春うららな日差しと義務教育中に何度も聞いていた鉄板の台詞を高校でも聞くことになった森だが、今までと違うと感じたのは部活の勧誘の多さだった。
中学の頃は文化部はイラスト部と手芸部だったので、バスケ部に所属していた。
入試の際に志望動機はと聞かれ、校風が素晴らしいなどと云うように担任には云われていたが、実際は自分に合う偏差値の中で一番通いやすかったからだけだ。
そんな本音を言えば一学年上の高杉は僕がいるからと言えないのかとギャンギャン騒ぐが、高杉がいてもいなくても高校は高校でしかない。
決められたカリキュラムをこなし卒業する。
高校に入ったばかりだが大学に入るなら塾に通うべきかなどと体格とルックスに反して真面目な森があれこれ考えていると、周囲が一気に騒がしくなった。
「そこの一年、君だよ、いい体してるね、中学の時の部活は」
「あッ、バスケ部、です」
「丁度良かった俺はバスケ部の部長のモブ田、ポジションは」
「おい待て、バスケ部、抜け駆けは良くない、バスケ経験者でも関係ないバレー初心者でもうちは大歓迎だよ」
「球技系よりも彼には柔道が似合うだろう、」
その後、野球部、テニス部と体育会系の部長に囲まれた森だが正直どこにも入る気はない。なぜなら、
「おい、この森君は僕が一年前から口説き落とした男だぞ、勝手に群がるな」
体育会系男子のそばに居ると華奢な躯が目立つがそれでも上背はそこそこある男――高杉が一際目立つ声で誤解を招くような発言をする。
「口説かれた覚えはねぇ、茶道部存続させるから軽音部に入れだっけ、ですか」
「無理に敬語を使わなくて良い、そうだよ。我が軽音部のボーカルに気安く声をかけられては困るな」
「軽音部? 岡田と坂本顧問だけの、お遊び部活動だろ、まだ残っていたのか」
「今までは僕のギターテクニックと岡田君の天才的スキルで阿国君達ダンス部を盛り上げていたが、森君が入れば鬼に金棒、文化祭の花形は僕らだ」
なんと言われても気にしない素振りの高杉だが顔には十分出ており、人を小馬鹿にしたような目線で煽っている。
「どう考えても音楽とは無縁だろ、ボーカル? じゃあ、何か唄わせろよ」
「良いだろう、では森君、唄ってくれ」
「アカペラか」
「不安か……ここに練習用で弾いた曲があるから歌える曲を選んでくれ」
ギターを持ってくれば良かったと云いながら高杉はスマホを取り出して、曲目リスト画面を開いた。
「んじゃ、これ」
「では諸君、存分に僕の森君の歌声で狂うがいい、保健室は予約してある」
どこまでが仕込みかと森が高杉のつむじを見ていたがイントロが始まったので、仕方がないと歌い始めた。
「どうだいい声だろ……ギャラリー増えてないか?」
「散っていくだろうと思って選んだんだけどな、蛍の光の方が良かったか」
「いや短すぎるだろ、」
森が選曲したのは今は懐かしい伝言板にアルファベットを書いてスイーパーに依頼するハードボイルドアニメの主題歌だった。
日本人はこれを聴くと帰りたくなると聞いたので散っていくと思ったが、体育会系男子どころかスマホを振りかざした女子生徒まで群がっている。
「高杉、この子が軽音楽部の新しい子、えっちょっとイケメンじゃん」
「うわっ背も高いし、」
「……予想外の展開だ、女子生徒に森君の魅力が知れ渡ってしまったぞ」
「オレが顔がいいのは事実だし」
「謙遜しないのな、まぁ森君らしいや、文化祭前に放送流して彼は誰とするつもりだったが、計画を練り直さないと」
「ほーん、どうでもいいわ。それより茶道部の部室どこにあるんだよ」
「部室というか、使わなくなった用務員室に道具を置いている、僕が部長で何人か声をかけて人数だけは揃っているが、ほぼ幽霊部員だ」
「テメェはいるんだろ、問題ない、行くぞ」
「ここで勧誘すればメンバー一気に増えるぜ、いいのか」
「人数の問題じゃねぇだろ、侘びさびわかんないヤツ入らねぇ」
唄ったからもういいだろうと森は高杉の肩に腕を回した。
「入学祝いだ、茶と饅頭は用意してある、」
「そいつは良い、」
短い間の二人のやりとりにムズ痒くなった女子生徒が先に散り、体育会系男子も察しいつしか二人の周りには誰もいなくなった。
「そうだ後で、契約書書いてよ、週三はうちで君を借りるからな」
「多すぎねぇか」
「文化祭派手に暴れたいだろ。よろしくね、森君」
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