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ゆに
2025-04-10 19:56:17
2356文字
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あの後の四少の幻覚
違う…!て自分でなるまで公開
理髪店からそれこそ全身を引き摺ってたどり着いた、おそらく先程殴り飛ばしたうちの誰かが住んでいたであろう部屋の中。
満身創痍のその先があるとしたら、まさしく今だ。
四人全員がそう感じているはずの状況で、突如洛軍の頬に信一の拳が叩き込まれた。
「な、なんだ突然、どうして、」
満身創痍のその先ゆえに、それこそ数ヶ月前に追い回された頃とは比べものにならないほど弱ったそれではあったが、満身創痍は食らった側の洛軍とて同じこと。しっかりと痛い。
痛ぇ、とぼやきながら手の関節を擦る信一は、洛軍のどうして、に答えずにいた。
こちらのほうが余程痛い。わざとらしく、普段そういったことをやりなれないので、なんだかおかしいくらい大袈裟に殴られた頬を擦った洛軍は、古びたソファに腰掛けている二人に視線を移した。信一、突然どうしたんだ。そんな反応を期待して。
ところが十二はまだしも、一緒に目を丸くしてくれるだろうと期待していた四仔までもが顔色一つ変えておらず、洛軍は戸惑い立ち尽くすことしかできずにいる。
見かねて口を開いたのは十二だった。
「まぁ、仕方ねぇよ」
「仕方ない」
何が仕方ないんだ。そう問う前に四仔も続く。
「あるだろ? ブン殴られる理由がよ」
に、といつものように口角をあげ、十二は言った。
「理由
……
?」
「わからない
……
」
しばらくの静寂ののち響いた、あれだけの大立ち回りをした男とはとても思えぬ弱々しい声に三人は思わず笑った。
わからないのかよ、という呆れと、少しの安堵で。洛軍の口からもしも。もしも、「俺のせいで、」などと言おうものならば。今度は重たい体を引き摺って、改めて三人で殴り飛ばしてやらねばならなかったからだ。
洛軍の、ここへ来た時からずっと変わらない、三人から見るとこの場所には少し明るすぎるように見える瞳が、答えを求めて三人を順番に見据えた。真っ直ぐに。
信一、十二、四仔。信一、十二、四仔。信一、
……
。
まさか三順目が回って来るとは思わず、とうとう堪えきれなかった笑い声に煙を纏わせながら信一は言った。
「一人で、格好つけようとしただろ」
あの時。
そう付け加えられ洛軍はようやく合点がいった。そう、あの時。落下して、手を離せ、と言ったあの時だ。
一人で格好つけようとして。
――
自分は死んでも構わない、と。
必死だった。とにかく必死だったので、死んでもいい、だなんて細かいことを考えていたかと言われれば、そうでもない気がする。
「いや、
……
」
やや分の悪さを感じつつも洛軍が否定しかければ、三人から向けられる視線はわざとらしく冷えた。それはそうだ。あれで死ぬ気はありませんでした、は、ちょっと、だいぶ、通らない。
言いかけた先を飲み込むことで否定の意志がないことを示した洛軍を三人は大げさな溜息でもって受け入れた。
「テレビの見過ぎだな」
十二は肩を竦め、四仔もうんうんと頷いている。
「そういうことだ。あぁいうのは、ここでは禁止だぞ」
それだけ言って、これで話は終いとばかりに背を向けた信一を洛軍は呼び止める。
「
……
信一」
「なに、
……
、?!」
振り向きざまに食らったのは拳で、確かに数ヶ月前追いかけ回していた頃に食らったものよりは弱い、弱いけれども今はこんな状態であるし、なんなら先程自分が入れた一発よりも遠慮がない。ように、信一は感じた。
「
……
先に一人で格好つけようとしていたのは誰だ。あぁいうのは、ここでは禁止なんだろう」
――
ここでは禁止、は、俺だけじゃない。お前もなんだぞ。
伝わっただろうか、と真面目な顔をして視線を向けると、信一の後ろで先程自分が殴られた時にして欲しかった顔を二人がしているのが見える。
そして、信一までもが同じ顔をしている。ここでは禁止だと言った時は、眉根を寄せて煙を吐いて。それこそやり過ぎなくらい格好つけていたというのに。
真面目な顔が保たなかった洛軍につられて、ふは、と今度は四仔が笑った。
「お前もブン殴られる理由があるわけだ」
「言われてみりゃそうだな」
あれで自分だけ殴られちゃ、納得できねぇよなぁ。後ろに大きく腕を伸ばしてケラケラと笑った十二は、傷に障ったようで悶絶している。
四仔から早々に笑みが引っ込み、その顔はすっかり『この阿呆め』に変わっている。
殴られた信一は、今新たに切れたのか先程から切れていたのか分からない口元を拭うと、大げさに溜息をついてみせた。
「
……
わかってねぇなぁお前は。俺はあん時あいつだけ落として、自分はこう
……
こう
……
仰け反って、何とかする予定だったんだよ」
四仔の『この阿呆め』の表情はより濃くなって、先程まで痛い痛いと丸くなっていたはずの十二は、こうやって、を実演して見せた信一にどこにそんな元気があるのだというくらいに笑い、また痛がって、四仔はとうとう阿呆めと口にした。
いつも通りには程遠い。けれども、ここにいたい、と、洛軍が思った場所は確かに今ここにある。
「
……
麻雀するか?」
「正気か? 俺は寝る」
「俺も」
「フラれてやんの〜
……
、痛、あいたた
……
」
このまま休んでしまうのがもったいなく思えて口にしてはみたものの、洛軍自身もさすがに気を失いそうに疲れている。十二の軽口に答えることもなく床に腰を下ろすのと合わせて瞼が閉じる。もう寝てやがる、と言った四仔の隣では十二が船を漕いで、壁に寄りかかっていたはずの信一もいつの間にかずるずると床に脚を投げ出している。肩に十二の頭が乗りそうになったのを押しやったところで、四仔の顎が胸板に近づいていった。
ようやくの、だけれどもきっと束の間の休息を取る四人を、城塞をうまくくぐり抜けてやってきた風が撫でた。
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