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桐谷リベル
2025-04-11 18:13:14
5390文字
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ハイラル勇者事変
前に呟いたネタからちょこっと書いてた、逃げる勇者と追う姫の話。
勇者に特大の矢印向けてる姫巫女と脳筋勇者と振り回されるプルアの話です。ギャグです。
TotKのEDまでの特大ネタバレあります。ご注意。
4/20誤字訂正と添削して再公開しました。
ハイラル全土を再び危機に陥れた厄災を、万年の時を駆けた姫と共に打ち倒てから早2年。まだ平穏とは言い難いものの、魔王討伐後赤い月が昇る事はなく、魔王の瘴気と赤い月に狂わされ凶暴化していた魔物達の脅威は少しずつではあるが薄れて来た。万年の時を龍と化し揺蕩っていた姫様は、秘石の再構成に伴う膨大なエネルギーのお陰で人の身に戻れたとはいえ、やはり精神にも肉体にもかかる負担が大きかったらしく、半年は昏々と眠っていた。目覚めてからは療養とリハビリを経て精力的に復興活動に当たっているが、もう少し休んでもいいのではないかと思う。姫様はどうにも全力で頑張りすぎるんじゃないかな、とリンクは思う。
姫様の残したウツシエの地を巡り、断片的ではあるがいくつもの記憶を取り戻したと言えど、回生の代償として失われた記憶の大部分は戻らず、姫様には申し訳ないが今ここにいる自分が今の自分なのだと開き直る事にした。仮に100年前の記憶を全て取り戻したとしたら、その時は姫様の知るリンクに戻るのだろうか。そうなったら、今姫様やプルア達を悩ませている問題も今の俺と違って難なく解決する方法を思い付けたのかな
…
。と思い、しかし取り戻した記憶を見る限り100年前の自分も割と脳筋の気配してたしやっぱり関係ないかも
…
と頭を振った。
今姫様やプルア達を悩ませている問題。それはハイラル王家の血筋の存続だ。姫様は名実ともにハイラル王家の血を引く最後の王族であり、その血を存続させることはハイラル王国を復興する上で最重要事項である。故に姫様が契りを結び、子を成す相手はどこの者とも知れぬ者ではなく、確かな血筋であることが求められる。姫と勇者が結婚すればいいのではないか、という声も多数上がってはいたが、旧ハイラル王国の貴族の血筋を守る者達による強い反対の声も上がっており、未だ結論が出ないままとなっていた。
「やはり健在である○○家の者が姫様と契りを結び子を成すのが相応しいだろう。」
討伐依頼を熟すため地下壕から地上に出ようとしたリンクの耳に、先日プルアと言い争っていた男達の話し声が届いた。これは今出たら面倒な絡まれ方をされそうだな、とうんざりした気持ちが湧き上がる。
「姫様はかの勇者殿に大層ご執心であられるようだが、近衛の家系とはいえ平民では尊き女神の血筋を繋ぐには相応しくなかろう。○○家の血筋であれば数代前に王家より降嫁した姫がおられたはず。青き血を薄める事なく次代に繋がる。」
「女神に選ばれし退魔の勇者と言えど、王家に下賎な血を取り入れるなどと
…
姫様は王家の血を持つ最後の一人である自覚を持っていただきたいものですな。姫様が甘い顔をなさるから勇者と持ち上げられただけの平民風情が勘違いをしているのだ。」
「勇者殿も自身の立場を弁えていただきたいものだな。退魔の勇者として厄災と魔王を討伐したと言えど姫様の御力あってこそだったと言うではないか。アレが居らずとも姫様だけで魔王をどうにかできたであろうに。」
ハハハハハ、と嗤う男達。あまりの言い草に憤然とした様子の討伐隊員を宥め、気遣わしげにこちらを見る地下壕の人々に曖昧な笑みを返す。ここで平然と出て行ったらどういう顔をするのだろうか、と思ったが恐らく嬉々として嫌味を言われるだけだろう。わざわざ面倒に突っ込むのもな
…
と思い上りかけた梯子を降りてプルアパッドを取り出してワープした。
多少の傷は負ったものの、無事魔物達を討伐し終えたリンクは、報告のため復興拠点の鳥望台にワープして戻った。プルアへの報告を終え、アッカレに購入した自宅へと戻ろうとプルアパッドを取り出そうとしたところで背後から声をかけられた。
「これはこれは勇者殿。毎日遅くまでご苦労な事ですな。」
うわ面倒なのに捕まったな、という気持ちが顔に出ずに済んだのは100年前の自分に感謝したい。
