川上くんはどういう訳だか俺に好意を持ってくれているらしい。いつも暇が出来ると俺を探しては話しかけてくる。昼休みの空いた時間にはこうして準備室で授業の準備や休憩時間を堪能しているのを知られて以来、他の用事がなければこうしてここに訪れてくるようになった。何をするでもなくただ授業の話、友人の話、妹の話……。それから絵や料理の話なんかも。そして去り際は必ず名残惜しそうにしながら決まって同じ言葉を残していく。
けれどもこの日は少し様子が違った。
とても眠そうだった。
うとうととしながらそれでも無理やり喋ろうとしている姿は少しだけおかしかった。
「少し寝たらどう。時間になったら起こしてあげるよ」
そう言っても「でもタカさん先生とふたりきりでおられる時間へらしとーない」と寝ぼけ眼で言う。そのうち頬杖をつきながら瞼まで閉じてくる始末。そんなにまでして会いたいと思われている、慕われていることに悪い気はしないけど、この子の想いは俺の受け取っていい類のものではない。
……せめて授業の分からなかったところを質問しに来ました~って生徒ならねぇ」
ぽつんと呟く。だとしたらこの奇妙な緊張感もなしにもっと肩の力を抜いて相手をしてあげられるんだろうか。もう聞こえても居ないだろうと思ってそれとなしに呟いた言葉はけれどもしっかり聞かれてしまっていたようで、せっかく机に顔を伏せ始めていた川上くんが焦ったようにやっぱり寝ぼけ眼のままの顔を上げた。
「ん~じゃあ」
川上君は窓から快晴の空を見上げながらもにゅもにゅと喋り出す。
「空はなんで青いんすか~……
そう言ってこてんとまた頬を掌で支えながら空へと目を向ける。
「空はなぜ青いのか……ねぇ。そうだなぁ空気中の分子が太陽の光を拡散させるから、って言っても分かるかなぁ」
カクンと外れそうな程勢いよく前に首が折れた衝撃で川上君はハッとまた顔を上げる。一応聞こえてたみたいで「わかんないっす」と正直に答えた。
「太陽の光はいろんな色が混ざっていてそれぞれの波長が違うんだ。青い光は波長が短くてエネルギーも高いから空気中の分子にぶつかって拡散しやすいんだよ。だからその青い光が四方八方に広がって俺たちの目に入ってくる。だから青く見える」
「はぁ~」
理解しているかしていないかも分からない返事がくる。このまま眠ってしまうかな。うつらうつらと閉じゆく瞼に抵抗しながらも机に伏せっていく。川上くんの家庭の事情は知っている。春眠暁を覚えずとは言え、忙しくて夜更かしでもしたのだろうかと想像する。
すると川上君は机に伏せながら言った。
「んじゃあ、俺も、もっと頑張ってエネルギーためて、しほーはっぽーからぶつかればタカさん先生の視界にもっともっと映りやすくなるん……?」
「はぁ……?」
びっくりした。もう聞いても居ないと思ってた。なのにそれなりに的を射て聞いていた様だし、しかも応用? までしてくる。
「それは、専門外かな……?」
「せんせー……俺、雲の上とか歩いてみたいんすよねぇ……
「あー……それも質問?」
「はい……
もしかして寝ぼけてる? この子はいま雲の中にでもいる気分なんだろうか。まどろんでいるときってそんなもんだよね。
……さすがに無理だね。残念ながら」
「んな事は分かってるっす……だから、なんで……?」
「え~、とぉ? 雲って言うのは空気中に浮かんだ小さな水滴や氷の粒子の集まりなんだよ。見た目はふわふわしてるけど、人間の体重は到底支えられるもんじゃない。化学的に言うと水が蒸気から凝結して出来たものだから……個体じゃないから踏むことは出来ない。わかった?」
「せんせーの声、好きっす」
「あ、そう……それはどうも」
「俺はせんせーと、雲の上を歩く……ぜったいに」
