らい
2025-04-10 21:00:24
4264文字
Public レオいず
 

レオいず30days⑩「スペシャルゲームセット」

学院編⑩ お題「ドッジボール」 ※高3
(注1)旧3A組 VS 旧3Bのみなさんによるドッジボール大会
(注2)一部、ドッジボールのルールが正確ではありません(この注意書きいる?)


「おまえと出会ったのは、高校一年生の春だった……。桜の木の下には死体なんか埋まっていないけど、綺麗な妖精さんなら存在しているのかも? そんな空想に明け暮れてしまうぐらい、おまえは美しいやつだった…………でも、中身はけっこう乱暴! 黙っていればべっぴんさん、くちを開けば鬼姑。プリプリ・ガミガミ・チョ~うざぁい、まいにち怒りの三段活用! おれは正直うんざりしてる、だっておまえは面倒くさい! ……だけど、今ならわかる。おまえだけはおれを大切に想ってくれたこと、知ってるよ。ちっとも素直じゃないけど、ちゃんと愛してくれたんだよな。……なぁ、神さまって残酷だよな。おれたちは、一体どうしてこんなデスゲームで殺し合いをしなくちゃならないんだろう。セナ、おれはおまえを愛してる。ほんとうは、おまえを手に掛けるなんてことしたくない。だけど戦わなくっちゃ、散っていったB組の奴らに顔向けできないから……許してくれ、セナ。おれは今から、おまえを殺………………ころ…………ごめん、タイム! 無理! 心の準備をさせてくれ~!」
「とっとと投げりょ~っ!」

 体育館の天井いっぱいに、なずなの怒号が響き渡る。緑のジャージに球を隠して、たまごを温める姿勢でうずくまるレオに、B組から「早く投げろよ!」と野次が飛んだ。
 夢ノ咲学院全学科対抗、卒業記念ドッジボール大会。アイドル科のみならず普通科、演劇科、声楽科、音楽科の総当たり戦で開催されるそれは、偶然にも三年A組・三年B組が競うことになった。猛者揃いの両クラスであったが、B組が圧倒的に優勢という大波乱。怒涛の猛攻により、A組の一人まで追い詰めたわけだが───とどめのボールを抱えたレオはもがき苦しんでいた。よりにもよって、ラストの生き残りが泉なのである。

「せなっち、直前まで『はあ? ドッジとか汗臭いスポーツじゃん。俺はとっとと当たって、外野でゆっくりさせてもらうからねえ』な~んて澄ましてたのにね。結局やけくそで逃げ回って、生き残っちゃってるし……
「瀬名ぁ~! 一生懸命に交わせ~っ! 頑張り屋さんのお前なら出来る~っ!」
「うるっさいなあ! 序盤で早くも死んだおまえらに、あれこれ指図されたくないんだけど!」

 外野から声援を送る薫と千秋に、泉が凄んでいる。美人が睨みつけると迫力があるよなあ、と他人事のように観察していると、今度はレオに向き直った。細い腰に手を当てながら、ボールを隠し続けるレオに迫り寄る。

「恐竜のタマゴを温めるみたいに、大事にボールを抱えてるけどさあ。そうやって情けを掛けられるの、チョ~ムカつくんだけど! っつうか、俺を殺せないって何? 俺のこと舐めすぎじゃない? とっとと掛かってきなよ! やれるもんならやってみな! ええ!?」
「丁か半か!? もうやだこいつ、違法賭博場の半分肩を出した姐さんみたいに迫ってくる! 怖すぎ!」
「ガタガタ抜かしてんじゃないよ! やる気がないなら、俺にそのボールをよこしなよねえ!」

 敵と味方を分ける中央のラインから、泉がはみ出した。審判のあんずが片手を上げながら、笛をピーッと鳴らす。

「はあ? ちょっとあんず、れおくんに肩入れするわけ!? 素人のあんたに芸能界の基礎を叩き込んでやったのは、いったい誰だと思ってんの~!?」
「理不尽にも程があるぞお、泉さん! あんずさんはルールに則ってジャッジを下しているわけで───」
「っつうか三毛縞! あんた一番図体がデカくて生き残りの筆頭候補だったのに、なぁ~んで俺を残して死んでるわけぇ? チョ~ありえなぁい!」
「うふふ。『ごろつき』は、ちょろいですね~」

 ドッジボールでは間違いなく無双すると期待が高まっていた斑も、「ぼくを、ころすんですか……?」と命乞いする奏汰の上目遣いにさくっと騙されてしまった。斑の胸倉を揺さぶり、やけくそに抗議する泉に大笑いしていると、外野のつむぎがにこやかに叫ぶ。

「月永く~ん。試合時間も押していることですし、そろそろ決着をつけちゃいましょう~!」
「青葉の言う通りだぜ。それに優勝チームには、高級焼肉弁当が振る舞われるってんだ。負けらんねェだろ、この戦い」

 殺気の波動に満ちた紅郎が、ぼきぼきと拳を鳴らす。「焼・肉! 焼・肉!」と湧きあがるフィールドに、レオは意を決して立ち上がった。個人戦ならまだしも、これは団体戦なのだ。チームの優勝が掛かっている以上、迷惑は掛けられまい。
 セナに、とどめを刺すしかない……
 レオがボールを抱え直すと、外野で欠伸をする英智と視線が合った。