「厄災の消えたハイラルの復興のため日々駆けずり回るその御姿に民らも勇気付けられておることでしょう。いやはや、姫様を取り戻し魔王を打ち斃したその偉業、語り継がれるべきでしょうなぁ。」
下卑た笑みを浮かべた男は賛辞を並べ立て、リンクを見る。
「しかし、どのような偉業も歴史に刻むには
…
平民ではなぁ。」
それから男はくどくどネチネチと暫く好き勝手語っていたが、要は「ハイラル王国復興のために姫様にはきちんとした貴族の血筋と交わってもらう必要があるから平民は弁えろ」ということらしい。疲れて腹の減ったリンクは8割方聞いていなかったが大筋はたぶんそんなものだったと思う。
台所の油汚れをも上回る執拗さで散々に詰って満足したのか、男は監視砦に誂えられた宿舎の方に立ち去って行った。最後に念押しのように嫌味を言われたが、リンクも流石に眠くなってきて聞き流していたので何を言っていたのかは覚えていない。きっとそれも「姫様のためを思うなら自分から身を引け」と言う類のものだろう。そんなもの、厄災討伐後から耳にたこができるのではないかというくらい言われてきた。インパは何も言わないが、ハイラル王国復興のため姫様の結婚相手について頭を悩ませていたのをリンクは知っている。姫様とプルア、インパ達で深刻そうに話をしているのは何度も見掛けているし、リンクは自身が脳筋であると自覚しているので、難しい話は姫様達に任せて討伐や護衛の任務を請け負っていた。
リンク自身も、姫様の側に護衛として侍り続けるのは良くないのだろうな、と理解はしている。血筋を残す為、姫様はいずれ結婚して子を作らなくてはならないのだ。その時にリンクが側にいては、姫様の配偶者も心穏やかにはいられないのだろう。自分だったら、結婚した相手に男の影があるのは嫌だと思う。たぶん。
しかし、だからと言って姫様の護衛は蔑ろにできない。なんせまだイーガ団の残党は神出鬼没だし、もう赤い月は昇らないとはいえ魔物だってあちこちに蔓延っているのだ。そうでなくても姫様に悪意を持つ者はいる。リンクには難しいことはわからない。だが、要は「姫様の障害になるものが無くなれば」勇者の肩書きを持つリンクが護衛に付く必要性も薄れるのではないかと閃いた。護衛につく必要性が無いのであれば、必然的に姫様の配偶者に不安を感じさせることもなくなる。姫様の護衛を辞したあとはのんびり旅でもしよう。
我ながら頭が良いかもしれないな、とリンクは思った。そうとなれば復興に不安を抱く民や、様々な問題に頭を悩ませている姫様を安心させるためにとっととやり遂げてしまおう。うん、完璧だな。リンクは自画自賛しつつ、頭の中で今後の予定を立て始めた。
この時のリンクは、それが今後ハイラル中を巻き込むような大事件に発展するとは露にも思わなかったのである。
それからのリンクはそれはもう精力的に働いた。ゼルダにきちんと休んでいるか心配され、インパには褒められつつもやはり心配され、プルアには心配と何を企んでいるのかという目を向けられながら討伐に精を出した。
イーガ団の支部を見付けては壊滅させ、大型の魔物の話を聞けばすぐさま討伐し、魔物の群れが現れたと聞いては愛馬を走らせ討伐隊に加勢しに行く。
3ヶ月も経つ頃にはリンクのほうが魔物達に恐れられてしまったのか、あちこち駆け回ってもあまり魔物に出遭わなくなってしまっていた。1匹見たら、の害虫より執拗いと感じていたはずのイーガ団すらもあまり遭遇しないのである。達成感に満ち溢れているリンクは、以前にも増して無茶をしているのではないかとゼルダ達に本気で心配されているのにも気付いていなかった。
そしてついに事は起こる。
一ヶ月が経った頃、急にリンクが居なくなってしまったのだ。
復興拠点2階のプルアの研究室の机に、ゼルダのもとを去る事への謝罪と、これからのハイラル王国のために近衛を辞する旨を綴った手紙と旅の間ずっと持っていたプルアパッド、ゼルダが手ずから作り上げリンクへと贈った、英傑の服を置いて。
『プルアへ
勝手だとはわかってるけど、もうハイラル王国に勇者は必要ないと思ったから、暫く旅に出る事にした。出来る限りの範囲で魔物とイーガ団は処理したと思う。各地方の人々もハイラル復興に協力的だし大丈夫。次の勇者が必要になったときのために、マスターソードはちゃんと森に返したから安心してほしい。ゼルダ姫様にはハイラル王国のための選択をしていただかないといけないから、俺は側に居ないほうがいいと思う。
俺の代わりにプルア達で姫様を支えてあげてほしい。
