かづきさんの絵があまりに好きすぎて、しかし浮かんだ感想が「うちのお兄ちゃんなら路地裏に引き摺り込む」だったので、その話を書きました。無許可です。(あかんかったら消します!)
六分街のビデオ屋の店長であり伝説のプロキシ「パエトーン」からノックノックで相談があったのは3週間前のことだった。懇意にしている歌姫・アストラ嬢のもとに脅迫状が届いたとのこと。ソロコンサートを中止しなければ彼女に危害を加える、そんな内容だった。
アストラ嬢には影のように付き従うマネージャーがいて、彼女の調べによれば犯人はホロウを根城にしているらしい。歌姫本人に恨みがあるわけではなく、芸能人や政治家などの催し物を中止に追い込み損害を与える、迷惑な活動家だった。世の中をよくしていると信じているのだ。
有能なマネージャー、イヴリンから依頼を受けたリンは助っ人としてライトを選んだ。プロキシからの頼みとあれば当然、受けるに決まっている。
かくして、歌姫とマネージャーに正式に引き合わされたライトは「相応しいドレスコード」として、オーダーメイドのスリーピース・スーツが与えられた。なんでもイヴリン御用達の仕立て屋で、どんなに暴れても破れない服を作るそうだ。
それは大袈裟な話ではなく、ホロウに入ってエーテリアスと活動家の雇ったチンピラを蹴散らしたとき、動きやすかったしほつれの一つもなかったのである。
ライトが「勝って帰る」と宣言した通り、コンサート前に活動家の企みを阻止するべく四人でホロウへ入って完勝し、治安局に通報したのち、劇場へ戻り、アストラ嬢は素晴らしいパフォーマンスを披露したのだった。
リンとともに舞台の袖でコンサートを聴いていたライトは、終演後、楽屋に向かうリンと別れ、ごった返す裏方の通路を抜け劇場の裏口からそっと出た。報酬はすぐにプロキシの使う謎の口座から振り込まれていた。仕事を終えたのなら、あとは郊外に帰るだけだ。打ち上げに参加する気にはなれなかった。
口元が寂しくなりポケットに手を突っ込んだが、出てきたのはシルクのハンカチだった。棒付きキャンディはいつもの服の中だ。
仕方なしに歩き出そうとして、ふと、気配に気づいた。イアスを抱っこしたアキラがそこにいた。
「こんばんは、ライトさん」
「ああ」
まさか、会うとは思っていなかったので、ライトは動揺した。サングラスは相手の返り血を防ぐものだったが、この男の前では表情を隠すためのものになっている。
「あんたもいたんだな」
「VIP席をもらってしまったからね。リンを迎えにきたんだ」
「楽屋にいる」
「そうか」
アキラはまじまじとこちらを見つめていた。
途端にいたたまれない気持ちになる。
「あんまり見ないでくれ」
「どうして? すごくかっこいいのに」
「そりゃ、どうも」
「やっぱりライトさんの身体の線ってきれいだね。よく似合ってる」
「やめてくれ。照れちまう」
ライトは手のひらで口元を覆った。
褒められるのは単純に嬉しい。それがアキラからの、心からの賛辞ならなおさらだ。だが、それを彼に知られるのはどうにも照れ臭い。
「イアス、ここでちょっと待っててくれるかい」
アキラはイアスを地面に下ろした。イアスはンナンナ喋って、とことこと裏口に向かう。行儀良くちょこんと座ってリンを待つ構えになった。
それを見届けたあと、アキラはライトの手を取った。いつもならグローブを身につけているが、今は外していた。アキラの手が触れて、心臓が鼓動を早くする。
アキラはライトを引っ張り、劇場から少し離れた細い道に入った。そして、おもむろにライトを抱きしめた。
「…………」
ライトは息を呑む。おそるおそる腕を背に回す。抱き返しても、アキラは嫌がらなかった。
「アキラ」
「もうちょっと、このままで」
「あんたらしくない」
「そうかもしれない。あなたの正装を見て、ときめいてしまったんだ。今すぐここで押し倒したいくらいだよ」
「熱烈だな」
「このあと予定がなければ口説き落としていたのにな」
ライトは苦笑いした。どこまで本気かわからない。
「残念だな。どこの誰としけ込むつもりだ?」
「ライトさんも知っての通り、僕たちは今家計が火の車で貯金もすっからかんで馬車馬のように働かなくっちゃならないんだ。誰とどうにかなんてなるもんか。これから妹ともうひとつ案件を片付けなけりゃ」
アキラは実に名残惜しそうにライトから離れた。そしておもむろにデバイスを取り出すと無言でライトの写真を撮った。何枚も何枚も連写して撮りまくった。
「おい……」
「あ、自分用だから気にしないで」
「何に使うつもりだ」
「さあ? 想像にお任せするよ」
アキラはいたずらっぽく笑う。
ライトは言葉をなくした。
だから、アキラの手を取り、手の甲に口付けた。腰を屈めたそのままの姿勢でアキラを上目遣いに見る。
「キスをしても?」
「断れないな」
目を細めたアキラから了承の意を汲み取り、ライトは恭しくお辞儀をすると、彼のおとがいに指を添えて、そうっと口付けをした。
彼がその気になるなら、何度だってこの窮屈なお仕着せを身に纏っても構わない、そう思えた。
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