何を言っているのかさっぱり分からない。と言う事はやはり寝ぼけているのかと少しばかり顔を覗き込むと眉間に皺を寄せていた。
「漫画ならどないでもなる……する、俺が描く」
川上君は絵をかきたいらしい。将来は漫画家になりたいと言っていた。だからそんな妄言だろうが微笑ましくは思う。
「虹は? 虹は作れんの?」
「あれ? 授業でチラッと言わなかったっけ? 条件さえそろえれば作れるよ」
「俺と……
「ん?」
「俺と作ってくれへんか?」
「実験したいってこと?」
「実験やのうて……せんせーとデートしたい」
「あのね」
「なんでもええ。もっとせんせーと一緒におりたい。虹……見たい」
もう十分、他の生徒よりかは一緒にいる時間は長いと思う。けれどもそれを口に出して言う事は憚られた。イエスとも言えない。ノーと言って諦めてくれるわけでもない。これがあと一年も続くのかと思うとくすぐったさで気が重い。川上くんは気遣いのできる子だ。この沈黙に俺が困っているのだと返事を求めないでいてくれる。寝ぼけているからってのもあるからかもしれないけど。
「じゃあ……なんで鳥は飛べるんすか?」
「それは化学と言うよりも生物か物理……ん~鳥、鳥ねぇ」
俺は空を見た。空は好きだ。鳥も。
「羽が、あるからかなぁ」
「羽が無かったら超能力やなぁ」
「あはは。そうだねぇ」
「俺、せんせーの背中に羽が生えて見える時ある……
「なにそれ」
「天使やんなぁ」
「柄じゃなくない?」
「んなことないっす……俺、せんせーの絵描きたい」
「描くくらい別に」
「モデルになって」
「え、もしかして本格的なやつ? マンガじゃなくて?」
「ぬーどもでる」
「こらっ」
思わず手刀を寝ぼけた頭に軽く落とす。しまった、体罰とか言われたらどうしようと思ったけど川上くんはきっと言わないだろう。まぁ生徒じゃなければ容赦なくいったけど。そんな考えが脳裏に走って一瞬まずいと頭を振った。生徒じゃなければってなんなんだよ。あぶないあぶない。
「っていうかもしかして起きてる?」
「あ~今のこらっで目が覚めました。可愛すぎて」
「またそういうこと言う」
川上くんが自分の頭を撫でながら見上げてくる。その顔はどことなくにやけて見えた。「ホントやし」なんて呟いている。「せんせーがピペットとか言うたんびに可愛い思うとるし」「あとメスシリンダーはエロい」とまで言い出したのでそろそろ追い出したほうがいいのだろう。俺もそろそろ授業の準備に入らないといけない。
そう声をかけると子供の様に素直に拗ねた顔を見せながら川上くんは立ち上がる。
「ほんなら考えといてくださいね」
そう言われてはて? と首を傾げると川上くんはまたかわいいと呟いた。さっきの話を思い出して丁重に返事をする。
「モデルの件はお断りします」
「違うて、デート」
「それも、ごめんね」
いつもの事だった。はいはいと受け流す。いつもの事なのに川上くんはいつも少しだけ傷ついた顔をしておいてまた意気込みを見せてくる。経験上、意志の硬い人間は本当に諦めが悪い。どっちも諦めないなら……どうすればいいんだろうね。
川上くんは「またなせんせー」と準備室を出ていった。そこに少しだけ違和感を感じてしまう。違和感? 物足りなさかな? 取るに足らない感情だと一瞬で切り捨てようとしたその直前に、再び準備室のドアが開けられた。
「忘れとった。今日も好きっす。ずっと好きっす。そっちも考えといてくださいね」
そう、名残惜しそうに。彼はいつも返答に困る言葉を残していくのだ。
彼のまどろみがうつったのかもしれない。どことなく夢の中のような体感。少しだけ開いていた窓から風が吹き込んでくる。春だ。そう、春だから仕方がない。俺はそう思う事にした。