リンク』
手紙を見付けて読んだプルアは言葉を失い、リンクの手紙と共に置いて行かれた英傑の服を見たゼルダはあまりのことに茫然自失となり、プルアからの連絡で事態を知ったインパは昇天するところだった。側に控え共に報告を聞いて意識を飛ばしていたパーヤが我に返り、慌てて蘇生処置を行ったため一命を取り留めた。
しかしリンクが居なくなったと騒ぎになった事で喜ぶ者もいる。あの夜リンクに嫌味の限りをぶつけていた男は、これ幸いとばかりにゼルダに擦り寄るべく嬉々としてプルアの研究室を訪ねた。
「姫様、御前失礼いたします。姫様が御心を砕かれていたかの英傑が、あろう事か自分勝手にも姫様の護衛役を辞したとか
…
。100年前は近衛騎士であったとの事ですが、記憶と共に姫様に侍る栄誉すら忘れてしまったようですな
…
実に嘆かわしい事です。」
大仰な仕草と共にリンクを扱き下ろす男。ゼルダ達の様子に気付いていないのか、調子に乗り始める。
「ええ、私にはわかっておりました。あのような男は姫様のお側に侍るに相応しくないと。故に私はあの男に忠告したのです!高貴なる姫様にはもっと相応しい者がいると!あの愚か者にも人の忠告を聞くだけの脳はあったようですなぁ。」
何が楽しいのか笑う男の言葉に、プルアはハッとした。リンクの手紙に書かれていた内容。この男の言う忠告。
つまるところリンクはこの男の忠告とやらのせいで出て行ったのだ。
リンクは脳筋なのでたぶん難しい事は一切わかっていないと思うが、真に受けて姫様のためになるならと考えたのだろう。
姫様は大丈夫だろうか。チラリと目を向けて後悔した。
ゼルダの顔から一切の表情が消えていた。無が鎮座しているとでも言うべきだろうか。
何が面白いのか笑いながら男はペラペラと喋り続けているが、対象的にゼルダの表情が虚無に変じているのに気付いてほしい。プルアはこの場にいない勇者を恨んだ。
「全く、栄光あるハイラル王家復興のため、姫様にはその青き血に相応しい相手が居ると言うのにあの平民は」
「そうですね。」
黙りこくっていたゼルダが不自然に明るい声で男の話を遮った。
とても美しい笑みを浮かべたゼルダを見たプルアはそっとゾナウギアのハイラル復興への活用方法に思考を逸らした。悪いのはリンクと目の前の男である。
「ええ、私はハイラル王家の血を引く最後の1人。王家の血を残すため相応しい相手と婚姻を結ばねばなりませんね。」
目にした者に畏怖を与えるような王族の笑みを湛え、ゼルダは男を見据える。
「では、相応しい相手とはどのような者でしょう?この100余年、領地を護り続けてきた者達?私と勇者の復活を信じ待っていた者達?それとも血を絶やさぬよう護り続けてきた貴族?このハイラルを護り戦った民達?最も相応しい者にその座を与えるべきだと思いませんか?」
「であれば。このハイラルを護る為、その生命を賭けて2度も魔を退けた勇者。彼こそ、封印の姫巫女であった私に最も相応しいのではありませんか?」
「勇者リンクに並び立つ程の功績を持つ者が他に居るのであれば、私の前に連れて来なさい。」
たおやかで、優雅。それでいて、支配者らしい圧倒的なオーラを纏う眼前の王女。
男は今の今まで無才の小娘と馬鹿にしていた娘が、真に仕えるべき君主であると理解し息を呑んだ。
王族に歯向かう不敬を働いたとして男を連れて行かせたあと、ゼルダは復興拠点に居る者達にテキパキと指示を飛ばし始めた。全ては相談なく一足飛びに行き先も告げず出て行ってしまったリンクを連れ戻すためである。
「待っていてくださいね、リンク。きちんと言葉にして伝えなかった私にも責があります。ですがあのような世迷い言を真に受けてしまった貴方にも責はあるのですよ。だからきちんと教えてあげます。ええ、絶対に手放しません。もう二度と。」
見る者を魅了するような笑みを湛えたゼルダは、リンクの置いていった英傑の服を愛しげに撫でながら呟いた。
ちょうど同時刻、タバンタ地方の手前でのんびり野営の準備をしていたリンクは盛大にくしゃみをしたし寒気も感じた。風邪を引いたのかもしれない。今夜は早く寝よう。
やることをやりきったつもりのリンクは、まさかゼルダが特大の好意を引っ提げて自分を追いかけて来るとは思っていないし、これが国を巻き込む大規模な鬼ごっこの始まりだとは全く気付いていなかった。
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