望月 鏡翠
2025-04-11 00:34:02
949文字
Public 日課
 

#1682 「クロモジ」「敷目」「さい越し 」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話

 冬のうちはどれもこれも同じに見えた。
 春になり、若葉がでてくるとようやく少し見分けがつくようになってきたが、まだ確信が持てなかった。花が咲いて、ようやく目当てのものを見つけることができた。実ればより、わかりやすい見た目になるだろう。
 若葉の根元には同じような明るい黄色で、そぼろたまごを散らしたような細かい花が咲いている。
 資料の通りだった。色々な特徴を見比べて、よしということにする。
 一枝二枝摘み取って、屋敷に戻った。
 師匠の部屋はいい匂いがする。乾いた木や草の中が混ざりあい、自分がハーブティーの中に迷い込んだような気分になる。
  もしかしたら注文が多い料理店みたいに、美味しく食べる前のように肉に香りをつけられているだけなのかもしれない。
 しかし、去年山道で転んで足を痛めたときに、どうやら童話に出てくる化け物ではなかったらしいと実感できた。
「クロモジ一つみつけるのに、どれだけ時間をかければ気が済むんだろうね、お前は」
 師匠は確認のために折ってきた枝を見て、ため息をつく。
 しかしクロモジで正解していたらしいことがわかっただけで、私にとっては大きな成長だった。
 嫌味を聞き流して喜ぶ私をみて、師匠はベッドに横になり、敷目板張りの天井を見上げた。
 足を痛めてから、この部屋で過ごす間、何度見上げた天井だろうか。寝て過ごすようになってから、すっかりと体が縮んでしまい、覇気が無くなってしまったように思う。師匠はもっと怖い人だったはずだ。
 そういうと師匠は、ちっとも怖がっていなかったくせに勝手をいうと苦笑いをした。
 怖い人であることと、それを怖がることとは別だ。
 そんなことはさておき、ベッドから起き上がることができない師匠の元に食事を持ってきて、共に食べる。山の様子を話したいし、毎日一人では味気ないからだ。
「そろそろ塩分を控えめにして、健康的に生活していった方がいいんじゃないですか」
 師匠は、さい越しに好物のいぶりがっこを取り上げた。
「知らんな。山以外のことは知らん」
 薬草を扱っているいくせに、健康なわけではないのだ。医者の不養生というやつだろうか。
 足が治って山を歩き回るようになったら、そのときはもう少し怖い師匠に戻っているはずだ。