「月永くん、早くとどめを刺してくれるかい。大事なお友達を殺したくないきみの気持ちは、充分に理解できるけれど……正直、僕は退屈しているんだ。せめて、堅物の幼馴染が身体を張るシーンを応援したかったのにな。鬼龍くんのボールをいとも簡単に当てられてから、ちっとも見せ場がないんだよね。こいつ」
「英智、貴様……! このままではA組の敗北が確定、クラスメイト全員が激渋茶一気飲みの罰ゲームを執行されるんだぞ! おまけに総代表である俺は、なぜかバンジージャンプの刑に処される! 度し難い……!」
「我輩、空に羽ばたく敬人くんの男気をちょっぴり拝見したいぞい♡」
「奇遇ですね、零! 私も右手の人のAmazingな跳躍に、胸のときめきが止まりません! ……というわけで『王さま』さんっ、ファイオ~♡ ファイオ~ン♡」

 長く伸びた髪の先端を器用に動かしながら、渉がチアリーディングの衣装に早着替えする。「日々樹~!」と声を荒げた衝撃で眼鏡が吹き飛んだ敬人に、涼しい顔をしていた英智がげほげほと笑い蒸せた。「大丈夫ですか~、英智く~ん!」とつむぎが叫んで、体育館は和やかな雰囲気に包まれる。
 固いボールを抱え直して、レオもつられて八重歯をのぞかせた。体育館には、今日だけで何度めになるかもわからない笑い声が反響している。昨年まで、互いに殺し合っていたのが信じられない。Trickstarが革命を起こすまで続いていた戦争が、やっと終焉を迎えたのだ。手と手を取り合ってみんな友達、なんて綺麗ごとを並べるつもりは更々ないけれど、それでも泣き喚いて怒り狂うよりはずっといい。笑い声は、世界共通の音楽だ。
 レオは正面を向いて、たったひとりで立ち尽くしている泉を見据える。視線が絡むなり、泉は自信満々に笑った。

「やっと戦ってくれるみたいだねえ、れおくん」
……そうだな。おれはおまえと真剣に戦うよ」
「月永! 瀬名の美しい顔に傷ひとつ付けたら、ただではおかないよ!」

 ドッジボールは野蛮だから、という理由で不参加を決めている宗が、体育館の壁際から野次を飛ばす。レオが狂犬のごとく「シュ~うるさい! がるるるるるる!」と威嚇すれば、紅郎に肩を叩かれた。

「っつうことで、月永。そろそろ覚悟決めろや」
「試合時間もそろそろ厳しくなってきたしな~。運命は残酷だけど、頑張れっレオちんっ」

 小柄な体でエールを送るなずなに「任せろ!」と返事して、レオはボールを構えた。
 泣いても笑っても、これで終わり。一歩踏み出して、おおきく振りかぶった。

「愛するセナ! おれが直々に引導を渡してやるよ! さあっ、安らかに眠れ!」
「受けて立つよぉ! あんたのへなちょこボールなんか華麗に交わして───わっ」
「え」

 張り切りすぎたせいか、泉がバランスを崩して尻もちをつく。レオは振りかぶったまま、硬直した。

「セナ……だいじょぶ?」
「最悪……
「うん、だよな……。大勢が見てるまえで……男のプライドが傷つくよな。……手ぇ貸してやろうか……?」
「は?」
「怖……
「そんなことより、早く……殺して」

 敗北を察してうなだれているのか、羞恥心に耐えきれず俯いているのかわからない。しかし、無抵抗のジャージ姿で死を待つ泉に、レオの決意が固まっていく。心の奥底に眠る、勇敢な獅子の魂。正義の咆哮が、体育館にとどろいた。
 もう二度と傷つけたりしない。レオはセンターラインを踏みだして、泉の前に躍り出た。

「やっと平和な世界になったのに、わざわざ殺しあう必要があるか? 世界で一番だぁい好きなセナ。抱き締めるどころか共倒れになって、おれだけ無様に逃げだした! ……でも、守るのも守られるのも、高校三年生でもう終わりっ! これからは対等に、互いの背中を預けて───一緒に楽しく戦おう!」
「はあ?」
「セナ! 今度こそおれは逃げない! おまえをひとりぼっちで戦わせたりなんかしない! 世界じゅうを敵に回しても、おれはおまえの傍にいる! ずっと隣で笑っていようっ、しわくちゃのおじいちゃんになるまで、百年先も永遠にっ! ……というわけでおまえら、短いあいだだったけど世話になったな! 耳かっぽじってよぉ~く聞けっ、おれはA組に寝返ることにしたっ!」

 手離したボールが、B組の陣地に転がっていく。ピピーッ! と鳴り響くホイッスルをものともせず、レオは高らかに笑った。

「味方を裏切るなんて、馬ッ鹿じゃないのぉ?」
「わはは。B組のみんなには悪いけど、おれには一生愛を捧げると誓ったやつがいるから! はじめて出会ったときから、ずう~っと!」
「はぁ、呆れる。……でもまぁ、最後くらいは」

 あんたのバカに、付き合ってあげるよ。
 そう呟いて、泉はあどけない笑みを輝かせた。あまりにも綺麗なものだから、レオの頬はほんのり紅く染まってしまう。
 夜空に映える月は、真っ昼間にも美しく光ること。ときには薄暗い井戸のような心にさえ、太陽の光を届けてくれること。泉と出会うまで、知らなかった。
 これからもどうか、ずっと隣でおれの心を照らしてくれる? ───ムードもへったくれもない体育館で告げることではないから、試合が終わるまでこの台詞はお預けだ。

「おまえりゃ、いい加減にしりょ~っ!」

 なずなの咆哮が、ふたたび体育館に響き渡る。
 レオはこの後、ルール違反でつまみ出され、更にはバンジージャンプの刑を課せられる羽目になるのだけれども───これまでの生き地獄と比べれば、そんなものは些細な罰だった。
 最後に笑ったほうが勝ち。
 どれだけ傷ついても、美しい初恋が隣で笑ってくれるなら。それはレオにとって、なによりの優勝賞品なのである。